【第43話】借金の確認と、強制ログイン
【第43話】借金の確認と、強制ログイン
ルシアンの足元から膨張した空間が、極大の閃光となって戦場を薙ぎ払った。
大地が抉れ、魔王軍の野営地が跡形もなく消し飛ぶ。後方へ跳躍したゼロスが即席で展開した十重の多重結界すら、その圧倒的な光の奔流の前にガラスのように砕け散った。
「くっ……!」
ヴィクトリアが咄嗟にゼロスの前に立ち塞がり、全身の魔力を振り絞って氷の絶対防壁を展開する。光と氷が激突し、凄まじい衝撃波が戦場を吹き荒れた。
光の奔流が収まった後、ヴィクトリアの口からドクンと大量の血が吐き出された。限界を超えた魔力行使により、彼女の脆弱な肉体の内側で無数の魔力回路が悲鳴を上げて焼き切れている。
「……何故だ、ゼロス! なぜ奴が偽物だと分かった! 奴の顔も、声も、魔力の波長すらルシアンそのものだったぞ!」
かろうじて閃光を躱したザガンが、大剣を地面に突き立てながら血走った目で叫ぶ。
「あんなの、簡単なパスワード認証だ」
ゼロスはパジャマの腹を掻きながら、土煙の向こうで機械のように立ち上がるルシアン(偽物)を死んだような目で睨みつけた。
「本当のルシアンなら、『俺にいくら借金がある?』って聞かれたら、絶対に『俺がお前に貸したんだろ!』ってキレて返してくるはずだ。俺が一方的に借りてる側(踏み倒し中)だからな。……あいつが『1000ゴールドだ』って認めた瞬間、中身が別モノ(同期エラー)だって確定したんだよ」
親友の偽物を看破した理由が、「クズすぎる金銭感覚の不一致」という最低のロジック。
血を吐きながら防戦していたヴィクトリアが、心底軽蔑したような冷たい視線をゼロスへ向ける。
「……貴方、本当に大賢者としての誇りはないの?」
「誇りで飯が食えるか! そもそも俺は後方支援契約だ! 前衛(力仕事)は雇用条件に入ってねえぞ!」
国家存亡の危機と親友(偽物)の裏切りという重厚なシリアス空間で、己の借金踏み倒しを棚に上げ、契約書を盾に労働を徹底回避しようとするゼロス。
だが、土煙を切り裂いて再び放たれたルシアン(偽物)の光線は、そんな不条理な漫才を許さなかった。
「排除シーケンス、再実行」
無詠唱、ノーモーション。人間の関節の可動域を完全に無視した、まるで操り人形のような不気味な挙動で、数十発の光線が乱れ飛ぶ。
「……チッ、動きに遊びが全くねえ。あいつ、中身(OS)が完全にフォーマットされて、外部からマクロで強制操作されてるぞ」
ゼロスは舌打ちをし、ヴィクトリアの背後に隠れながら虚空のシステムウィンドウを叩き出す。
「元々のルシアンの魔力出力に、管理者の『ルート権限』を上乗せしてやがる。あんなバグみたいなチート火力を連発されたら、お前のポンコツボディじゃ三分も持たねえぞ」
「なら、貴方も前に出て戦いなさい……ッ!」
ヴィクトリアが再び氷の防壁を展開するが、光線の雨に削られ、彼女の細い腕の骨がミシミシと嫌な音を立てて軋む。氷結の魔力が彼女自身の体温をも奪い、その白い指先は凍傷で黒く変色し始めていた。
「俺は直接攻撃(高出力)はやらないって言ってんだろ! 疲れるからな!」
血を流し限界を迎える宿主の背後で、究極のヒモ男はあくまで己の怠惰を貫き通そうとする。
「だけど……俺のメシの種(安眠のベッド)をブチ壊そうとするクソ忌々しいマルウェアを、このまま放置する趣味もねえ」
ゼロスの瞳の奥で、無数の演算回路が冷たく発光し始める。
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【結界改竄アラート】
[System] 大賢者権限(Admin)による仮想コンソールを展開。
[Process] 敵対対象が実行中の攻撃プロセスへ、強制的な割り込み(インジェクション)を開始します。
[Warning] 管理者同士の権限の奪い合いに発展。
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「……仕方ねえ。俺の有給を削ってでも、あいつの中身を完全にクラッシュさせてやる」
物理的な魔法の撃ち合いではない。大賢者による、前代未聞の「管理者権限の奪い合い」という極限のサイバー空間の死闘が、静かに幕を開けた。




