↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の絶対安眠防衛戦~奴隷紋をハックして究極のヒモになったはずが、元宿敵のブラック労働から逃げられない~  作者: あめたす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/57

【第18話】エコーチェンバーの構築と、純化という名の狂気

【第18話】エコーチェンバーの構築と、純化という名の狂気


 神聖教国ヴァレリウス、大聖堂。

 外部への通信経路を完全に遮断され、教国内の信者ネットワークのみでループするよう書き換えられた閉鎖空間(エコーチェンバー)。

 その淀んだ空気の中で、聖女アメリアの狂気は純度を極限まで高めていた。


「……ッ、痛い……口の中が、痛いのよォッ!!」

 アメリアは乱れた純白の修道服を掻き毟りながら、ヒステリックな絶叫を上げた。

 行き場を失い逆流した魔力が、彼女の口内の粘膜に無数の血豆を形成している。ギリッ、と奥歯を噛み締めるたびに血豆がぐちゃりと潰れ、口の端から赤黒い涎が滴り落ちた。


「でも、分かるわ……! これは神が与えた試練! 私たちの祈りを邪魔する『膿』が、まだこの中に潜んでいるからよ!」

 ゴクリ、と生温かい血を飲み込む不快なリップノイズ。

 血走った両目を見開き、アメリアは広場を埋め尽くす信者たちをねっとりと睨みつけた。

「私を疑う者は、すべて『膿』よ! 隣を見なさい! あなたの隣にいる人間は、本当に純粋な信仰を持っているかしらァッ!?」


 極限まで高められた同調圧力が、数万の信者たちを飲み込んだ。

 外部という「敵」を失った防衛システムは、その矛先を必然的に「内部」へと向ける。少しでも教義に反するノイズ(異物)を検知し、排除することでしか、自らの正当性を保てなくなるのだ。


「……はぁっ」

 その時、静まり返った広場の後方で、一人の信者が小さく息を吐いた。

 隣にいた男が、弾かれたようにその信者の胸ぐらを掴む。

「お前、今ため息をついただろ! 聖女様の言葉にため息をついたな! この隠れ膿め!」

「ち、違う! 今の時期、辺境から飛んでくる花粉で鼻が詰まって……ただの息苦しさだ!」

「言い訳など無用! 異端だ! 浄化しろォッ!」


 花粉症による極小の生理現象。

 本来なら見過ごされるはずのその些細なノイズが、極限の同調圧力下では「致命的なシステムエラー(反逆)」として認識される。

 広場のあちこちで、「瞬きの回数が多い」「祈る手の角度が浅い」といった異常な理由で、信者同士が互いを異端認定し、殴り合い、血を流し合う凄惨な内ゲバ(魔女狩り)が始まった。



 同時刻。辺境の領主の館、客室。

「カリッ、サクッ……あー、美味いなこの木の実」

 大賢者ゼロスは、ベッドの上に寝転がりながらポップコーンによく似た塩気の強い木の実を放り込んでいた。

 彼の視界には、教国内で巻き起こっている狂気のトラフィック(相互監視データ)が、システムログとして絶え間なく流れている。


「よしよし、見事に燃えてるな。閉鎖空間(エコーチェンバー)に閉じ込めて同調圧力を限界まで高めると、システムは『純度を高めようとする防衛本能』から勝手に内部崩壊を起こす。俺が手を下すまでもなく、連中は自給自足で勝手に自滅していくってわけだ」

 ゼロスは指についた塩を舐めとり、完全に安全圏のITコンサルタント気取りで高みの見物を決め込んでいた。


 部屋の隅では、ヴィクトリアが冷え切った目でそのログを眺めていた。

「……愚かな大衆ね。自らの正義を証明するために、自らの首を絞め合っている」

「まあ、あのアメリアって女も、そろそろ限界だろ。発信先のIPアドレスを教国内にループさせてるから、あいつの脳の処理領域はもうパンク寸前のはずだ」


---

【結界改竄アラート】

[System] 対象(アメリア)の魔力波、内部ループによる負荷増大。

[Warning] トラフィックの過密により、対象の論理演算領域に致命的エラーが発生中。

[Process] 対象が『論理的解決』を放棄。物理的アクションへの強制フェイルセーフを起動しました。

---


 突如、ゼロスの視界に警告ウィンドウが割り込んだ。

「……ん? 物理的アクション?」

 ゼロスが木の実を咀嚼する口を止めた、その瞬間。


 ズドォォォォンッ!!

 領主の館の正門が、凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。


「な、なんだ!?」

 ゼロスがベッドから跳ね起き、窓の下を見下ろす。

 巻き上がる土煙の中、純白の修道服を血と泥でドロドロに汚したアメリアが、肩で荒い息をしながら立っていた。彼女の背後には、互いを監視し合いながら虚ろな目をした数千の信者たちが、地鳴りのような足音を立てて付き従っている。


「……見つけたわよ、膿ィッ!!」

 アメリアは口の端から血の泡を飛ばし、館のバルコニーに立つヴィクトリアをねっとりと睨み上げた。

 情報ネットワークによる遠隔攻撃を完全に無力化されたアメリアは、ついに論理(システム)を投げ捨て、自らの足で直接乗り込んでくるという「最も原始的な手段」に出たのだ。


「出てきなさい、ヴィクトリア! この全信者の前で、私と直接……公開討論(精神攻撃)をしなさいッ!!」

 血走った目で叫ぶ聖女。

 ゼロスは手に持っていた木の実をポロリと落とし、絶望のツッコミを叫んだ。


「ネットワーク(リモート)で完結してた業務を、なんでわざわざ直接訪問(対面)でやろうとしてくるんだよ! 交通費の無駄だろ、帰れええええッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。