12. 最強の光魔法を粉砕!もう誰も私を便利屋とは呼ばせない
12. 最強の光魔法を粉砕!もう誰も私を便利屋とは呼ばせない
私たちはブレイドさんと合流し、クロスから『フレイムドレイクの爪』を奪い依頼物をすべて集めることができた。あとはこれをギルドに届けて依頼完了だ。これで私たちは勝負に勝ち、シルバーランクへ昇格できる。ギルド冒険証の剥奪はなくなったし、みんなも辞めなくて済む。良かった……本当に。
「待て!……オレは認めない!」
「うわ~……格好悪いよ?潔く負けを認めたら?」
ミーユは呆れながらそう言い放つ。
「うるさい!そんなことできるか……オレはクロス=セントクレア。幼いころから光の女神に祝福を受けてる、選ばれた特別な存在なんだぞ!!!!!」
クロス=セントクレア。この世に神聖な光の魔法剣を使うことのできる人物は、確かに数えるくらいしかいない。悪しき魔物討伐において人間の秘密兵器ともいうべきか、間違いなく優遇された存在なのは言うまでもない。そして彼なりに、パーティーリーダーとしての責任とプライドを持って行動している。そこだけは尊敬する。
そこへ、息を切らして遅れてクロスのパーティーが到着した。
「すまないクロス……遅れを取った」
「これどういう状況!?まさか……あのクロスが負けたの?」
「え~……信じられないんだけど」
状況を把握できていないみたい。そう、あんたたちは負けたんだよ。『便利屋』と呼んで見下していた私のパーティーに。
その時、ブレイドさんが唐突にあることを提案する。
「……確かに、このまま依頼物を届ければオレたちの勝ちだ。ただ、オレはあの時ギルドでこう言った。間違ってもエルンがお前らに劣ることはないと。ならこうしよう。エルンとクロスで一対一の勝負をし、勝ったほうのパーティーが勝ちということにするのはどうだ?それならお前たちも不満なく飲めるだろう?ただし、クロスが負けた時は……無能扱いして追放したエルンとアティに土下座して謝罪しろ」
「はぁ?オレが、魔物も倒せないエルンと戦うだと?ふざけてるのか!なぁみんなも言ってやれ!こいつはただの便利屋だとな!」
クロスは仲間たちに向かって同意を求めるように言い放つ。いつもならリーナたちが一緒になって私を嘲笑ってくるはずだが、彼らは青ざめた顔で俯き、もうその声が聞こえることはない。
それは、彼らがすでに私の力に圧倒され、絶望を経験しているからだ。この場で私の本当の力を見ていないのは、クロスだけなんだから。
「お前ら……チッ……いいだろう!勝負だエルン=アクセルロッド!オレが直々に引導を渡してやる!」
「あ、あのブレイドさん!ちょっといいですか?」
「なんだ?怖じけづいたか?」
「そんなことはないですけど……勝負って、私は自分からクロスを攻撃して倒すことはできませんよ?どうやって勝負をつければ……」
私の不安そうな声に、ブレイドさんはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「《《勝負をつけろ》》と言ってるんだ。言わなくても分かるだろ?お前は西で奴らをどうやって退け、素材を集めてここにいるんだ?」
「あっ……」
「その力で、やつらの心を完全にへし折って来たお前なら、どうすればいいか理解できるだろう?この戦いが、お前がこれからギルド冒険者として、同じような任務で対人を相手するときの勝ち方だ。そしてお前はクロスを正面から負かす事で、お前を不当に扱って追放した奴ら全員を本当の意味で見返すことができるんだ。オレの計らいに感謝しろ」
勝負をつける……相手の心を折り、クロスに負けを認めさせるということか。私の『形態模写』と『相殺の調停』の神格スキルを使って。
さらっと難題を与えてくるな、このおじさんは。やっぱり私の事嫌いでしょ?
「わかった。勝負だよクロス。パーティーのリーダーとして、どっちが強いか決めよう!」
「気に入らないな……底辺のお前がパーティーのリーダー?どっちが強いかだと?お前からその言葉がでるとはな……覚悟しろ、勝つのは圧倒的な力を持つこのオレだ!」
私とクロスは剣を抜き、お互いを目の前にする。対峙した瞬間分かる。クロスは間違いなく実力者だ、別に弱いわけでもない。でも、私にも譲れないものがある。負けられない気持ちは私も持ち合わせている。私にはブレイドさん、ミーユ、アティのギルド冒険者としての人生がかかっている。もう、ヘラヘラ笑って誤魔化していた今までの私じゃない!
「あのさ、なんでこんな面倒なことするのブレイド?そのまま報告に行けば終わってたのに」
「それがあいつがこれからギルド冒険者として、理不尽な世界を生きていくために必要な事だからだ。依頼はいつでも自分に有利な状況でできるとは限らない。こういう状況に陥った時、このままではエルンは何もできない。いい機会だ」
「ふーん。ブレイドってさぁ……なんだかんだ言ってエルンの事好きだよね?まるで厳しくて不器用なお父さんみたい」
「……オレはあんなでかい娘がいる歳じゃねぇ。まぁ……ああいう馬鹿正直で真っ直ぐな奴は……嫌いじゃないかもな?」
私とクロスは、お互いの動きを見るかのようにピタリと止まり、すぐには動き出さない。
あたりに、ヒリヒリとした静寂が流れていく。
「………。」
(焦らなくていい。私はどうせ自分から攻撃してクロスを倒すことはできない。クロスの最大の攻撃をすべて防ぎきって、絶望を与える。私は『絶対に倒せない』という絶望を)
「くっ……認めない……こんなプレッシャー、認めるものかぁ!うおぉぉぉ!!!」
痺れを切らしたのか、クロスがその静寂を破り私に向かって踏み込んでくる。そして手数の多い鋭い斬撃を放ってくるが、私はその軌道を読み、すべてショートソードで受け止める。
グラッドより一太刀の威力は弱いが、とにかく素早い。さすがにすべてを受け止めるのは集中が必要だ。でも問題はない。私には最強無敵の『相殺の調停』のスキルがあるから!
ガキィッ! ギィンッ!と金属音が連続して響き渡る。
「なぜだ……なぜお前はオレの攻撃をすべて受けきっているんだ!?魔物一匹倒すことのできない、平凡な能力の『便利屋』のお前がぁぁぁ!!!」
ガギンッという大きな音を立てる威力の強い剣戟に、私は後ろへ少し吹き飛ばされる。その威力から、クロスのエリートとしてのプライドと、負けられないリーダーとしての想いが強いのが分かる。
「認めない!!オレは絶対にお前なんか認めないぞ!!オレは光の女神に祝福を受けてるんだ!!」
クロスは魔力を極限まで高め、彼が最も誇る『光の魔法剣』を発動して私に肉薄する。煌めく神聖な閃光を纏ったその刀身は、並の魔物なら触れただけで一撃で葬り去るほどの圧倒的な威力を秘めている。
でも……ごめんね、クロス。
私はあんたが最強だと信じて疑わないその光の魔法剣の魔力の流れも、太刀筋も、振るう瞬間の癖も――ずっと同じパーティーの最後尾から、《《嫌というほど何回も見てきた》》んだよ。
ブレイドさんは私に《《勝負をつけろ》》と言った。その意味は私でも理解している。みんなの為にも、私自身で引導を渡してやるんだ!
「消し飛べ、エルン=アクセルロッドぉぉぉぉ!!!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
私も『形態模写』を発動し、ショートソードに全く同じ純度の光の魔力を纏わせる。魔法剣同士が正面から激突し、爆発的な閃光があたりを白く染め上げた。
――全く同等の威力の衝突。
私は『相殺』による強烈な衝撃が来ることを知っているから、両手でしっかりと剣の柄を握り込んでいた。だが、底辺である私の剣に『己の最強の技が止められること』など微塵も想定していなかったクロスは、その凄まじい反動に全く耐えきれなかった。
ガキンッ!! と鈍い破壊音が響き、衝撃でクロスの腕が大きく弾かれる。彼の手からすっぽ抜けた剣が宙を舞い、石畳に落ちてカランカランッという虚しい金属音だけを響かせた。
手の中の剣を失ったクロスは、空を切った自分の両手を震えながら見つめ、何が起こったのか理解できないというようにゆっくりと私を見上げた。その瞳からは、これまで彼を支えていた強烈な光と自信が完全に失われている。
そして、糸が切れた操り人形のように、クロスは力なく膝から崩れ落ちた。
だって……底辺の便利屋である私に真正面から力負けし、弾き飛ばされた技は、彼自身が絶対の自信を持っていた《《最強の光の魔法剣》》だったんだから。
「な……ばか、な……オレの光の魔法剣が……」
私はショートソードの切っ先をクロスに向け、こう言い放ってやる。
「私の勝ちだよ。あんたたち全員、ただの『便利屋』だと言って見下していた私に負けたんだ。まだやるなら何度でも私は受けて立つ。さぁ、負けを認めて」
「くっ……オレの……オレたちの、負けだ……」
クロスはギュッと目を瞑り、屈辱に顔を歪めて下を向く。これ以上の屈辱はないだろう。自分の最強の技を完全に破られ、負けを宣告されるのは。
「約束通り、私とアティに謝罪してもらうよ。見た目や思い込みで人を不当に扱い、都合よく捨てたことをね」
「……すまなかった。アティ、そして……エルン=アクセルロッド」
震える声で絞り出されたその謝罪を聞いて、私はゆっくりと剣を下ろした。
私はやったんだ……
私は自分で、自分の存在価値を証明したんだ。ブレイドさんが言っていた「勝負をつけろ」という言葉の本当の意味を、私は今、確かな重みとして噛み締めていた。
ふと、私は顔を上げて空を見上げる……。
そこには、今の私の晴れやかな心と全く同じ、雲一つないどこまでも青い空の空間が広がっていたのだった。




