7. 【最強の盾】絶対防御だからって私を囮に使わないで!?
7. 【最強の盾】絶対防御だからって私を囮に使わないで!?
勝負の日、当日を迎える。
私たちのパーティーとクロスのパーティーは、ギルドの前に向かい合って集まっていた。あれ?クロスの後ろに見知らぬ2人がいる……また新しい仲間を加えたのか。
クロスは見た目も良くギルド内での名声もあるから、優秀な若手だと慕われている。意外にクロスのパーティーに加入したいと願う熱心なギルド冒険者は多いのだ。
でも、そのくだらない見栄と名声も今日までだよ。だって、私たちが必ず勝つから。
「また、代わりの仲間を増やしたんだね?」
「ああ。オリバーはオレを守る優秀な盾役。アリシアは、君とそこにいる無能なアティより、遥かに優秀な回復魔法の使い手だよ」
「へー、良かったね。でも人数を増やしても、最後に勝つのは私たちだから」
「ふっ、せいぜい吠えるがいいさ。今日で君たちはギルドを去ることになるんだからな」
かつての私なら、クロスの冷たい視線に怯えて言葉を詰まらせていただろう。でも、今は違う。私はクロスの挑発を冷静に聞き流すことができた。隣には心強い仲間がいるからだ。
そこに受付嬢のルナレットさんがやって来て、両者の準備を確認し、高らかに依頼開始の合図を出した。
ついに始まった。大丈夫。私はリーダーとして、ブレイドさんの作戦通りに事を運ぶだけだ。
「ほら、走るわよ!」
リーナが仲間に号令をかける。クロスの姿はない。おそらく東へ向かったのだろう。残る5人の目的地は西の遺跡群か。ブレイドさんの予想通りだ。
「私たちも急ごう!エルン!」
「うん!」
「あっ、待ってください~!」
私たちも少し遅れて出発する。重たいバトルハンマーを背負ったアティの足の遅さで、前を行くリーナたちとの距離はどんどん離されていく。
……これも、すべてはブレイドさんの立てた作戦通りだ。
あの時ブレイドさんが、ニヤリと笑って言い放ったあの言葉を思い出す。
◇◇◇
-勝負前日-
「先に行かせる?どういうこと、ブレイド?」
「それじゃ、先に依頼物を手に入れられてしまいませんか?」
作戦を聞いたミーユとアティは揃って首をかしげた。確かにアティの言う通り、普通なら競争は先に着いた方が有利だ。だが、あえて先に行かせる理由をブレイドさんはニヤリと笑って話した。
「いいか?おそらく奴らは『月光水』と『ムーラン花』がある西の遺跡群へ大人数で行くはずだ。『フレイムドレイクの爪』はおそらく、あの傲慢なクロスが1人で狩りに行くだろう。オレがクロスならそうする。そして、西の遺跡群は厄介な魔物が多い。なら安全のために人数を増やすのが当然だ」
「それはわかりましたけど、先に行かせる理由は何ですか?」
「エルン。オレたちは向こうより人数が少ない。だから、奴らをわざと先に行かせることで、道中の面倒な魔物の掃討を『全部あいつらにやってもらう』んだ。オレたちが無駄な体力と魔力を使う必要はない。魔物を狩りながら進むあいつらより、安全な道を歩くオレたちの方が、最終的な消耗は圧倒的に少ないはずだ」
「なるほど、コバンザメ戦法!頭いいねブレイド!」
私たちは、あいつらを盾にして体力を温存し、最後に出し抜いて依頼物を手に入れるということだ。
「しかもだ。アティ、お前がいることで更にあいつらは油断するはずだ。お前は、その無駄にでかいバトルハンマーのせいで歩くのが極端に遅い。あいつらから見れば『鈍足のお荷物を抱えたパーティー』だ。絶対に追いつかれないと高をくくる」
「すいません……私が遅くて……足手まといで……ぐすっ」
「いや……お前を責めてるわけじゃない。立派な囮作戦だ。だから半泣きになるなよ?」
◇◇◇
ということだ。ここまでは完璧に作戦通り。
私とミーユとアティの3人は、西の遺跡群に向かっている。人数的には3対5か。許容範囲だな。もちろんブレイドさんは、単独で東の呪いの洞窟に向かっているはずだ。
「あのさ。私はあいつらの事よく知らないんだけど、軽くでいいから戦力を教えてくれる?」
「うん。赤髪のリーナは格闘家、大剣を持ったグラッドは戦士、いつも欠伸してるロードは魔法使い。残りの2人は今日初めて見たけど、盾役と回復魔法要員って言ってたよ」
「なんだかんだで、私たちよりは戦闘経験があると思います。油断は出来ませんし、もし直接戦うことになったら勝てるか不安です」
あんな傲慢な奴らでも、確かにアティの言う通り私たちより場数は踏んでいる。それにパーティーとしても連携に慣れているはずだ。私がいた時は、ほとんど初級の補助魔法で援護したり、ポーションを運ぶアイテム役だったり、ダンジョンのマッピングをする雑用役目とか、そんなのばっかりだったな。
「ふ~ん。でも大丈夫でしょ?戦いになっても、エルンは無敵だもんね!」
「えぇ!?無敵!?エルンさんってそんなにすごい人だったんですか!?じゃあなんで……パーティーから追放をされてるんですか?」
「なんでだろうね……はははっ」
無敵という表現が正しいかわからないけど、『相殺の調停』のスキルを使えば私が負けることは絶対ない。けど、相手を倒すこともできない。
そう考えると、私はパーティーのみんなとなら最強の盾になれるけど、私単独なら最弱なのでは?あっ、でも死なないから最弱ではないか……。
しばらく進んでいくと、道中には真新しく切り伏せられた魔物の残骸がいくつも転がっている。グラッドの大剣やロードの魔法によるものだろう。やはりあいつらが先に行って、強引に道を切り開いてくれている。
私たちの作戦通りだ。そして、ついに目的の遺跡群にたどり着いた。
「見てください!あの蔦が絡まっている建物が『ワーロック古城』です!」
アティが指をさした方向には、半分崩れかけた荘厳な古城がそびえ立っていた。あの中庭に『月光水』と『ムーラン花』があるのか。あいつらはもう中に入ってしまっただろうか……。
「タイミングバッチリだったね。今、中に入るみたいだよ?」
ミーユは何も言わずに神格スキル『鷹の目』を使って、遥か先の状況を透視して確認してくれていた。これが要領がいいモテる女子なのかも。私も確認してほしいと思っていたところだったから助かる。
そのまま私たちは身を隠しながら、ワーロック古城の入り口まで慎重に進んでいく。
「止まってエルン、アティ。そこの柱の陰に隠れて」
急にミーユは私とアティを静止した。そして古城の大きな鉄格子の入り口に目をやると、そこには巨大な盾を構えたオリバーと、杖を持った回復魔法要員のアリシアが陣取っている。
「うーん。なるほど、新しく加入した2人を入り口に見張りとして残しているみたい。後から来る私たちを足止めしようとしてるって感じだよね?」
「残っているのは盾役と回復魔法要員か……。突破しないと中庭には行けないね」
「どうしますか?私がハンマーでミンチにしてボコボコにしますか?やっちゃいますか?」
「とりあえず落ち着こうね、アティ」
自分の顔より大きなハンマーをぶんぶんと振り回しながら、アティは満面の笑みで物騒な提案をしてくる。聖女の顔をしたバーサーカーすぎる。
いや、ここは無理に戦う必要はない。何とか戦わずにあの2人を拘束して通り抜けられれば。しかし状況を確認すると、あのアリシアという僧侶が入り口を塞ぐように強固な『魔法バリア』を張っている。あれでは私の初級の魔法は弾かれてしまう。戦いは避けられないか……。
「えっと……どれにしようかな」
ミーユはポシェットの中をゴソゴソとあさっている。
「ミーユどうしたの、なんかいい方法でもあるの?」
「そだね。だから悪いんだけどエルン、あいつらの前に堂々と出ていってくれない?少しだけ気を引いてほしいんだよね?囮、囮!」
「はい?」
嫌だよ!なんで痛い目に合うかもしれないのに!ブレイドさんもミーユも、私の事なんだと思っているんだ!絶対防御の歩くサンドバッグか!
とか言ってもしょうがない。これも勝負に勝つためと思えば……それに、アティやミーユを危険な目に遭わせるわけにはいかない。私のスキルなら問題ないのだから。
私は自分で自分に言い聞かせ、深く息を吐いてから、2人の前に堂々と飛び出していった。
「どうも~……良いお天気ですね~……」
「出たっすね!アリシアさん、来たっすよ!あの役立たずのエルン=アクセルロッドが!」
「魔法バリアは展開しています。オリバーさんは、物理攻撃にだけ気を付けてください!」
「それはオレの得意分野っす!クロスさんを侮辱した罪、ここで精算させるっす!さぁ、かかってこいっす!」
いきなりパーティーに加入した割に、連携が取れているのは草が生えるんですけど……
とにかく、今はミーユを信じるしかないか




