9. 【二つの神格スキル発動】最強無敵の私に死角はない!
9. 【二つの神格スキル発動】最強無敵の私に死角はない!
おそらくグラッドはこう思っているだろうな。『血迷ったか?』って。言葉には出ていないが、私の細い剣を見下ろすその顔が雄弁に物語っている。
「エルン=アクセルロッド。お前の底辺の遊びに付き合ってる暇はない。ゴブリンもスライムも倒せんお前が、このオレの相手をするだと?ふざけるなよ。昔の仲間のよしみで、あまり傷つけないようにしようとしたんだがな」
そして、ダサすぎる変な騎士道を私に振りかざしてくる。やはりここで私の最強のスキル『相殺の調停』を見せるしかない。こういう勘違い男には強烈なお仕置きが必要だ。
私はオリバーとアリシアと対峙した時と同じく、不敵な余裕を出してグラッドへ言い放つ。
「ゴブリン?スライム?あんな雑魚はあんた達が狩ればいいでしょ?私はグリムドラゴンを狩った女よ?あなたたちと一緒にしないでくれる?」
「なんだと?戯言はそこまでだ!勘違いした頭ごと、オレがここで引導を渡してやる!覚悟しろエルン=アクセルロッド!」
グラッドが筋骨隆々の腕で身の丈ほどもある大剣を振り被り、私を真っ二つにしようと袈裟斬りに振り下ろしてくる。風を裂く轟音。石畳がめくれ上がるほどの風圧を伴った、まともに受ければ岩ごと粉砕される必殺の一撃。
「やぁぁぁっ!!」
ガギィィィィィンッ!!!
火花が散り、強烈な金属音が通路に反響する。石畳が砕け散り、周囲の壁に無数の亀裂が走るほどの凄まじい衝撃波が巻き起こった。私の足元は抉れ、土煙がもうもうと立ち込める。常人なら肉塊に変わっていてもおかしくない一撃だ。
「なっ……!?」
巻き上がった粉塵の中心で、グラッドは驚愕に両目を見開いた。無理もない。石畳を粉砕し、強烈な衝撃波を撒き散らしたはずのその渾身の一撃は、私が片手で構えた細いショートソードによって『完全に』止められていたのだから。
重くない。私の腕力は自動的に『相手と同等』まで引き上げられ、圧倒的な大剣の威力を完璧に拮抗させていた。私は顔色ひとつ変えず、その重い斬撃を涼しい顔で受け流す勢いのまま、フワリと後ろへ下がる。
「なん……だと……?オレの一撃を、片手で……!?」
「言ったでしょ?一緒にしないでって。さぁ、次は本気で来るといいよグラッド。一応忠告しておくよ、二度はないからね?」
グラッドの大剣の威力が凄まじいのは知っている。でも残念だったね。私の最強無敵の『相殺の調停』のスキルの前には無意味だよ。
あんたが底辺と『便利屋』と呼んで見下していた私が、グラッド、あんたの本気の力をすべて受けきって、その圧倒的な無力感で絶望させてやるんだ。
さぁ、来るといいよグラッド。今度は私が、絶望という名の引導を渡してあげるから。
私の不敵な挑発に、グラッドの顔が屈辱と怒りでみるみるうちに朱に染まっていく。クロスのパーティーの要とも言える誇り高き前衛戦士が、底辺だと見下していた私に完全にコケにされているのだから当然だろう。
「本気を出せだと?なら見せてやろうじゃないか……その細腕ごと、真っ二つにしてやる!」
グラッドが手にした大剣の刀身に、膨大な魔力が集束していく。そうだ、あれはグラッドの必殺技である魔法剣だ。いよいよ私の挑発に乗り、本気で殺しに来るみたいだ。
いいね……それでいい。
その渾身の攻撃を完全に防がれた後……
グラッド、お前は本当の絶望を知るんだ!!
「真空破斬!!!!!」
振り抜いた大剣から、大気を切り裂くような甲高い音が響き渡り、青白い魔力の刃が牙を剥く。それは通路の床を深く抉り、両脇の石柱を豆腐のように切断しながら、猛烈なスピードで私目掛けて飛んでくる。
逃げ場などない、完璧な必殺の軌道。しかし、私は避ける素振りも見せず、真っ向からその魔法斬撃をその身に受けた。爆風が弾け、凄まじい衝撃と威力で周囲の瓦礫が嵐のように吹き飛び、視界が真っ白になるほどの粉塵が巻き起こった。
「はぁ、はぁ……少しやりすぎたか?弱い者が身の丈に合わず吠えた報いだ」
グラッドが勝利を確信したように息をつく。だが、風が吹き抜け、粉塵が晴れていく。
……そう、これが一つ目の絶望だ。
「な……」
「ゴホゴホッ……相変わらず馬鹿力だね?埃っぽくて敵わないよ」
私は服についたチリをパッパッと払いながら、無傷のまま、元の位置から一歩も動かずに立っていた。
「無傷だと……なぜだ……このオレの本気の真空破斬だぞ!?」
グラッドは目を見開き、信じられないという顔をしている。
お前たちは今まで、何もできないという見下した目で私を見てきた。
ゴブリンやスライムすら一人で倒せないほどの非力なギルド冒険者。
シルバーランク昇格の為の人数合わせ、パーティーを埋めるためだけの『便利屋』。
そうだ、お前たちは私の本当の事なんて、何一つ見てくれていなかった!これじゃ足りない。もっと深い絶望を与えてやるんだから!
「あんたの言葉をそっくり返すよ。《《軽い》》。そんな見掛け倒しの覚悟もない攻撃、私には効かない!次はこっちの番だよ!」
そして私はショートソードを構える。もう一つの絶望を与えるために。
私の剣にギュルルルッと強烈な魔力が集まる。目の前の男は、その構えと魔力の流れを何度も見たことがあるはずだ。いや、彼自身が使ったことがあるというのが正しい表現だよね?
「なっ……その構え……嘘だろ!?その技は……!?」
「ったく……力任せに振り回すだけで、本当に前衛の戦士なの?私が正しい使い方を教えてあげるよ。魔力はこうやって一点に集めて放つんだよ」
極限まで圧縮された白銀の魔力がショートソードの刀身を覆い尽くし、ジリジリと空間を歪ませる。通路が水を打ったように静まり返った直後。
「……真空破斬!!!!!」
私が軽く剣を振り抜いた瞬間、先ほどのグラッドと全く同じに洗練された純度の高い魔力の奔流が空間を断ち切った。
「な、にぃぃぃッ!?」
グラッドは咄嗟に大剣を盾にして防御姿勢をとったが、そんなものは無意味だった。回避も防御も間に合わない絶対的な魔法斬撃は、重厚な鋼の大剣ごとグラッドを飲み込み、巨大な暴風のような衝撃波となって通路を突き抜けていく。
そうだ、『形態模写』。私は一度見たことのある技や魔法は、私の能力の範囲なら完全にコピーして使うことができる。そして『相殺の調停』のスキルが発動している私の今の攻撃力は、まさにグラッド本人の最大出力と《《完全に同等の力》》なのだ。
「ぐわぁぁぁぁっ……!」
凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちたグラッド。私はその無様な姿を静かに見下ろした。
「ぐっ……お前……本当にあの無能なエルン=アクセルロッドなのか!?」
「どこからどう見ても、美少女エルンでしょ?」
「オレたちのパーティーにいた時とはまるで別人……一体、何が……」
「さぁ……どうする? まだやる? 悪いけど……今の私は誰が相手でも負ける気がしない」
「くっ……」
沈黙し、ピクリとも動かなくなった巨体から冷ややかに視線を外し、私はカチャリとショートソードを鞘に収めた。
「だって私は、最強無敵だから」
そのまま、私は一度だけ小さく深呼吸をすると、ミーユとアティが待つ古城の中庭へと、確かな足取りで歩みを進めた。




