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ep4

「どうして今まで家の中に居たの?」




そう言えば、なぜ今まで気が付かなったのか。


ウナの一言で目が覚めた気がした。




「ウナはどうだったの?」


と聞き返した時のウナの返事が怖かった。




「え? ずっと外に出てたよ?」




「え…あ…そうなんだ…」


俺は聞きたくない方の答えをウナが言ったが


やっぱりと思った。




「リースおじさんはアシュリーは病気なんだって


言ってたけど…もう治ったの?」




「え?…う‥うん、そうなんだ…」


今はそうやって合わすしかなかった。





「おかえり!アシュリー!」


母エミリアが玄関で出迎えてくれた。




「ウナちゃん、アシュリーは迷惑じゃなかった?」




「とても楽しかったです。お義母さ…ごにょごにょ…」




「え?」




「また明日ね!アシュリー!」




ウナは意気揚々と帰っていった。




「アシュリー、ご飯にしましょう。


手を洗って来て。」




「うん…」


俺の返事は中途半端だった。




「…?」




母はちらりと俺を見た。





食事中、俺は言葉が少なかった。


見かねた父が切り出した。




「アッシュ、どうした? 何かあったか?」




「そうね、元気ないわね。」


母は妹たちの口に食事を運びながら言った。




「僕はどうして外に出ちゃダメだったの?」




俺の一言で、一瞬時間が止まったように感じた。




そして父は母を見た。


「なあエミリア、アシュリーは賢い。


もう言ってもいいんじゃないか?」




母は暫く考えていたが


「うん、そうね。


話しましょう。本当の事を。」





「アシュリー、お前は王家の血を引いている。」




俺は一瞬意味がわからなかった。




「どういう事? だって父さんと母さんは…」




「母さん…エミリアは、王の娘だ。」




そうして父と母は代わる代わる経緯を説明した。




要約するとこうだ。




兵士だった父は戦傷を負った。


介護に当たったのが、白魔導士であるエミリアだった。


その頃は猫の手も借りたいほど、人手が足らず


王族だろうがなんだろうが総出だったそうだ。


父は左足首の腱が切れ、兵士としては十分な働きが


出来ず、除隊した。


だが父と母はお互いが忘れられず、母は父の所在をつき止め


家出、強引に結婚した。


だが、王はこの事を知っており、黙認していると。




「で…本題はここからだ…」


父は母をちらりと見た。




「戦争によって、王の息子たちは次々と亡くなっていったんだ。


このままでは王家が途絶えるかもしれない事を危惧した王は


各地にいる王家の血を引く子供を探し始めた。」




「遠い親戚や、昔関係を持った女性など、王は各地に


捜索隊を送った。」




「当然、俺たちの所にも来た。」




「どうしたの?」




「あなたを隠し通そうと決めたの。村の皆も協力してくれたわ。」




「表向きにはお前は存在してない事になってる。」




「だけどね、王は、あなたのおじいちゃんは知ってる。」




「今まで隠し通せたのは王のおかげなんだ。」




「でもお父さん、おかしいよ。王様が僕の事を知ってるなら


もう隠す意味なんて無いんじゃない?」




「…それは…」




「エクセシアの民は皆、魔力を持って産まれて来るんだ。


10歳になると、魔力の測定が義務付けられている。」




「うん、知ってるよ。」




「だがな、アシュリー




お前には魔力が無い。」




「!?」




「私たちは気にしないわそんな事、そしておじいちゃんも。


あなたを遠くから見守ってくれている。」




前世での幼き日、親無しギリクといじめられた。


その光景が古い記憶から鮮明に思い出された。


自分だけが人と違うという孤独感。




「だがそれだけではないんだ。アッシュ…


王宮にはそれを良しとしない連中がいるんだ。」




「エクセシア人の特徴である赤毛、そして魔力…


それらを持ち合わせていない者はこの国の国民にあらず。


という思想を持っているの。」




「それが王族から出たとなれば…」




「そんなのは間違ってるし、許さない。」


母は語気を強めた。




「宰相レックス。奴は、執政のトップに君臨していて


絶大な力を持っている。


王ですらめったに口出しできないんだ。」




「陰では奴が敵国から賄賂をもらって


機密を流してるっていう噂もあるんだ…」




「じゃあどうして今になって外へ?」




「そのレックスの任期が終わるからさ。」




「アシュリー、あなたは間違いなく私から産まれた子


何も心配する事はないのよ。」




「ああ、王…おじいちゃんもついてる。


俺もな!」


そう言って父はウインクした。




俺は帽子を取り、エミリアの化粧台にある鏡を見た。


そこには銀髪の子供が写っていた。





俺はいつの間にか家族という幸せにどっぷりと


浸かっていた。


忘れていたのだ。


俺は前世では孤独だった。


当たり前のように両親の愛情を甘受していた。


だがどこかで違和感があったのだ。


俺にはそれを受ける資格が無いのではないか。


引っかかっていたのはそれだったのだ。


何故なら、俺の髪色は両親の、エクセシアのそれとは


違っていたからだ。




「僕は…ここに居てもいいの?」


ぼそりと俺は言った。


父と母の目つきが変わった。




「アッシュ…二度とそんな事を言うな。」


父の目からはいつもの優しさは消えていた。


その瞳は真っすぐ俺を射抜いていた。




そして涙がポロポロと頬を伝った。


父は俺を胸に抱き


「馬鹿野郎」と言った。


母も泣いていた。




父の豆だらけの手と傷だらけの腕を見て


「ごめんなさい」


と言うのが精いっぱいだった。




父は掠れた声で


「馬鹿野郎」とまた言った。




妹たちはぽかんと3人を眺めていた。




その夜、俺は眠れなかった。


ベランダに出て夜空を眺めていた。




「眠れないか?」




「父さん」




「親は、子のために存在してるんだ。」




「……」




「お前は俺たちを超えていくんだ。


俺を、母さんを踏み台にして」




「父さん…」




「魔法が使えない、髪の色が違う‥‥


些細な事だ。


もっとバカでかい壁が必ず立ちはだかる。」




「……」




「お前にしかできない事がきっとある。


何よりお前は頭がいい。


少なくともそこは俺の血は受け継いでない。」




俺は思わずフフッと笑った。




「あ、今笑いやがったな?」


父は軽く俺の頭に拳骨を落とした。




そして父は真剣な表情になったかと思うと


おもむろに言った。


「アッシュ、お前明日から俺の仕事場に


ついてこい。普通ちょっと早いがお前には


頃合いだろう。


それに…お前のあの変なスキル。


役に立つかもしれん。」




「うんわかった。」


俺はよくわからないが承諾した。




そう言えばこれも考えたことが無かった。


一体我が家は何で生計を立てているのか。


父の仕事は何か。




「ま、とにかく寝ろ アッシュ。


明日は少し早いぞ」





翌朝——




「なんですって!? アシュリーを連れていく!?」


母親の叫び声で目を覚ました。




「ああ、アシュリーなら大丈夫だと思ったんだ。


それに、早いうちから経験させておきたいんだ。」


父は剣を背中のホルダーに引っ掛けながら言った。




「私は反対…でもあなたを信じる。」


母はそう言ってハグをした。




「アシュリー、絶対にパパのいう事を聞く事。


勝手な行動をしない。約束できる?」




「うん。約束する。」


俺は答えた。


ただ、何をするのかもわからないのに


約束などできない。とは言えなかった。





「おはよう、ミッキー」


父は厩の前で馬をブラッシングしている屈強な男に声を掛けた。




「おう、おはよう、リース。」


ミッキーと呼ばれた男は振り返ってそう言った。




「みんなはまだか?」


と父は言うと。




「おいおい、もう先に行っちまってるよ。


…ん?」


ミッキーは俺を二度見した。




「おい、この坊主まさか…


アシュリー?」




「そうだ、おれのせがれだ。連れて行こうと


思ってよ。」




「なんだって!?正気かお前?」




「ああ、マジだ。


アッシュ、ミッキーに挨拶しなさい。」




「おはようございます。ミッキーさん」




「うん、おはよう。アシュリー」


ミッキーは強面だが笑うと愛嬌のある顔だった。




「じゃあ行くか」


そう言って父は馬にまたがって


俺を引っ張り上げ、前に座らせた。




前を行くミッキーの背中には巨大な戦斧が背負われていた。




俺はいささか不安になり


「ねえ父さん、どこに行くの?」


そう言った。




父はフフフと笑うばかりだった。




やがて、何かが見えてきた。


みるとそれは巨大な門だった。


門の左右には壁が続いていた。


高さは15mはあろうか。


門の両端には櫓が組まれていた。


櫓は壁より高く、20メートルはある。


大木を使った巨大な櫓だった。




「おーい!」


ミッキーが声を掛けると




「遅―い!」


と女の声がした。




「ワリい! バスケス! 交代だ!」


右側の櫓のハシゴから二人の人物が下りて来る。


二人とも女のようだ。




バスケスと呼ばれた女は男顔負けの体格をしていた。


露出の多い体には無数の傷が刻まれていた。


もう一人の女は弓を背負っていた。


背が高く、フードを被っていた。




「父さん…ここは」




「ああ、アシュリー、ここは砦だ。


あの扉から向こうはヴァ-ミリオ山脈だ。


俺たちの仕事はここを超えようとする


者への対応だ。」




聞けば、この砦の先もエクセシアの領地なのだが


いつの頃からか、この深い森には凶悪な


魔物が住み着き始め、時々、ここを超えようと


してくる魔物を追い返すのが仕事だと父は言った。


それに何より、人間には立ち入れない場所だとも言っていた。


俺は意味がわからなかったが、深く追及はしないでおいた。


これはれっきとした国の仕事なので、国から給料が支払われている


と言っていた。




「ふ~ん これがあんたのせがれかい!」


バスケスは俺をまじまじと見た。


そして俺とバスケスの視線が交錯した時


バスケスはハッとした。




「どうしたの?」


と俺が聞くと。




「いや、何でもない。父さんとはぐれるんじゃないよ」


といって去っていった。




「アシュリー、父さんについておいで」




俺は父の後をついて櫓のハシゴを登った。




見張り台に着くと


広大な森が目の前に広がった。


後ろを振り返ると、エクセシアン城が荘厳に輝いているのが


見えた。




その時、櫓(やぐら)に衝撃が走った。




「リース! 早速おいでなすったぜ!


朝一早々…!」




吠え声のような、唸り声のような


声の主はきっと巨大であろうと感じた。




バキバキと木が折れる音がする。


下を見ると、黒く毛むくじゃらの何かが


茂みの中に見え隠れしていた。

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