【第52話】神聖緊縮と、非課税枠のコタツ空間
【第52話】神聖緊縮と、非課税枠のコタツ空間
魔界と人間界の国境線が、絶対零度の吹雪に覆われていた。
第三の神、フィデリウスが宣言した『神聖緊縮』。
戦場一帯の魔力濃度がシステム側から強制的に下げられ、大気中の水分が凍りつき、巨大な氷の結晶となって地面に降り注いでいる。
「……ッ……はァッ、はァッ……!」
急激な気温の低下と、魔力の枯渇。脆弱な肉体を持つヴィクトリアが、自身の体温を維持できず、雪原と化した戦場でついに倒れ込んだ。彼女の白い唇は紫色に変色し、細い指先からは感覚が完全に失われている。
「おい、ヴィクトリア! しっかりしろ!」
ザガンが駆け寄るが、魔王である彼自身も、魔力を封じられた環境下では凍えることしかできない。
その絶望的な極寒の中で、大賢者ゼロスはパジャマ姿でガタガタと震えながら、天を仰いでブチギレていた。
「マジかよお前ら! 会社の業績悪化を理由に、真冬に暖房の電源を強制的に切る最悪の外部監査役かよ!! 労働環境最悪じゃねえか!!」
「……静寂を。浪費は悪だ」
フィデリウスの乾いた声が吹雪の向こうから響く。
「下界の者は魔力を無駄に燃やしすぎている。これより先、すべての魔法行使はコンプライアンス違反として制限される。凍てつく美しき停止(氷河期)の中で、己の罪を数えるがいい」
神の絶対的な「総量規制」。どんな天才的な演算能力を持っていようと、出力するための魔力自体がシステム上存在しないのだ。
「……チッ、ふざけんな。経理部の締め付けが厳しけりゃ、抜け道(非課税枠)を探すのが優秀な社員の役目だろ」
ゼロスは死んだような目をシステムウィンドウの奥へ向ける。
「お前らの神聖緊縮システム……完璧に見えるが、システムそのものを維持するための『最低限の基礎魔力』は必ずどこかに流れてるはずだ。ゼロじゃシステムが動かねえからな」
ゼロスの脳内で、超高速の演算がスパークする。
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【結界改竄アラート】
[System] 大賢者権限(Admin)による、周辺魔力の微細解析を実行。
[Process] 緊縮システムの稼働を維持するための『エラー監視用バックグラウンド魔力』を検出。
[Update] 該当リソースを強制的に傍受・統合し、局地的な『恒温結界』を構築します。
[Notice] セキュリティホール(非課税枠)を利用した環境ハックに成功しました。
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「……よし、かき集めたぜ」
ゼロスが指を弾いた瞬間、倒れ伏すヴィクトリアとザガン、そしてゼロスの周囲「半径2メートル」だけに、うっすらと赤い光を放つ四角い魔方陣が展開された。
そこは、吹雪の戦場とは完全に切り離された、異常なほど温かく、安心感に満ちた空間だった。
「こ、ここは……温かい? まるで、毛布にくるまっているような……」
ヴィクトリアの呼吸が落ち着き、唇に血の気が戻る。
「暖房費ゼロで動く、究極の省エネ空間だ」
ゼロスは満足げに結界の真ん中にあぐらをかいた。「これなら経費削減の監査役サマも文句言えねえだろ」
極寒の戦場で血を吐くヒロインを、神の目を盗んだ極小の魔法(温もり)で救い出す。美しくも切実なシリアスとギャグが交差する、大賢者による奇跡。
だが、安堵も束の間。
コタツ空間の中から外の戦況を睨んでいたゼロスは、フィデリウスと、先程工事を止められたマクシミリアン、そして背後に控えるオルディウスの3人の行動ロジックを解析し、ある事に気がついた。
「……おい、あいつら」
ゼロスが不敵な笑みを浮かべる。
「マクシミリアン(営業部)は無限の予算で工事を伸ばそうとしてるのに、フィデリウス(経理部)は経費を削ろうとしてる。……こいつら、同じ親会社から来てるくせに、部署間の連携が全く取れてねえぞ」
神々の絶対的なシステムに潜む、大企業特有の『致命的な矛盾(縦割り行政)』。
「親会社の経営方針がブレブレなんだよ。……なら、その矛盾、存分にバグらせてやる」
ゼロスの瞳の奥で、神々を自壊させる究極の反撃、『パラドックス・ハック』の構築が始まろうとしていた。




