3. 追放された聖女を拾ったら、まさかのゴリゴリ前衛でした
3. 追放された聖女を拾ったら、まさかのゴリゴリ前衛でした
あれから3日後、ギルド掲示板にクロスたちと勝負する依頼内容が貼り出された。内容は……アイテム収集か。指定された3つの依頼物を先にギルドに持って来たパーティーの勝ち、という内容だった。
ギルド内の冒険者たちも興味津々なようで、一部ではどっちが勝つかの賭けも行われているみたいだ。私のクビがかかっていると言うのに、無関係な人たちは呑気なもんだ。
私たちはギルドのテーブルに集まって、いつも通り作戦を立てることにする。一番最初に依頼内容を見たミーユが、開口一番に不満を漏らした。
「ねぇ!これってさ、私たちが不利じゃない?依頼物は3つもあるんだから、手分けして探せる人数の多いあっちのパーティーの方が絶対有利だと思うんだけど!」
「あのなミーユ。あいつらが依頼を選ぶ権利を持ってるんだ。そりゃ相手が不利になるルールを持ってくるだろう。当たり前のことだ、勝負なんだからな」
「むぅ……。えっと、集める依頼物は『フレイムドレイクの爪』『月光水』『ムーラン花』か……私はどれも聞いたことないけど?エルンは知ってる?」
「いや、私も聞いたことないかも……」
私の知識でも、どれも初めて聞く名前の物ばかりだ。まずはこの3つがどこにあるのか、場所を調べるところから始めないとだよね。
「ならエルン。お前は王都の図書館へ行って、採取物の場所の情報を確認してこい。ミーユは街で聞き込みをして情報を拾え。話はそれからだな」
「え?ブレイドさんは?」
「オレはここで待ってるからよ。酒でも飲んでな」
「……」
この人は……まぁもう慣れたけど。とりあえず私とミーユはギルドから外に出て、お互いやるべき事の為に別れた。
残りは4日。それまでに依頼物のある場所を調べないと。自分のクビがかかっているのもあるけど、初めて心から信頼できる2人……2人?あのしょうもないおじさんは別として、初めての依頼に、私はやる気に満ち溢れていた。
そのまま私は図書館に向かうため、街の噴水広場の前を歩いていた。すると、見覚えのある人物がベンチに座っているのを見かける。
腰まで伸びる長い金髪に、白いローブ。まるで聖女のような可憐な雰囲気の少女。間違いない。私と入れ替えでクロスのパーティーに入った後衛の子だ。
でも、彼女はうつむいて、今にも泣き出しそうなすごく寂しい顔をしている。その姿になぜか放っておけなくて、私は思わず声をかけてしまった。
それは、どこか『パーティーを追放された自分』に似ていると思ったからかもしれない。
「あの……」
「!?あっ、『便利屋』さん……じゃなかった、えっと……エルンさん。その、すみません……」
「あっ、うん。えっと、あなた確か、私と替わってクロスのパーティーに入った人だよね?」
「はい。アティ=ホワイトロックです」
近くで見ると、正に『癒しの聖女』という表現がぴったりの、息を呑むほど可憐な少女だった。しかし、その顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。
「どうしたの、こんなところで。何か悩みごと?」
私がそっと尋ねると、彼女はビクッと肩を震わせた。
「あっ……はい。その……」
言い淀む彼女の膝の上に、ふと視線が落ちる。彼女の小さな両手は、ブロンズランクの冒険証を、指の関節が真っ白になるほど痛々しく握りしめていた。
「あれ、ブロンズ?クロスのパーティーはシルバーランクじゃ?」
「……先程、パーティーを追放されました」
「えっ!?追放!?」
「はい。もっと探索や回復に長けた優秀な人が見つかったから、もういらないって言われてしまって。えへへっ……」
胸の奥が、ギュッと冷たく締め付けられた。
自分が上にのぼるためなら、昨日まで一緒にいた仲間を平気で切り捨てる。それがクロスという男だ。私も、そうやって都合のいい道具のように捨てられた。
「あの、エルンさん。私って、パーティーの中で何ができるように見えますか?」
何ができる?うーん。正直分からないというのが答えなんだけどね。見た目だけで言えば『癒しの聖女』なんだけど。
「え?分からないかな。私は、アティのこと知らないし」
「……エルンさんみたいなリーダーなら、私の事を最初からあんな風に扱わなかったのかもしれませんね」
「え?」
勝手な思い込みで人を型にはめ、使えなければ見限る。クロスたちは彼女に一体何をしたのだろう。
そういえば、今の彼女はギルドで会った時に持っていた杖を持っていない。代わりに、ベンチの横には大きな布でぐるぐる巻きにされた、とんでもなく重そうな『何か』が立てかけられていた。彼女の華奢な体つきには全く似合わない、大きな『それ』から、私は目を離せなくなった。
「あのアティ?聞いてもいい?」
「はい、何でしょうか?」
「その布でぐるぐる巻きにされてるのって、もしかして……アティの『本当の武器』?」
私の言葉に、アティはハッと息を呑んだ。大きな瞳にみるみると涙が溜まり、泣き出しそうな顔でコクコクと何度も頷く。
「……はい。結局、向こうのパーティーでは一度も、この布を解かせてもらえませんでしたけど……」
◇◇◇
私がギルドに戻ると、街に聞き込みに行っていたミーユはすでに戻っていて、ブレイドさんと一緒にテーブルについていた。
「あっ、お帰りエルン……あれ?はい?」
「ああ?お前は一体何がしたいんだエルン。何で相手パーティーのやつなんか連れてるんだ?」
「ブレイドさん、ミーユ。この子はアティ。今日クロスのパーティーを追放されたみたいなの。その……私のパーティーにいれようと思うんだけど……どうかな?」
勝手なことをしているのは分かっている。でも、見過ごせなかった。私は少し食い気味に2人にお願いする。
すると、そのお願いに考えるそぶりすら見せず、2人はすぐにこう言った。
「そなの?新しい仲間だね!私はミーユ、よろしくね!」
「リーダーはお前だろお前が決めろ。とりあえずオレはブレイドだ。……っでエルン、お前はちゃんと図書館で依頼物の事を調べてきたんだろうな?」
「え?え?そんなにあっさり受け入れてくれるんですか?私の実力とか、何も知らないですよね?」
アティはすんなり2人が受け入れてくれたことに、目を白黒させて戸惑っている。ブレイドさんもミーユも、きっと私の判断を信頼してくれているんだよね……たぶん。
「じゃあ決まり。アティは今から私たちのパーティーね。この後ルナレットさんのところでパーティー登録しようね!」
「はいっ。その、アティ=ホワイトロックです!よろしくお願いいたします!」
「……エルン。お前に、『パーティーに絶対必要』みたいなそんな素晴らしい思考はないと思うが、お前いいやつを連れてきたな?」
私はブレイドさんにそんなことを言われて、思わず自分の頬をつねってみた。痛い!夢じゃない!?このおじさんが素直に私を誉めるなんて、初めてじゃないか!?明日世界が終わる予兆だったらどうしよう!?
「アティって言ったか?このパーティーの前衛はオレしかいなかったから、お前が加入してくれて助かった。これで依頼や作戦の幅が広がる」
「!?……どうして私が前衛だと分かったんですか?容姿を見て、回復魔法が使える後衛のクレリックとか思いませんでしたか……?」
「ああ?何言ってんだお前?魔力の流れを見れば一応、回復魔法も使えるんだろうが、その立ち姿の重心の取り方、体幹のブレのなさ、その手のひらに刻まれた分厚いマメ……だいたい、お前が背負ってるその布巻きの塊。屈強な男でも扱うのが難しい巨大な『バトルハンマー』だろう。どう見ても、最前線で重武器を振り回す戦士のそれだ。違うのか?」
そう、ブレイドさんの言う通り。見た目は聖女だけど、彼女は巨大なバトルハンマーを振り回す戦士。いわばバリバリの前衛なのだ。
ブレイドさんの言葉を聞いて、アティの大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……っ!誰も、そんなこと言ってくれませんでした……っ」
アティは堪えきれなくなったように、ボロボロと涙を流しながら本当の理由を口にした。
「私、本当は戦士なんです。でも、クロスさんたちにそう伝えたら『前衛はグラッドがいるから必要ない。お前は回復だけしてればいい』って、無理やり杖を持たされて……。万が一のためにこのバトルハンマーを持っていたら邪魔とか言われて……私、初級の回復魔法しか使えないのに、期待外れだってずっと怒られてて……うわぁぁん!」
「あ〜っ!ブレイドが女の子泣かせた〜!最低〜!」
「ああ!?オレのせいなのか!?お前なんで泣いてるんだ?泣くなよ!」
「すみません……私……嬉しくて……っ。精一杯頑張りますので、よろしくお願いいたします!」
自分の本当の力を認めてくれる仲間に出会えた喜び。それは、少し前の私と全く同じだった。
こうして私は、新しくバトルハンマーを使う戦士のアティをパーティーに加え、4人でクロスたちとの勝負に挑むことになるのだった。




