【第46話】ダミーノードの解析と、見えないサーバー
【第46話】ダミーノードの解析と、見えないサーバー
硝煙と血の匂いが立ち込める最前線。
大賢者ゼロスはパジャマのまま凍りついた土の上にしゃがみ込み、機能停止した偽ルシアン(ダミーノード)の頭部に手を当てていた。
「おいゼロス、何をしている。まさか死体を弄る気か?」
ザガンが顔をしかめるが、ゼロスは死んだような目で虚空のシステムウィンドウを展開し続けている。
「弄るんじゃねえ、解析だ。こいつの脳内に残された『遠隔操作の受信ログ』を辿れば、必ず真の黒幕のIPアドレス――物理的な座標に辿り着ける」
ゼロスの指先から、探針のような細い魔力が偽物の脳髄へと侵入していく。
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【結界改竄アラート】
[System] ダミーノードの通信キャッシュを解析中。
[Process] 偽造された魔力波長のシグネチャを剥離し、オリジナルの送信元ポートを逆探知します。
[Update] 経由されたプロキシ(中継地点)を5,432件突破。
[Notice] 最終接続先サーバーの物理座標を特定しました。
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「……ビンゴだ」
ゼロスはパジャマの膝を払いながら立ち上がった。
「黒幕は、魔王城の地下でも人間界の辺境でもない。……人間界の王都、その中心にある『王城の深部』から、安全にこの戦場をコントロールしてやがった」
その言葉に、ヴィクトリアの氷の視線が鋭く細められた。
「……王城の深部? ということは、ルミナスやクロノスが直接手を下したと?」
「いや、違うな」
ゼロスは首を振る。
「ルミナスみたいな熱狂だけのガキや、クロノスみたいな『計算できるものしか信じない』四角四面な官僚に、こんなウイルスみたいなドブ板の泥臭いハッキングは組めねえ。……黒幕は、新体制の光の裏に隠れた、もっと別の『腐った古いシステム』の残骸だ」
――同じ頃。人間界、王都。
血走った目で「聖域なき改革」を叫ぶルミナス王太子と、それを冷徹な数式で支えるクロノス。彼らが指揮を執る華やかな戦略会議室の、さらに地下深く。
カビと古い羊皮紙の匂いが充満する窓のない部屋で、一人の男が水晶宮の前に座っていた。
「……ほう。私の『複製』が、処理限界を超えて強制終了されたか」
男――宮廷筆頭魔術師ジークフリートは、深く曲がった腰をさすりながら、湿った体臭と共に低く笑った。かつてヴィクトリアと共に王国の暗部で泥臭い交渉を回してきた、守旧派の最高実力者。
「まさか、あの魔界のシステムに、これほどの『イレギュラーなバグ』が潜んでいたとはな。ヴィクトリアの仕業ではない。……彼女には、あのような洗練とは程遠い、野蛮なコードは書けない」
生き残るために同志を売り飛ばした、湿った怨念のキングメーカー。彼こそが、大戦というバグの裏で蠢く真のサーバーだった。
一方、戦場。
真の敵の座標を特定したゼロスだったが、ひどく気怠そうに大きな欠伸をした。
「まあ、場所が分かったからって、俺から王都まで乗り込んでいく理由もねえしな。あとはルミナスとクロノスが勝手に内部崩壊するのを待つか」
「貴方……!! 魔界がこれほど蹂躙されておいて、まだ逃げる気!?」
ヴィクトリアが激怒するが、ゼロスはどこ吹く風だ。
「当たり前だろ! 俺の契約には『魔界の防衛』はあっても『敵国への積極的な出張(海外赴任)』なんて一言も書いてねえ! これ以上の業務拡大は断固拒否する!」
国家の仇を討つ絶好のチャンスを、「海外赴任は嫌だ」という最低なサラリーマンの言い訳で放棄しようとする大賢者。
だがその時、ゼロスの足元に転がっていた偽ルシアンの死体が、突如として不気味な光を放ち始めた。
「……ん? なんだ、まだ通信回路が生き……ッ!?」
ゼロスが目を丸くした瞬間。
『――警告。管理者からの強制コマンドを受信。当該ダミーノードの自爆シーケンス(物理的な証拠隠滅)を起動します』




