5. 私だけ知らない冒険者の常識と、死神が提案した掟破りの作戦
5. 私だけ知らない冒険者の常識と、死神が提案した掟破りの作戦
私たちは図書館で借りた本を手に、ギルドに戻ることにした。
大きなバトルハンマーを背負うアティの歩幅に合わせてゆっくり歩き、途中でお腹が空いて屋台の串焼きを買い食いしたりと、親睦を深めながら帰っていたので、ギルドに着くころにはすでにどっぷりと夜になってしまっていた。
「遅い」
「ひぇっ」
ギルドの扉を開けるなり、グラスを傾けていたブレイドさんから低い声が飛んできた。
「ア、アティと色々話してたら遅くなっちゃった。ごめんなさい。でも、ちゃんと依頼物の手掛かりが載ってる本は借りてきたから!」
「ったく……お前らが遅すぎるから、ミーユは先に宿に帰っちまったぞ?ギルドももう閉める時間だ。作戦会議はまた明日にする。いいな?絶対に遅刻するなよエルン!」
「なんで私にだけピンポイントで言うんですか……?」
ブレイドさんは何故か私にしか言わない。そんな指をさして言わなくても、自分のクビがかかってるんだから私は遅刻なんかしない……たぶん。それより、先に帰らせてしまったミーユには悪いことをしちゃったよね。明日ちゃんと謝っておかないと。
クロスのパーティーとの勝負の日まで、あと4日だ。
そして次の日の朝。私はブレイドさんの期待を裏切るように遅刻せず、集合時間よりもだいぶ早くギルドに着いた。これならブレイドさんも文句は言えないだろう。
いや、逆にブレイドさんに『は?おじさん遅いんですけど~?リーダーを待たせるとかありえないんですけど~?それでも大人ですか~?』くらい言ってやろう!
私はニヤニヤとだらしない顔になりながら、勢いよくギルドの扉を開けた。
「おはよう!私が一番乗りだね! ……えっ?」
私は首を傾げる。そこにはすでに、テーブルを囲んで談笑しているミーユとアティ、そしてブレイドさんもいたのだ。
まさか私が遅刻した!?時計が止まっていたのかな!?時間を聞き間違えたのかな!?ものすごく不安そうな顔で固まっている私に、ミーユがいつもの明るい感じで手を振ってくる。
「あ、おはようエルン!今日はすごく早いね、なんかあったの?」
「え……いや、なんでみんなこんなに早いの……?」
「おはようございます、エルンさん。私はいつもこのくらいの時間にはギルドに来ていますよ?冒険者なら普通ですよね?えへへっ」
一人でテンパる私を見て、ブレイドさんが深くため息をつき、呆れた顔で言った。その顔はまたお小言だ。絶対に文句を言おうとしている。このおじさんは私の父親か?
「あのなエルン。ギルドの依頼掲示板は『朝一』に新しい情報に更新されるんだ。だから、まともなギルド冒険者は良い依頼を他のパーティーに取られないように、朝早く来ているのが普通なんだよ。……お前、そんな基本的なことも知らなかったのか?とりあえず、パーティーのリーダーなら覚えておくんだな」
それは私にとって驚愕の事実だった。
……しかも、このギルドでこんなにも色々なパーティーを渡り歩いているのは、もはや私だけなのに。私は今まで、いつも言われた時間に言われた場所へ行くだけで、そんな事全く気にしてなかった。
というか、誰か教えてくれても良かったのに!私は29回も追放されてるんだよ!?
……あっ。追放されるくらいの『都合のいい雑用係』にしか見られていなかったから、今までのパーティーの誰も、私に冒険者としてのイロハを教えてくれなかったんだ。
情けなくて、泣くのを通り越して笑えてくる。
「ははは……そうだよね、私ってそういう扱いだったもんね……」
私は自分で自分を問い詰め、深く肩を落とす。虚しい……。アティはそんな私を見て、呆れることもなく優しく背中をトントンと叩き、椅子に座らせてくれた。その温かい手のひらに少しだけ救われる。
うん、とりあえず気を取り直して、私たちが勝つための作戦会議を始めよう!
「そういやアティ。お前、薬剤に詳しいんだってな?その依頼物のある場所、分かるか?」
「はい。『月光水』と『ムーラン花』は、おそらく西の遺跡群にある『ワーロック古城』の中庭にあると思います。あそこには立派な中庭がまだ存在してて、夜になると月光の魔力が中庭の泉に降り注いでいます。その特殊な環境なら、周りにはムーラン花も間違いなく咲いているはずです」
「ほえ~。凄い詳しいねアティ!私はそういうの覚えるの苦手だから助かる~!」
ミーユはアティの発言に心から感心している。私もリーダーらしく、何かを頑張りたい。何か凄いところを見せたい!
すると、ブレイドさんが顎を撫でながら呟いた。
「ふむ。西の遺跡群か……あそこは厄介な毒を持つ魔物が多いからな」
来た!私の出番だ!
私はブレイドさんの言葉を聞くや否や、咄嗟に前のめりになってみんなに宣言する。
「安心して!私が毒を解除する魔法使えるから!これでもある程度の初級魔法は見よう見まねで使えるからね!みんな、遠慮なくどんどん私に頼っていいからね!」
決まった。ふふっ、これでリーダーとしての威厳は保てたよね。しかし、私が求めていた尊敬の眼差しとは全く違う反応が、ブレイドさんから返ってくる。
「ああ?オレは『毒を受けるな』って言ってるんだが?毒にかかった時の対処法なんか自慢気に語るな、エルン。お前もギルド冒険者なら、そもそも敵の攻撃を受けないように立ち回れ」
「えっ……はい。そうですね……」
私のリーダーとしての威厳は、何故か一瞬で粉砕された。というか、ブレイドさんは私にだけ冷たい。間違いない、このおじさんは絶対に私の事が嫌いなんだ!ミーユとアティに小言を言ってるのを見たことない!贔屓だ贔屓!
「それと、3つ目の『フレイムドレイクの爪』だが……あれは東の『呪いの洞窟』にフレイムドレイクが生息しているから、狩れば自ずと手に入るな」
「西の古城と、東の洞窟じゃ、方向が完全に真逆だね」
「相手のパーティーの方が人数も多く、ランクも上ですからね。私たちが戦力を分散するのはあまりよろしくないですよね?」
アティの言う通りだ。普通に考えれば、みんなで一緒に西へ行き、次に東へ行くのが安全だ。でも、それでは人海戦術が使えるクロスたちにスピードで負けてしまうかもしれない。
「その事なら、オレに考えがある。少し聞いてくれるか?」
私たちはブレイドさんの提案を聞くことにした。だが、その内容は「えっ……本当にそれでいいの!?」と耳を疑うような、あまりにもシビアで、常識破りなものだった。
「えっ……それっていいの?ブレイドさん。相手の裏をかくっていうか、いくらなんでも危険だし、その……どうなの……?」
「あのなエルン。オレたちは《《必ず勝たないといけない》》んだ。分かるな?ギルドのルールに違反しているわけじゃない、別に悪いことでもない。生き残るためには、依頼内容によっては泥臭いこともやる。それが冒険者だ。甘えるな、オレたちに失敗は許されない」
「いいんじゃない?ブレイドの言っている作戦で。私は賛成! 相手の鼻を明かしてやるにはピッタリだよ!」
「私も賛成です。エルンさんが負けたら、私たちもギルドをクビになってしまいますから。勝つためなら、どんな無茶でもやります」
ミーユとアティも、ブレイドさんの過酷な作戦に賛成なのか……。
でも、確かにブレイドさんが言っていることが正しいのかも。クロスたちに見下されたまま終わるわけにはいかないし、これはもう私だけの問題じゃない。私のクビに、この二人の人生も巻き込んでいるんだ。
パーティーとして『勝つため』の最善の方法をとる。それも私の、リーダーとしての責任だよね。
「あの……ブレイドさん、ミーユ、アティ、ごめん。私、リーダーとしてみんなの覚悟の事、ちゃんと考えてなかった。その作戦でいこう!私たちは絶対負けられない!」
私は今の真っ直ぐな気持ちをみんなに伝える。
「ふん。お前はいつも、口だけは威勢がいいな」
「口だけじゃないですよ!それよりブレイドさん。自分が提案した無茶な作戦なんですから、絶対に失敗しないでくださいよ?失敗したら一生恨みますからね!」
「バーカ。誰に言ってんだよ。オレが失敗することは絶対にない」
私たちが約束したクロスたちのパーティーとの勝負まで、残り3日。
来るその時に向けて、私たちは準備を進めていく。そして、決戦の依頼当日を迎えるのだった。




