4. 夢を笑う連中には負けない!夕焼け空に誓う絶対勝利
4. 夢を笑う連中には負けない!夕焼け空に誓う絶対勝利
無事にアティとパーティー登録をすませ、依頼物のある場所を調べることにした私は、アティと共に王都の図書館に行くことにする。
……うん、ごめんなさい。本当のことを言うと、アティが仲間になってくれたことが嬉しすぎて、依頼物の情報を調べるという本来の目的をすっかり忘れて、そのままギルドに戻ってしまっていたのだ。
案の定、ブレイドさんには呆れ顔で怒られた。でもあの人、自分はお酒を飲んでいるだけの癖に文句ばかり言う。しかも「昼間から飲む酒は最高だ」とか大人の特権を振りかざして。
強いのは認めるけど、態度と言動でモテる男の逆をわざと全速力で走っている。本当にあのおじさんはしょうもない。ダッさい黒いコート羽織ってるし。カラスか。
「エルンさん。待ってください~」
「あれ?あっ、ごめんアティ」
私はブレイドさんへの文句を心の中で並べながらズンズン歩いていたので、すっかりアティを置いてきぼりにしてしまっていた。
それにしても、アティは歩くのが遅い。どう考えても、背中に背負っている巨大なバトルハンマーが重すぎるのだと思う。
「アティさ、そのハンマーもう少し軽くて扱いやすい武器にできないの?それだけ重いと、魔物との戦闘の時に攻撃を避けられないんじゃ?」
「え?攻撃なんて避ける必要ありますか?相手にやられる前に、一撃で粉砕してしまえばいいんですよ。魔物を確実に『すり潰す』には、やっぱりこのくらいの重量がないとしっくり来なくて……えへへっ」
ニコニコと小首を傾げながら、とんでもなく物騒なことを言う。見た目は完全に癒し系の聖女なのに、中身は回避を捨てた物理特化のバーサーカーだ。可愛い顔して、頑固な人だ。あとはものすごい力持ちとだけ記憶しておこう。
「そういえば、アティはクロスたちと勝負することになったけど大丈夫?追放されたばかりだし、気まずくない?」
「気まずいなんてとんでもない!逆に正々堂々と仕返しができるなんて素晴らしい事ですよね?私は、私の本当の力を見ようともせずに追放したあの人たちを絶対に許しませんから。いざとなったら、このハンマーでぺしゃんこのミンチにしてやりますよ!」
ぐっ、と胸の前で小さな拳を握りしめ、ニコッと可憐に微笑むアティ。……うん、好戦的で根に持つタイプというのも追加しておこう。クロスたちには同情しないけど、ミンチにされないように祈るばかりだ。
私たちはそのまま真っ直ぐ、目的の王立図書館にたどり着いた。ここの図書館は、ドーム状の天井まで見上げるほど高い本棚がズラリと並ぶ、ローゼンシャリオ王国随一の巨大な書庫。
一部の書物はギルドランクが上がらないと閲覧できない『禁書指定』になっているほど、世界中のあらゆる知識が保管されている。
私は活字を読むのがあまり得意じゃない。こんな膨大な本の中から、自力でどうやって探せばいいのやら……と完全に途方に暮れていた。
だが、そんな私の心配をよそに、アティは水を得た魚のように目を輝かせた。背中のハンマーの重さすら忘れたかのように、スタスタと迷いなく巨大な書架の間を縫って歩き……膨大な蔵書の中から、あっという間に私たちが探そうとしている依頼物の手引書を3冊持ってきた。
「これで全部ですね、エルンさん。あれ、どうかしましたか?」
「いや、早すぎない!?私はどうやって探せばいいか分からなくてフリーズしてたから、本当に助かっちゃった。アティは図書館によく来るの?」
「はい。本を読むのは大好きなんです。実は私、昔は薬剤師になりたかったので、ある程度の素材や薬草の図鑑は頭に入っていまして」
アティは机に広げた本を指差しながら、楽しそうに解説してくれた。
「今回の依頼物ですが、『フレイムドレイクの爪』は強烈な熱を宿す触媒、『月光水』は成分を調和させる霊薬のベース、そして『ムーラン花』は強い鎮痛と解毒作用を持つ薬草です」
「……う、うん。全然聞いたことないけど、それがどうしたの?」
「実はこれらを組み合わせると、身体の麻痺を完全に取り除く『パラライズアクセント』という特効薬になるんです。なので、関連する医学書や生態図鑑を絞って探せばすぐに見つかりました。えへへっ」
私は、そんな素晴らしい知識と特技を持っているアティに心から感心しつつ、その本を借りてギルドに戻ることにした。
アティをパーティーに勧誘して本当に良かった。ただ強いだけじゃない。こういう戦闘以外に役に立つ特技や知識があるというのは、これから私たちが『閃光』のような伝説の冒険者パーティーになるにはプラス要素にしかならない。
そう思うと、やっぱり私たちは最強になれるんじゃないかとワクワクしてしまう。
目的の本を数冊借りて重厚な図書館の扉を開けると、もう西の空が赤く染まり、鮮やかな夕焼け空が広がっていた。早く戻らないと、またあのおじさんに嫌みを言われちゃうな。
「もうこんな時間になってしまいましたね。すいません、私が歩くのが遅いせいで」
「そんなことないよ。アティの知識のおかげで調べる時間は一瞬で終わったんだし、気にしないで大丈夫。ギルドでお酒飲んで待っているだけのおじさんは、いくらでも待たせればいいよ。ゆっくり帰ろう、アティ。私、アティに聞きたいこといっぱいあるし」
せっかくだから、アティと色々な話をして帰ろう。こういう何気ない会話も、パーティーの親睦を深めるのに絶対に重要だよね。だって私は、パーティーのリーダーなんだから。
「私に聞きたいこと、ですか?何でしょうか?」
「あっ、そんなかしこまらなくても大丈夫。ただ、アティはどうしてギルド冒険者になったのかなって思って」
「それは……図書館でも言いましたけど、私はずっと薬剤師になりたかったんです。幼いころに、病気や怪我で困っている人を助けられる仕事ってすごくカッコいいなって、子供ながらに憧れていて」
アティは夕暮れの空を見上げながら、ポツリポツリと語り始めた。
「でも、薬剤師になる為の国家試験の勉強が難しすぎて……結局、夢はあきらめてしまったんです。それでも図鑑を読んだりするのは好きだったので、趣味程度には続けていました。だけど、やっぱり最前線で困っている人を助けたいという思いが捨てきれなくて。それなら、魔物を倒して人々を守れるギルド冒険者になろうって、この道を選んだんです!」
ふと聞いた質問だったけど、アティはすごく嬉しそうに話をしてくれた。
どんな形であれ、困っている人を助けたい。その真っ直ぐで優しい思いが、私に痛いほど伝わってきた。こんな優しくて強い女の子が、私のパーティーにいる。リーダーとして、その夢を私も一緒に叶えてあげないといけないよね。
「そういうエルンさんは?どうして冒険者に?」
「私はね、昔『閃光』と呼ばれていた最強のギルド冒険者パーティーに憧れて、かな。私の田舎の村が、一度凶悪な盗賊団に襲われて火の海になったことがあってね……もうダメだって絶望した時、助けに来てくれたのが『閃光』の女性槍騎士の人だったの」
記憶の中で、炎を背にして立つあの人の姿が鮮明に蘇る。
「自分よりも大きな槍を軽々と振るって、たった1人で大勢の盗賊をなぎ倒し、村を救ってくれたの。誰よりも傷だらけで、泥だらけになっていたのに、私たちを守るために戦ってた。その背中が、すっごく格好良かったんだ!私もあんな風に、誰かを助けられる強い冒険者になりたいって、今でも鮮明に焼き付いてる」
「憧れの背中、ですか……いいですね、そういうの」
というのが、私がギルド冒険者になろうと思った一番のきっかけだ。
ブレイドさんがその『閃光』の元メンバーだったなんて驚いたし、公には言っていないが、私が憧れているパーティーに彼がいたというのは本当に運命みたいに感じる。でも、私が一番憧れているのは、あの女性の槍騎士だけどね。
私は『閃光』の事は、あの時ブレイドさんから正体を聞いた時以来、特に深く探るようなことはしていない。ルナレットさんとの会話の雰囲気からしても、今はまだ聞くべきではない過去があると、私なりに思っているからだ。
ブレイドさんが言っていた「『閃光』の連中がいた場所」くらいまでの実力が私についたなら、その時改めて聞こうと思う。だから、早く依頼をこなして上のランクに行かないと。
「まぁ結局、なんだかんだ言っても、最終的な目的は困っている人を助けたり、世界の平和を守ったり、誰も知らない世紀の大発見をしたりするのがギルド冒険者ってことだよね!」
「そうかもしれませんね。ふふっ」
「そんな私たちの夢を、あんな連中に終わらせられるわけにはいかない!絶対にクロスのパーティーの勝負に勝とうね、アティ!絶対勝つぞ~、お~!」
「お~!」
私とアティは周りの目も気にせず、赤く燃えるような夕焼け空に向かって、改めて拳を天に突き上げ、固い決意を示すのだった。




