1. 【一攫千金】多数決でゴリ押すつもりがミーユの様子が変!?
1. 【一攫千金】多数決でゴリ押すつもりがミーユの様子が変!?
あれから2週間が経った。
えっ?あれからって何って?ああ、私がクロスのパーティーとの勝負に勝って、念願のシルバーランクに昇格してからね。
私はこの2週間、毎朝起きるたびに「実は夢なんじゃないか」と不安になり、自分のギルド冒険証をこっそり確認している。
もちろん色はくすんだ銅色じゃなく、ピカピカのシルバーのままだ。でも、そんな小心者な行動がバレると恥ずかしいから、みんなには内緒にしている。
特に今、目の前のカウンターで昼間からダラダラと酒を飲んでいる『死神』のおじには。バレたら何を言われるかたまったもんじゃない。
「ああ?何ニヤニヤしながらオレを睨んでるんだ?また心の中でオレに文句でも言ってるのか?」
「睨んでませんけど……?それは被害妄想では?」
チッ。私の心の中が読まれてる。
私たちはシルバーランクになってからも、無難に依頼を毎日こなしている。今はミーユとアティが町外れへお届けの依頼に行っている最中だ。だから私とブレイドさんはギルドで待機している。ある意味罰ゲームだ。
「おいエルン」
来た。また文句だ。
「そろそろ大きな依頼をこなさないと、パーティーの活動資金がなくなるぞ?リーダーなんだから、資金管理くらいまともにやれよな」
「はい???」
おいおい。うちのパーティーの資金を一番無駄に散財してるのは、あんたのそのバカ高い酒代なんだよ。なんで不当な理由で私に説教してるんだ、このおじさんは。やっぱりこのおじさんは私のこと嫌っている。文句言いすぎ問題だからね。
思い切り言い返してやろうと大きく息を吸い込んだ時――ギルドの掲示板のほうから「おい、見ろよこれ!」「マジかよ……」と、異様にざわついた声が聞こえてきた。
「ん?何かあったのかな?」
「緊急掲示板の更新か。この時間には珍しいがな。エルン、ちょっと確認してこい」
「はいはい。分かりましたよ」
私は席を立ち、大きな人だかりが出来ているギルド掲示板を確認しに行く。しかし屈強な冒険者が多すぎて、隙間からでも掲示板がよく見えない。決して私の身長が低いというわけじゃないんだけど……仕方ない、近くにいた顔見知りのギルド冒険者に聞いてみるか。
「あの、何かすごい依頼でもあったの?」
「えっ?ああ、『壊し屋』か。すごい依頼なんてレベルじゃないぜ。なんと、北にある巨大国家『ライゼンバッハ帝国』の第三皇女様が行方不明らしいんだ。それで国から直接、とんでもない額の懸賞金が出たんだよ」
……『壊し屋』。これが今度の私の呼び名だ。噂でクロスのパーティーをたった一人で壊滅に追い込んで、ギルドから追い出した極悪人と言われているらしい。
まぁ、あながち間違いではないんだけど……ただひとつだけ、全力で訂正させてほしい。クロスたちが東のウインダリア王国へ行ったのは、完全に『あいつら自身の意志』だからね!?決して私が脅してギルドから叩き出した訳じゃないから!冤罪だよ!
「ライゼンバッハ帝国の皇女様か……えっと、懸賞金は……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……!?」
これは……
私は慌てて席に戻り、ブレイドさんの目の前でバンッ!と机を叩き、ブレイドさんの顔をまっすぐ見る。ブレイドさんは『またかよ』的な嫌そうな顔をしていたが、そんなのお構いなしに早口で話す。
「ブレイドさん!私たちパーティーは今から、行方不明のライゼンバッハ帝国第三皇女様を探すことにする!以上!」
「ああ?うるせぇな。お前は声がでかいんだよ。っでなんだ? 掲示板に面倒な人探しの依頼でも貼り出されたのか?」
「ただの人探しじゃないよ!しかも懸賞金が出るんだって!その額なんと100万G!これなら当分資金には困らないし、もうやるしかないでしょ!」
「やるべきってお前なぁ……」
意気揚々と鼻息を荒くする私を見て、ブレイドさんは深くため息をついて呆れている。
懸賞金が出る依頼は今までやったことがないし、これだけ高額なものも初めて見た。私はさっき、不当な理由で説教されたことをその本人にキッチリ言い返してやることにする。
「大きな依頼をこなさないと資金不足になるんですよね?リーダーとして立派に資金管理をしてる私を褒めてくださいよ、ブレイドさん?」
「あのなぁ……皇女探しなんて、情報も足取りも掴めないほぼ不可能なことをやる時間がもったいない。懸賞金が多ければ多いほど、裏に厄介な連中が絡んでいる可能性のある危険な依頼だろ。それにそもそも、オレたちみたいな昇格したてのシルバーランクが受けられる依頼なのか?」
「ふふん。安心して、それは抜かりなく確認したから。シルバーランク以上のパーティーなら自由に受けられます!」
ブレイドさんが反対するに決まっているのは、初めから分かりきっている。でも、ミーユとアティの賛成をもらえれば依頼を受けられる。そうだ、数の暴力『多数決』だ。
私が不敵に笑みをこぼして勝利を確信していると、ちょうどギルドの扉が開いて、ミーユとアティが依頼をこなして戻って来た。
「只今戻りましたぁ~」
「いや~疲れた疲れた。日差しが強くて喉乾いちゃったよ~。あっエルン、その冷たいジュース頂戴!」
「なんか、掲示板の前がすごく騒がしかったですけど、何かあったんですか?」
よくぞ聞いてくれたアティ。私はさっきあった出来事と、掲示板に書かれていた情報を二人に話す。
「えっとね、ライゼンバッハ帝国の第三皇女様が行方不明なんだって!詳しい似顔絵や特徴なんかは書かれてないみたいだけど、とにかく見つけた人には莫大な報酬が出るらしいよ」
その言葉を聞いた瞬間、ミーユの肩がビクッと跳ねたような気がした。
「それでね、次の依頼をその皇女探しにしようと思うんだけど!」
ミーユとアティなら大丈夫、高額報酬だしきっと私に賛成してくれる!覚悟しろおじさん!
「大変そうですけど……エルンさんが決めたならいいんじゃないですか?もし悪い人に攫われてたりしても、私がハンマーでミンチにして助け出しますし。私はやります!」
アティはいつものように、聖女のような可憐な笑顔でとんでもなく物騒なことを言って賛成してくれた。
「……私は、やめたほうがいいと思う」
「でしょ?ほらブレイドさん、2人も賛成して……えっ、ミーユ?」
思惑が外れ、ミーユが明確に反対してきた。この展開は読んでいなかったんだけど……。
「だ、だって、皇女様なんてどうやって探すの?情報なんてほとんどないだろうし。そんな途方もない依頼をやるくらいなら、コツコツと手堅い討伐依頼とかをしたほうが良くない!?」
いつもの飄々とした笑顔は完全に消え去り、ミーユはどこか焦りを誤魔化すように、言い訳めいた早口でまくしたてた。
「いやミーユ。今、私たちパーティーの資金がブレイドさんの酒代のせいで底をつき始めているんだよ。だからこの一攫千金を狙おうと思っているんだ。それに、困ってる皇女様を放っておけないし」
「そ、それなら、私がもう一つ別の依頼をこなすようにするからさ!それでよくない?」
少しギスギスした雰囲気になる……。
いつも私の意見には絶対に乗ってくれるミーユが、ここまで頑なに反対するなんて予想外だ。そういえば、ミーユの使っている魔導銃はライゼンバッハ帝国の国産物だったはずだけど、何か関係があるのかも……不自然だし。
そんなやり取りを黙って見ていたブレイドさんが、コツンと空になったグラスをテーブルに置き、重い口を開いた。
「……いや、その依頼受けてみるか。懸賞金が高額な任務は危険が伴うが……お前たちの実戦の勘を養う成長にもなるからな」
「えっ!いいのブレイドさん!?」
「ああ?まぁ……そのなんだ……」
ブレイドさんは、不自然なほどに表情を強張らせているミーユをチラリと一瞥すると、わざとらしく深くため息をつき、腕を組んで条件を出した。
「ただし、期限を決めてやるぞ。いつまでも手がかりのない依頼だけやっても無駄だからな。期間は『1週間』。それで手がかりすら掴めなかったら諦める。どうだ?それならミーユも文句はないだろう?」
「……それなら、いいけど」
ブレイドさんの絶妙な助け船に、ミーユは小さく息を吐いて頷いた。
ミーユがあまり乗り気じゃないのが気になるし、少し目を逸らしたのが気になったけど、とりあえず1週間の期限付きで、そのライゼンバッハ帝国第三皇女様の捜索依頼を行うことに決まった。
ちなみに、緊急の掲示板の依頼は、わざわざ受付で受理の手続きをしなくても自由に捜索して大丈夫なようになっている。他の冒険者がいつの間にか見つけて終わっていることもあるし、それがガセネタの場合もあるからだ。
でも、100万Gという破格の懸賞金の額から考えて、ライゼンバッハ帝国側からの正式な依頼っぽいし、今回のは信憑性がありそうだ。
「よし!それじゃあ100万Gの懸賞金を狙うために、みんなで気合入れて頑張ろう!」
「おお~です~!」
「……なんでオレが気を使わんといけないんだ」
ということで、見切り発車感はあったけど、高額懸賞金を手に入れてパーティーの資金難を救うために、私たちはライゼンバッハ帝国の第三皇女を探すことになるのだった。




