13. 【追放者の反逆戦】~エピローグ~
13. 【追放者の反逆戦】~エピローグ~
勝負の日から2日がたった。私たちのパーティーはクロスのパーティーとの勝負に見事勝利した。
約束通り、クロスたち全員から私とアティに謝罪の言葉が送られた。プライドの高いクロスは顔を真っ赤にしてワナワナと震え、リーナやロードもかなり納得のいってない渋い顔をしていたけど、それでも最後にクロスは深く頭を下げた。関係ない新人のオリバーとアリシアが、土下座の勢いで一番謝っていたような気もするけど。
クロス達のパーティーは「このままでは終わらん、武者修行を一からやり直す」と言って、東のウインダリア王国のギルドへ移ると最後に言葉を残して旅立っていった。
まぁ、私を倒すことを目標に強くなるのなら、あいつらには私の存在が常に高い壁として立ち塞がるという事だ。これに懲りて、肩書きや見た目じゃなく素直に人を見てあげることができればいいのに。パーティーとしての実力や連携は確かにあるんだし。
目的の依頼物をギルドに届けて、私は無事に目標だったシルバーランクへ昇格を果たした。受付嬢のルナレットさんも自分の事のように喜んでくれていた。こうして私はギルド冒険者としてクビを免れ、在籍し続けることができたのだ。
まぁ、依頼を失敗して追放されたら終わりなのは変わらないけど……今の私にそんな事しそうなのは、私の目の前で昼間からダラダラとお酒を飲んでいるこの不良おじさんだけだと思うけどね。
私は真新しいシルバーランクの冒険証を手に握りしめ、太陽の光にかざしてそれを見る。何回見てもいいものだ。輝きが違うよね!ブロンズのくすんだ色と、シルバーの洗練された光沢じゃ!不思議と笑みがこぼれてしまう。
「そのニヤけた顔うぜぇ。お前……今日だけで何回そのシルバーランクの冒険証を見てんだよ?酒がまずくなる」
「いいじゃないですか!私、こんなに長い時間シルバーランクの冒険証を持ったことないんですから!」
「まだ昇格して2日だが?」
「あ~うるさい!その2日だって持ったことないんだよ私は!」
嫌味か?せっかくの余韻を台無しにしてくる。そんな文句を言い合っていると、そこにルナレットさんがやって来る。
「相変わらず仲がいいわね、エルンちゃんとブレイドさんは。あっ、お酒のお代わりここに置いておくわね」
「どこが仲良しに見えるんですか!?」
「ルナレット、お前は眼鏡をかけろ。目が腐って見えてないぞ」
「そう?私には微笑ましくて仲の良さそうな2人が見えてるけどね?」
ルナレットさんはふふっと微笑みながら、自分の仕事に戻ろうとする。ただ、何かを思い出したかのように立ち止まり、振り向いて私にこう言ってきた。
「あっ、そういえばエルンちゃんって、今このギルドでなんて呼ばれているか知ってる?」
「えっ、『便利屋』ですよね?」
「前はね。今は『壊し屋』らしいわよ?なんか、あの有望だったクロスのパーティーをたった1人で物理的にも精神的にも壊滅させて、ギルドから追い出したって噂が広まってるみたい。やるわね、エルンちゃん?」
いや、全然嬉しくない。『便利屋』の次は『壊し屋』か……。だからここ2日で、ギルドの他の冒険者たちが私の事を見る目が、「馬鹿にした目」から「触れたらヤバい奴を見るような恐怖の目」に変わっていたのか。
でも、せっかくの二つ名なら『白銀の妖精』とか『守護天使』みたいな、もっと可愛いのが私は欲しい!『壊し屋』なんて、まるで巨大なハンマーを振り回す筋肉ダルマみたいじゃないか。チラッとアティの顔が浮かんだが、深く考えるのはやめた。
「エルン。ところで、ミーユとアティはどうした?」
「なんか用事があるって昨日言ってましたけど?だから今日はギルドには来ないですよ?」
「はぁ?なら今日は休みだ。オレはやる気が起きない」
「ダメですよ!昇格してもういくつか依頼は受けてるんですから。そもそも、ブレイドさんがやる気ある時っていつなんですか?見たことないですけど。ガタガタ子供みたいなこと言ってないで、ほら、行きますよ!」
私はブレイドさんの腕を掴み、強引にギルドの外へ連れ出す。なぜかルナレットさんがそのやり取りを見て、また嬉しそうに微笑みながら私とブレイドさんを送り出してくれる。
そう、今日は私がシルバーランクの冒険者になって初めての依頼だ。
「まずはお届けの依頼と、あとハイゴブリン討伐。そのあと薬草の素材探しですね!」
私は右手の指を折りながら本日の予定をブレイドさんに伝える。それを聞いたブレイドさんが呆れた顔で言ってくる。
「お前……なんでそんなに一気に依頼を受けてるんだよ?」
「いや、シルバーランクになると同時に3つまで掛け持ちで受けられるから、つい嬉しくて受けちゃいました!」
「どっちが子供だよ。少しは考えて依頼を受けろよ。2人だけでサクッとこなす量じゃねぇだろ」
「今日1日で全部やるって言ってないじゃないですか! とりあえず行きますよ。出来るところまでやりますから!」
そしてその日の夜。
依頼をこなして私とブレイドさんがギルドに戻ると、酒場の一角を借りて少し遅めの祝賀会を開くことにした。なんと、用事があると言っていたミーユとアティが、サプライズで企画して準備してくれていたのだ。
テーブルには豪華な肉料理や色鮮やかなサラダが並んでいる。こんなに温かく歓迎されたことなんて1度もない。あと意外だと思うけど、ブレイドさんは「酒がタダで飲めるなら何でもいい」と悪態をつきながらも、一応ちゃんと参加してくれている。
「エルンさん。シルバーランク昇格、本当におめでとうございます!」
「うん。ありがとう。アティもミーユも、昇格おめでとう!」
「私はあまりランクとか気にしてなかったから実感ないけどね。でも、エルンとパーティーが組めて本当にラッキーだったよ。ありがとね、リーダー」
お礼を言うのは私の方だけどね。ミーユが加入してくれたから頑張れたのは正直ある。ブレイドさんと2人きりだったら、メンタルが削られてここまで頑張れたか疑問だ。もちろん、前衛で一緒に体を張ってくれたアティにだって心から感謝している。
とりあえず今はこの祝賀会を全力で楽しまなきゃ!これはみんなで頑張って勝ち取った、最高のお祝いだから。
そんな賑やかな中、窓際の席で窓の外の夜空を見ながら、ブレイドさんは1人静かにお酒を飲んでいる。そこにルナレットさんがやって来て何か話している。そういえばあの2人は、私がここに来た時からすごく仲がよさそうだったよね?
「あれ?あんなに可愛らしい女の子たちが居て両手に花なのに、こんな端で1人で飲んでるんですか?みんなの輪に混ざらないんですか?」
「両手に花?どこがだよ。オレはあんな騒がしいガキどもに興味はねぇ。それに……」
ブレイドさんは手元のグラスを揺らし、フッと自嘲するように目を伏せた。
「オレみたいな愛想のない薄汚れたおっさんが混ざると、あいつらも気を使ってゆっくり楽しめねぇだろうが。命懸けの依頼から離れたこういう場所くらい、同世代のガキ同士で気兼ねなく笑わせてやればいいんだよ」
「そうですか?エルンちゃんたちは、ブレイドさんともっと仲良くしたいと思っていると思いますけどね?」
「うぜぇ……お前、わざわざそんなお節介を言うためにオレの所へ来たのか?さっさと仕事に戻れよ」
私はブレイドさんにどうしても直接言いたいことがあったので、2人の会話が途切れたタイミングでブレイドさんの所へ行く。
「ブレイドさん。お酒、つぎますよ?」
「ああ?……ああ……なんか、お前みたいなガキに酌されると気持ち悪いな」
「あのですね?そういう時は素直に『ありがとう』と言えないんですかブレイドさんは?」
私はブレイドさんの空いたグラスに、なみなみとお酒を注ぐ。本当にこのおじさんは反抗期の子供か? まるで私がお母さんみたいだ。まぁ、そんなことはどうでもいいか。
「あの、ブレイドさん」
「なんだ?」
「その……本当に、ありがとうございます。ブレイドさんが拾ってくれなかったら、私はクロス達を見返したり、シルバーランクに昇格することなんて絶対にできていなかった。本当に……ありがとう」
「いちいち大袈裟なんだよ。まだ底辺を脱して、ようやくシルバーランクになっただけだろうが。この先、もっと理不尽で大変なことも起きる。『閃光』と同じくらいのギルド冒険者になるには、それくらいの覚悟が必要なんだぞ」
「……うん。分かってる」
私はまっすぐに、ブレイドさんの黒い瞳を見つめた。
「あの……これからもずっと、一緒にパーティー組んでくれますよね?私と一緒にこのまま、《《また》》世界一のギルド冒険者パーティーになりませんか?ブレイドさん!」
私とブレイドさんは、ルナレットさんの提案でたまたまパーティーを組んだだけだ。ブレイドさんは元『閃光』。私みたいなそこらへんの一般ギルド冒険者についてくる義理も理由もない。普段はギルドで呑んだくれてて、この超絶可愛い美少女の私には文句や意地悪しか言わないけど、ブレイドさんは間違いなく伝説級の実力者なんだ。
(――ブレイド君!私と一緒に世界一のギルドパーティーにならない!?いいよね?いいよね?決まりね!)
「………」
「ブレイドさん?」
一瞬、ブレイドさんの目が僅かに見開かれた。彼の中で、今の私の真っ直ぐな言葉が、かつての誰かの言葉と重なったような気がした。
「……甘ったれるな。何が世界一だ。そういうデカい口は、もっとオレが納得するくらいの実力をつけてから言うんだな」
「痛っ!」
そういうとブレイドさんは明確な返事をしないまま、私の額を指で軽くピンッと弾き、立ち上がってしまった。
「う~っ寒。窓際は冷えてきたな。オレも何かつまむか。おいミーユ、オレにも取り皿をくれ!アティ、お勧めの料理はどれだ?」
「……あとで倍返しにしてやるからね」
でも……私には見えたんだ。立ち上がって背中を向けたブレイドさんの横顔が、窓から差し込む月明かりの下で、とても優しく笑っていたのを。
もう、それは答えが出ているのでは?全く素直じゃない、私よりもずっと年上の不器用なおじさんのくせに。
「エルンさん何してるんですか~!お肉の料理が冷めてしまいますよ~!」
「あっゴメン!今行くね!」
私、エルン=アクセルロッドはこうして過去に追放を29回も受けたけど、ギルドで嫌われ者同士パーティーを組んだら、ある意味最強無敵になれたのでした。
でもね。これはまだ始まりの物語に過ぎない。
私と、最強の仲間たちの本当の冒険は――ここから始まるのだから。




