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大賢者の絶対安眠防衛戦~奴隷紋をハックして究極のヒモになったはずが、元宿敵のブラック労働から逃げられない~  作者: あめたす


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【第55話】神の人事権乱用と、雇い主の責任

【第55話】神の人事権乱用と、雇い主の責任


 静寂の壊し屋オルディウスの指先から放たれた、最悪の消去プログラム(デリート)。

 それが、ゼロスの首元と、後方にいたヴィクトリアの胸元に刻まれた『奴隷紋』へ直接叩き込まれた。


「ガ、ァ……ッ!」

 ヴィクトリアの細い喉から、悲鳴ともつかない激しい掠れ声が漏れる。

 神のシステムが「不当契約」を強制的に消去しようと、凄まじい熱量をもって奴隷紋の魔力回路を焼き切りにきたのだ。限界を迎えていた彼女の脆弱な肉体はそれに耐えきれず、どさりと凍りついた大地へ崩れ落ち、口の端からドクンと赤黒い血を吐き出した。


「おい、ヴィクトリア!」

 ゼロスも首の激痛に顔を歪めながら、彼女の傍へ膝をつく。

 視界が霞み、浅い呼吸を繰り返すヴィクトリアは、自身の胸元を抑えながら、氷のように冷え切った指先でゼロスの頬に触れた。


「……もう、いいわ、ゼロス」

 彼女の指が、奴隷紋の接続を自ら切断しようと、微弱な魔力を紡ぎ出す。

「神の標的は、この不当な契約(奴隷紋)よ……。私がこれを手放せば、貴方は神の標的から外れて自由になれる。……だから、この契約を解除しなさい。あとは私が、この肉体ごと神を――」


「バカ言え」

 ゼロスは、自らの命を投げ出そうとするヴィクトリアの細い手首を、乱暴に掴んで引き留めた。


「勝手に会社のシャッター下ろしてんじゃねえよ。……俺はな、俺が辞表を出すまで、絶対に退職しねえぞ」

「……ッ、貴方、自分が何を言っているのか分かっているの!? このままでは、二人とも神のシステムに焼き殺されるのよ!」


「上等だ! どこのどいつか知らねえが、俺の『三食昼寝付きの正社員(ヒモ)契約』を勝手に派遣切り(リストラ)しようとしてんじゃねえぞ!」

 ゼロスは血を吐くヴィクトリアを庇いながら、虚空に浮かぶオルディウスを死んだような目で睨みつけ、ブチギレた。

「不当解雇の撤回を要求する! 労働基準法違反だ、神界相手だろうが労働審判起こしてやるからな!!」


 世界の存亡を懸けた神との死闘。己の命を投げ出そうとするヒロインの重厚な自己犠牲を、大賢者は「俺をクビにするな」という最低極まりない理由で叩き潰した。

 だが、その狂った執着の裏にある不器用な熱に、ヴィクトリアの凍りついていた瞳が微かに揺れ、その口元に呆れと、隠しきれない歪な安堵が入り交じる。


---

【結界改竄アラート】

[System] 神界(管理者)による強制解除(デリート)プロトコルを検知。

[Process] 契約のマスター(ヴィクトリア)からの解除同意リクエストを受信。

[Warning] 契約の非所有者(ゼロス)が、マスター権限を強制オーバーライド。

[Update] 解除リクエストを拒否。奴隷紋のシステムコードに物理的ロックを実行します。

---


「……愚かな。主人が手放そうとした権利を、奴隷側から強制的にロックして維持するなど。意味のないシステムの逆転だ」

 オルディウスが、無機質な声で冷酷に告げる。

「エラー因子(不当契約)は、消去する」


 オルディウスがゆっくりと手を掲げた。

 空間そのものが圧縮され、回避も防御も不可能な『死の閃光(完全消去のデリート攻撃)』が、ゼロスたちへ向けて一直線に放たれた。


「チッ……! 間に合わねえ……ッ!」

 ゼロスの両手が仮想コンソールを叩き割るような速度で動くが、神界の絶対的な処理速度を前に、防衛結界のコーディングがコンマ数秒足りない。

 死の光が、二人を完全に飲み込もうとした――その瞬間だった。


「……1000ゴールド。やっぱり完全にチャラにしてやるよ……」

 ゼロスたちの目の前に、一人の青年が飛び出していた。

 正気を取り戻したばかりの、本物のルシアン。

 彼は自らの命のコアである『魔力回路』を限界を超えて暴走させ、己の肉体を『絶対防壁(ファイアウォール)』へと変異させて、神のデリート攻撃を真正面から受け止めたのだ。


「ルシアン……ッ!?」

 親友の体が黒焦げに焼かれ、戦場に焦げた肉の匂いが充満していく。絶体絶命のピンチを凌ぐための、あまりにも重すぎる代償だった。


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