【第54話】不良債権の回収と、再起動(リブート)
【第54話】不良債権の回収と、再起動
神界からの使者オルディウスによって記憶をフォーマットされた『本物のルシアン』が、無機質な瞳のままゼロスへ向けて高純度の光魔術を展開する。
「排除シーケンス、起動。……目標、不当契約者」
「チッ……!」
ゼロスはヴィクトリアを庇いながら、極小の魔力で構築した「コタツ空間」から飛び出し、戦場の凍りついた大地を転がるように回避した。直後、彼らがいたコタツ空間が跡形もなく消し飛ぶ。
「無駄だ。システム権限を奪われた状態では、彼の脳に外部からハッキングを仕掛けることは不可能だ」
オルディウスが冷酷に宣告する。「パスワード(言葉)は弾かれ、記憶は全てゴミ箱に送られている」
「……言葉が通じねえなら、物理キー(ハードウェア)を直結させるまでだ!」
ゼロスは光線の雨をすり抜け、パジャマのポケットから一枚の古い羊皮紙を取り出した。
それは5年前。酒場でベロベロに酔っ払ったゼロスが、ルシアンから1000ゴールドを借りる時に『本人の血と魔力』で無理やりサインさせた正式な借用書だった。
「くらえ!!」
ゼロスはその借用書に魔力を乗せ、ルシアンの顔面へ向けて強引に叩きつけた。
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【結界改竄アラート】
[System] 対象の脳内メモリへ、物理的ハードウェア・キーの直接接続を実行。
[Process] 借用書に刻まれた『本人の魔力と生体データ』を参照し、削除領域に隔離されたバックアップ・データを強制解凍します。
[Update] 「大賢者ゼロスへの債権記録(1000ゴールド)」の復元に成功しました。
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「ガ……、アァァァッ!?」
借用書が額に張り付いた瞬間、ルシアンの動きが完全にフリーズした。
神界のフォーマットと、借用書による強制バックアップ復元が脳内で衝突し、彼のOSが激しいバグを起こして再起動を始めたのだ。
「……ゼ、ロス……?」
数秒後、ルシアンのガラス玉のような瞳に、かつての親友としての光が宿る。
「お、俺は……何を……。……そうだ、俺はあいつら(神界)に操られて……自分の手で、この戦争を引き起こして……」
自分のしでかした事の重大さに気づき、ルシアンは戦場に膝をつき、両手で顔を覆った。
「俺のせいで、世界が……魔界も人間界もめちゃくちゃだ……。もうダメだ、俺を殺してくれ、ゼロス……!」
親友の絶望。
だが、大賢者はその悲壮な覚悟を、最低な理由で蹴り飛ばした。
「勝手に絶望して死のうとしてんじゃねえッ!!」
ゼロスはルシアンの胸ぐらを掴み、思い切り顔面を殴り飛ばした。
「お前が今ここで死んだら、俺の借金1000ゴールドが『死んだ親友への香典代わりのチャラ』みたいになって、一生俺の心に負い目が残るだろうが!!」
「……は?」
殴られたルシアンが、涙と鼻血を流しながらポカンとする。
「俺はな、お前から完膚なきまでに『完全に踏み倒したい』んだよ! 香典代わりなんてまっぴらごめんだ! だから絶対に生き残って、俺に借金の返済を請求し続けろ! !」
絶望する親友を救う理由が、「借金を踏み倒したいから」という最低の屁理屈。だが、その狂った論理の裏には、ゼロスなりの『生への執着』と不器用な友情が確かに込められていた。
「……っ……、ふ、ははっ」
ルシアンの目から、別の涙がこぼれ落ちる。
「お前……本当に、最低のクズだな……。……ああ、わかったよ。1000ゴールドに利子つけて、絶対に回収してやる……!」
熱い友情の復活を、債権者と債務者のトラウマとして描き切ったその時。
戦場の空気を、最悪の冷気が撫でた。
「……バグ(友情)の復元を確認」
オルディウスが、表情一つ変えずに虚空から二人の首元を指差した。
「これより、下界の不当契約を直接強制解除する」
「……痛ッ!?」
ゼロスの首元と、後方にいたヴィクトリアの胸元の『奴隷紋』に、オルディウスの指先から直接、最悪の消去プログラムが叩き込まれた。




