8. ハッタリ最強美少女と、気絶する敵と、因縁の対決
8. ハッタリ最強美少女と、気絶する敵と、因縁の対決
私は無防備にオリバーとアリシアの前に飛び出た。ミーユになんの考えがあるのか分からないけど、今はミーユを信じるしかない。一応相手の攻撃に備えて腰のショートソードを抜き、構えをとる。
「さぁかかって来いっす!オレがどんな攻撃も防ぐっす!」
「……ん?」
あれ?もしかしてこのまま動かなければ何も起きないのでは?よく考えたらあの2人は盾役と回復魔法要員だ。主に援護がメインの職で、自分から前線に出て攻撃してくる必要はない。
「……ねぇ、まさかとは思うんだけど動かないつもり?」
「え!?いやいやそんなわけないじゃないっすか!ただちょっと、どうやって反撃してやろうかなって思ってるだけっすよ!」
じゃあ動かないんじゃん。
……まぁ、とりあえず相手が動いてくれないならこっちから動くしかないかな。……とは言っても、私は『相殺の調停』のスキルがある。自分から攻撃を仕掛けても、相手と同等の力にしかならない。
私のスキルが自分から倒しきれない力だと気づかれるのはまずい。
よし、なら考えがある。向こうから仕掛けるように仕向ければいい……私はオリバーとアリシアに向かって、思いっきり『ハッタリ』を言い始める。
「ふぅ。……つまらないわね?あなたたちくらい、まばたきする間に倒せるわよ?せっかく攻撃のチャンスを与えてあげてるのに……このグリムドラゴンを単独で討伐した、最強美少女の私がね?」
(うわぁぁ自分で言ってて恥ずかしい!でもハッタリは堂々とやらないと!)
必死に恥ずかしさを誤魔化しながら、私は不敵な笑みを浮かべてみせた。
「なんか急に口調が変わってるっす。でもその手にはのらないっす!エルン=アクセルロッド!お前は『便利屋』と呼ばれてる底辺ギルド冒険者っす!」
「待ってくださいオリバーさん。あの人、さっきから妙に余裕がありそうです。仮にもし本当にグリムドラゴンを倒したのだとしたら、底知れない能力を隠し持っているかもしれません!」
いいぞいいぞ。このままなら何とか押し通せる。
「アリシアさん。オレはこの入り口を任されてるっす!例えグリムドラゴンを倒していたとしても、ここから先は行かせねぇっす!」
「オリバーさん……そうですね……私もこの入り口を死守します!」
だから草生えるって。なんでこの2人は連携が崩れないの?普通なら挑発に乗って陣形を崩したくなる場面なのに……。
そんなことを考えていると、ミーユが後ろから叫んだ。
「エル~ン!急いで後ろに下がって!」
「えっ……」
その瞬間だった。上空から巨大な網のようなものが降り注ぎ、動かずに固まっていたオリバーとアリシアを完全に拘束した。私は間一髪後ろに下がり、それを避けることが出来た。
「なんすかこれ!」
「動けないし、なんかベトベトしてます!」
「『蜘蛛の網弾』。その網は特殊な魔法技術を用いて出来てるから、抜け出すのに一苦労だよ?ていうか、しばらくすれば勝手に消えるから安心してそこで休んでて」
ミーユは銀色の魔導銃を片手でクルクル回しながら、オリバーとアリシアに言った。というか私にも当たりそうだったんだけど!?
「まだ……ここを通すわけにはいかねぇっす!卑怯っすよ! 正々堂々勝負しろ、『便利屋』エルン=アクセルロッド!」
オリバーはミーユの放った魔法の網を、自慢の力業で強引に引きちぎろうとしている。凄い忠誠心と執念だ。
ただその時。その忠誠心を、ポッキリと物理的に折るかのように。
ズドォォォォンッ!!!
城の石畳がクレーターのように粉砕され、破片がオリバーたちの頬をかすめた。
「ひぃっ!?」
もがくオリバーとアリシアの顔のわずか数センチ横。そこに突き立てられたのは、大岩のような巨大なバトルハンマーだった。砂埃が晴れると、ハンマーの柄を片手で握りしめたアティが、聖女のような可憐な微笑みを浮かべて見下ろしていた。目は完全に据わっている。
「うるさいですね。そのままおとなしくしていないと……次はそのお顔を、このハンマーでトマトみたいにぐちゃぐちゃに潰しちゃいますよ?えへへっ」
可憐な小首を傾げたアティの瞳には、一切のハイライトがなかった。
「あわわっ……はぁ……」
オリバーとアリシアは、あまりにも純粋な殺意と狂気を孕んだ威圧感に耐えきれず、白目を剥いて気絶してしまった。敵ながら可哀想すぎる。私は彼らに激しく同情した。
アティは鬼のような顔からいつものふんわりした顔に戻り、私とミーユに駆け寄ってくる。
「エルンさんの事を悪く言ってたので少し《《脅した》》だけなんですけど……なんかおとなしくなりましたね?これで中に入れます!」
「う、うん。ありがとねアティ」
「……アティを怒らせないようにしようね、エルン」
アティの私への忠誠心は痛いほどわかった。そしてミーユがこそこそ私に伝えてきたことには、全力で同感だ。
なんにせよ、これで中に入ることが出来るようになった。この先はあの3人がいる。気をつけて行くべきだよね。
「というかエルンのあの喋り方ウケるんだけど。ぷぷっ」
「もう!言わないでよミーユ!私だって内心すっごく怖かったんだから!」
「ごめんごめん。でもありがと。あいつらを拘束できたよ。入り口の開けた場所で待機してたのが、逆に仇になったよね」
確かに狭い空間じゃ、あんな上空から投網のように降らせる魔法弾を使うことは出来なそうだしな。それにしても色々な魔法弾を持ってるんだな。他に何があるかあとで聞いてみよう。
私たちは気絶した盾役のオリバー、回復魔法要員のアリシアを放置して、ワーロック古城の中に入っていく。『月光水』と『ムーラン花』があるのは中庭だったよね?とりあえず急いで向かうことにする。
ワーロック古城の中は、外から見たボロボロな感じとは違って、昔のお城らしく立派な石造りの通路が続いていた。でも、ひんやりとした空気にカビと魔物の臭いが混ざってて、なんだか薄気味悪い。ゴブリンとかスケルトンとかが急に出てきてもおかしくない雰囲気なんだけど……不思議と魔物の姿は全然見当たらない。
たぶん、先に入ったリーナたちが片っ端から倒していったんだろうな。腹が立つけど、なんだかんだ言ってあいつらの実力は本物だ。伊達にギルドでシルバーランクを張ってないってことか。
しばらく進んだ先。中庭へと続く薄暗い通路に差し掛かったが、そこには見覚えのある大きな大剣を背中に背負った男の姿が、私たちを待ち受けていた。
「やはり、あの2人の足止めじゃ無理だったか」
「グラッド……。そこをどいて」
「それは意味のない質問だろう。エルン=アクセルロッド。お前たちがあの2人を突破したのがいささか疑問だが?そこのピンク髪の女の力か?」
グラッドは相変わらず、道端の石ころでも見るような冷ややかな目で私を見てくる。警戒なんて1ミリもしていない。そりゃそうだよね。彼の中で、私はまだ何の力もない底辺の『便利屋』のままなんだから。
一緒にパーティーを組んでた時もそうだった。身の丈ほどもある大剣をブンブン振り回して、岩だって真っ二つにするグラッドの力は確かに凄かったけどさ。『お前みたいな非力な奴は、後ろで震えて荷物でも守っていろ』なんて、あの広い背中越しに吐き捨てられた言葉、私は今でも絶対に忘れてないからね。
確かにミーユが2人を拘束したのは間違いないけどね。そんな事はどうでもいい。正直ここからが本番だ。私たちはリーナ、グラッド、ロードの3人を抑えて『月光水』と『ムーラン花』を手にいれなければならない。
だからこそ、ここでグラッドを越えなきゃいけない。私の本当の力を見せつけて、あいつらの勘違いごと真っ向から叩き潰してやるんだから。
もう迷っている時間はない。私はミーユとアティに視線を送ると、2人は力強く頷き返してくれた。どうやら通じたみたいだ。
私は腰のショートソードを引き抜き、一グラッドの懐へと真っ直ぐに踏み込んだ。
「軽い。なんの真似だ?」
「今だよミーユ!アティ!」
私がグラッドの視線を完全に引きつけたその一瞬。私の声に合わせ、ミーユとアティが疾風のようにグラッドの脇をすり抜け、中庭への通路へ駆け込んでいく。そう、私はグラッドをここに釘付けにするために、あえて一対一の状況を作り上げたのだから。




