【第51話】ゼネコン神の降臨と、休日の騒音被害
【第51話】ゼネコン神の降臨と、休日の騒音被害
ルシアンの指先から、戦場すべてを蒸発させる極大の閃光が放たれようとした、その瞬間。
『ドゴォォォォォォォォンッ!!!』
ルシアンの光線ではない。上空の分厚い冬の雲が物理的に引き裂かれ、空から『巨大な黄金の岩盤』が落下してきたのだ。
ルシアンとゼロスたちの間に落ちた巨大な岩盤が、魔界の国境線にあった険しい山脈を、まるで泥細工のように一瞬で押し潰し、平らな荒野へと変貌させた。
凄まじい土砂が舞い上がり、黄金と雨上がりの重い土の匂いが戦場を覆い尽くす。
「な、なんだアレは……!?」
ザガンが土煙の中で悲鳴を上げる。
濛々と立ち込める粉塵の中、上空からゆっくりと巨大な影が降臨してきた。その巨体は不気味なほど脂汗にまみれており、動くたびに大地が低く唸りを上げる。
「……下界のインフラは、いささか貧弱すぎるな。これでは物流が滞り、富が偏り、バグ(戦争)が起きるのも無理はない」
野太く、しかしどこか朗々とした声が響き渡る。
「私が、この曲がりくねった土地を『神の街道』として綺麗に舗装してやろう。神界の恵みを受け取るがいい」
静寂の壊し屋オルディウスに続き、第二の神――土砂と黄金の神将、マクシミリアンが降臨した。
彼は無限の神聖魔力を使い、魔界と人間界の国境そのものを『物理的に削り平らげ』始めたのだ。山が消え、森が消滅し、ただ直線的で無機質な黄金の道が、暴力的な速度で形成されていく。
「や、やめろ! 魔界の領土が、魔獣たちの森が勝手に削られていく!」
ザガンが絶望して叫ぶが、マクシミリアンは一瞥もくれない。神にとっては、自然も国境も「非効率な障害物」に過ぎないのだ。
ヴィクトリアも顔面を蒼白にしている。彼女が長年、血反吐を吐きながら維持してきた泥臭い辺境の生態系と防衛結界が、無限の予算(魔力)の前にただの「公共事業」として一掃されていく絶望的なシリアス。
だが、その地獄のような光景の中で、パジャマ姿の男が一人、耳を塞ぎながらブチギレていた。
「うるっっっせええええええなああ!!!」
大賢者ゼロスが、凍りついた地面を蹴り飛ばした。
「おいクソデカ親父!! 休日の朝から俺の家の前(戦場)で、アポ無しのドリル工事始めやがって! 騒音レベルが基準値(安眠)を完全に超えてんだろうが!」
「神の奇跡」による圧倒的な環境改変を、ゼロスは「最悪の休日の騒音被害」として認識し、ガチの苦情を入れ始めたのだ。
「……無知なる下界の民よ。これは救済のインフラ整備だ。立ち退きには後で神の恩恵を支払おう」
マクシミリアンが威圧的に告げるが、ゼロスの死んだ目は一切揺るがない。
「立ち退き料の問題じゃねえ! そもそもお前ら、ここの『環境アセスメント(魔力還流の自然法則)』の認可を取ってねえだろ!」
ゼロスはパジャマの袖を捲り上げ、虚空に無数のシステムウィンドウを怒濤の勢いで展開した。力押し(魔力)で神のブルドーザーを止めることは不可能だ。だが、相手が「システム化された自動敷設プログラム」であるなら、話は別だ。
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【結界改竄アラート】
[System] 大賢者権限(Admin)による、周辺地域の環境変数を強制上書き(オーバーライド)。
[Process] 該当エリアに『レッドリスト(絶滅危惧種の魔物)の生息地』というダミー変数を流し込みます。
[Update] 生態系保護のコンプライアンス・プロトコルを起動。
[Notice] 神の自動敷設プログラムに『認可エラー』が発生しました。
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「……何ッ!?」
マクシミリアンの表情が初めて驚愕に歪む。
彼の周囲で自動的に大地を削り出していた神聖魔力が、突如として不自然に明滅し、「工事」がピタリと停止したのだ。
「どんなデカいゼネコン(神)でも、役所の認可手続きと、環境保護のコンプライアンス違反には勝てねえんだよ」
ゼロスは鼻で笑う。巨大なエネルギーをぶつけるのではなく、「自然保護区なので工事できません」というシステム的な屁理屈(行政手続き)で、無限の魔力を強制停止させるという、最高にセコい知能戦の勝利。
マクシミリアンが「小賢しいハッキングを……!」と激怒し、力技でシステムを突破しようとした、その時だった。
突如、戦場を覆っていた土砂の匂いが一掃され、肺の奥まで凍りつくような『絶対零度の冷気』が戦場を支配した。
「……マクシミリアン。見苦しい浪費だ。下界への魔力の過剰消費は、神界の寿命を縮める」
空気中の水分が凍りつき、微細な音を立てて落下する中。
一切の汗をかかず、肌が古い羊皮紙のように乾燥した第三の神――清貧なる冷界、フィデリウスが音もなく降臨した。
「これより、『神聖緊縮』を実行する。下界のすべての魔力使用を制限し、美しき停止(氷河期)へと導こう」
彼が宣告した瞬間、戦場一帯の気温が急激に低下し、猛吹雪が吹き荒れ始めた。
「……ッ……はァッ、はァッ……!」
寒気による急激な環境変化。脆弱な肉体を持つヴィクトリアが、関節を軋ませ、唇を紫色に変色させてその場に倒れ込んだ。ゼロスのクレームによって騒音は止まったが、今度は「凍死」というリアルな絶望のインフレが、彼らに襲い掛かろうとしていた。




