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ep27

「ここまで!!」

試験官の声が森に響いた。


日が沈んだ。

結局、シニカの洞窟まで辿り着いた受験生は、わずか三十七名だった。


「あの…試験官…先ほど救護テントに運ばれた

カイト・ジグナールと…もう一人は、合格なんでしょうか?」

カイトはまだしも、背負われていたスーミーという女子は

あるいは と思ったが、日没までにここに到達するという

点からみれば基準は満たしている事になる…


「もちろん合格だ。」

試験官は笑顔で答えた。


つまり二人とも今日の課題はクリアしたって事か。


「ケッ! 甘ぇ奴だぜ 反吐が出る!」

ラッツが吐き捨てながら去っていった。


って ラッツも見に来てるじゃないか…


「なんだかんだ心配なんじゃない。」

シルヴィがラッツの背中に向けて言い放った。


——————


「明日は早朝4時からブリーフィングを行う。

ここに集合だ。以上。」

試験官が大声で言った。


「え? 晩御飯…」

「もしかして、食い物が無いとか?」

口々に声がする。


「これは楽しいハイキングじゃない。

お前らが将来、この国を背負って立つ人材かどうか

見極める試験だ。」

試験官が言った。


確かにそうだ。

荒れ地、崖、深い森、砂漠、激流…

色んな状況下で戦略を練り、目的を遂行していかねばならない。

俺達は何かの競技を競っているわけではないのだ。


試験官は続けた。

「ここは自然が豊かな場所だ。

食事をとろうと思えばいくらでも可能だ。

それと…」

試験官は皆を見回した。


「リタイアはいつでも大歓迎だ。

辞退を申し出た者には暖かいスープと食事が

提供される。

飯が食いたければリタイアする事をお勧めする。」

試験官の顔は厳しいままだった。


この先、生半可な気持ちでは乗り切れない

って事か。


全員が静まり返った。


動けなくなれば否が応でもそれまでだ。

カイト達は確かに間に合った。

だけど、次に進めるかどうかは別問題なのだ。


それからは皆、黙って各々の行動に取り掛かった。

早々と寝袋にくるまって眠る者、

明日の予習に余念が無い者。

辺りの木の実を食べて腹痛を起こす者…


俺は空腹には慣れていた。

前世で、ある戦闘に巻き込まれ、手練れの一個師団から追われ、

何も食わずに丸三日、雪山を走り回った事もある。


「アシュリー君、これからどうするの?」

シルヴィが歩いてきた。


「カイトの様子を見に行こうと思って。」


「うん、私も思ってた。」


そして俺とシルヴィはカイトのいるテントに向かう事にした。


テントの幕をあけると話し声が聞こえた。


聞いたことのある声だ…

たしか蒼鷺騎士団の…


「残念だが、スーミー・シュシュル君

この体では明日の洞窟攻略は不可能だ。」

スタイナーはベッドの脇に身をかがめ、布団の上で

うな垂れる少女に話しかけている所だった。


「スーミーは僕が連れて行きます!

だからなんとかリタイアだけは…!」

カイトが言った。


だが、スタイナーは静かに首を振った。


スーミーの両足には包帯が巻かれていた。

添木もしてある。

骨折したのかもしれない。


「いいんだよ、カイト。

結局、私は君と出会わなかったら

ここまで来る事はできなかったんだよ。」

スーミーは引きつった笑顔でカイトに言った。


「君は何度も僕のピンチを助けてくれたよね。

ゴブリンと戦った時や…さっきだって落石から僕を庇って…

僕も君がいなければここには来れなかったんだよ。」

カイトは目に涙をためてそう言った。


「いいんだ、本当に。

実家に帰ってお母さんの畑を手伝うよ。

そもそもが無理だったんだ。

カイト、君に出会って、少しだけ夢を見たんだよ。」


「……」


「スタイナー団長…私は棄権します。」

スーミーがそう言うと、スタイナーは厳しい顔で頷いた。


「スーミー・シュシュル、これをもって

フィールドワークを棄権とみなす。」

スタイナーの表情は厳しかったが

落ち着いた優しい声だった。


俺とシルヴィは何も言えなかった。

言葉を挟む余地はないのだ。


戦場では、歩けなくなった者から命を落とす。

そして仲間を助けようとする者まで危険に晒す。

残酷だが、スタイナーの判断が間違っているとは言えなかった。


「カイト」

ここに来て俺はようやく声をかけた。


「アシュリー」

カイトの返事はどことなく元気がない。


「体調は?」


「うん、だいぶ良いよ。」


「君は見かけによらずタフだもんな!」


「話…聞いてた?」

カイトはスーミーをちらりと見た。


「うん、テントに入ったら丁度聞こえちゃった。

彼女…紹介してくれる?」


「あ! ごめん、彼女の名前は

スーミー・シュシュル。

途中から一緒に行動してたんだ。」


「よろしく、スーミー、僕はアシュリー、

こちらはシルヴィ。」


「よろしくスーミー」

シルヴィが微笑んだ。


「こちらこそ、よろしく。

やっぱりカイトはこんなに良い友達がいるんだね。

そりゃそうか。ふふふ」


「カイトの友達なら君も友達さ!スーミー!」


「とてもうれしい。

だけど私はリタイアしたからね…」


そこにスタイナーがヌッと顔を出した。


「待て待て、何か勘違いしてないか?」


「え?」

「?」

一瞬意味がわからなかった。


「君たちはここに到達した時点で

最終評価に入っている。

17森林を攻略した者はシニカの洞窟をリタイアしても

試験の脱落にはならない。」


「え?」

「そうなんですか?」


<本当か?ヴァルキリー>

<本当です、規則書10項の3に記載があります。>


「という事は…スーミー」

カイトの顔がパッと明るくなった。

スーミーも顔を上げた。


「お前たち…ちゃんと読んでないな?まったく…

はい、減点…と」

スタイナーが手帳に何かをメモした。


「うそだー!」

シルヴィが叫んだ。


やぶへびだった…


「当然、スーミー、君は明日の洞窟攻略に行けない分

他の受験生よりも不利にはなるが、フィールドワーク以外の

課題では君は…」

スタイナーがそう言いかけた時、誰かの叫び声が聞こえた。


「うわー!!」

「キャー!!」

「魔物だー!」



俺達がテントを飛び出すと、数人の男女がこちらに

向かって駆けて来るところだった。


その向こうから何か巨大な影が追いかけて来るのが見えた。


「化け物―!」

「助けて!!」


数人の受験生達がテントの中に転がり込んで来る。


スタイナーがゆっくり外に出た。


「ほお 赤猪か、なかなかにでかいな」

スタイナーは少し嬉しそうに言った。


すぐそこに、牛よりも一回り大きな赤い猪がグルル唸り声を

あげて睨んでいる。


下顎から伸びた巨大な牙はナイフのように尖っていた。


スタイナーの隣の試験官が、前に出て剣を抜こうとした、

その瞬間、スタイナーがその手を止めた。


「君達でやってみろ。

手に負えそうになければ手助けしてやろう。

大きな戦果を挙げた者は軍部に俺から口添えしてやろう。」

スタイナーは皆に聞こえるように言った。


すると殆どの者の目の色が変わった。


それぞれがナイフを構え、詠唱を始めた。


さっきテントに転がり込んで来た男女もいつの間にか

テントから飛び出し、戦闘態勢を取り始めていた。


1000人から勝ち抜いてきた37人だけあって

ここに居る子供たちは皆、普通ではないのだ。


「行くぜ!!」

最初に体格のいい男子が赤猪に突っ込んで行った。

「おりゃー!」

だが鼻先で軽く吹き飛ばされた。


「ファイヤーボール!!」

二人の魔法使いが赤猪めがけてファイヤーボールを

発射した。


バーン!!


「当たったぞ!!」

破裂音がして、赤い閃光が走った。


火の玉は赤猪の額のあたりに直撃したようだが…

煙が晴れた瞬間、全くの無傷の猪の顔が現れた。


ブヒィィィィ!!


「余計に怒らしたな! うははは!」

スタイナーは笑っている。


正直俺にとって、あんな動物を仕留める事は簡単だ

だけど、この場合、俺だけが手柄を立てる訳にはいかない。


「みんな聞け!!

一人ずつ闇雲に戦っても勝てない!

作戦がある! 猪に注意を払いながら聞いてくれ!」

俺は叫んだ。


「何出しゃばってやがる! 銀髪野郎!

その作戦、しょうもないもんだったらぶっ殺すぞ!」

猪を挟んで向こう側からラッツが言った。


<ヴァルキリー!>

<はいマスター>

<赤猪の解析頼む>

<頭蓋骨および前面皮膚の密度が非常に高く、正面からの攻撃は有効ではありません>

<弱点は?>

<腹部。特に前脚付け根から胸郭下部にかけて防御値が低下しています>


つまり腹が弱点だが…

倒れでもしない限り、腹は見えない…

「ふっ そうか。」


「誰か!! 土属性の魔法を使える人はいるか?」


「俺使える!」

「私も!」

3,4人が手を上げた。


「猪の正面に穴を掘ってくれ!」


「どうやって!?

動き回っているのに無理だよ!」

一人が言った。


「時間を作る!」


「どういう事!? アシュリー君」

シルヴィが言った。


「ラッツ!!」


「ああ!? 気安く呼ぶんじゃねえ!!」


「囮になってくれ!」


「ああ!? チッ! てめえ後で覚えてろよ!」


なんだかんだで物分かりが良い奴…

だが奴以上に適任は居ない。

あいつはその事もわかっている。


赤猪は受験生達にぐるりと囲まれていた。

威嚇しながら攻撃する機会を狙っている。


その時、赤猪の尻に石が当たった。


「おい!! こっちだ豚野郎!!」

ラッツが叫んだ。


赤猪はラッツの方に向き直った。


プギャャアアアア!!


咆哮が響き渡った。


猪は前足をひと掻きし、ラッツに向かって突進していった。


「なんで俺が追われなきゃならねーんだ

クソッ」

ラッツは逃げながら徐々に誘導していく。


しかし徐々に追い付かれていくラッツ。


その瞬間

「クッ!」

ラッツはくるりと向きを変え、突進してくる猪に真っ向から

向き合った。


ボフッ!

鈍い音がした。


「おるあああああ!!」

ラッツは巨大な猪の両牙を掴みながら突進を受け止めていた。


「ほお…」

スタイナーが小さく唸った。

だが、突進の勢いはすさまじく、押し返されていく。


いいぞラッツ、猪のスピードが少し落ちてる…


その瞬間

「シルヴィ! 目を狙って!!」


「わかったわ!」

そういうとシルヴィーは詠唱し出した。


「早くしろ!」

ラッツが叫ぶ。


「フロストアロー!!」

シルヴィのナイフの先から、数個の氷のつぶてが

発射された。

それは猪の目の前で弾けた。


ブヒィイイ!!

視界を塞がれた猪が急ブレーキをかけた瞬間


「ラッツ!!離れて!!」

ラッツは後ろに飛びのく。


「グランドケイブ!!」

数人の揃った声が聞こえた。

その瞬間、地面が陥没し、猪の前足が穴に落ち、

大きく土埃を巻き上げながら、前につんのめった。


穴の中に顔から突っ込んだ状態の猪は

後ろ足をバタつかせてもがいている。


「よし!! 戦士系は猪を押さえて!!」


「よっしゃ!!」

「おらー!!」


体格のいい男女が一斉に猪に躍りかかった。


しかし尚も暴れ続ける猪は徐々に態勢を立て直そうと

している。


「クッ! なんて力…」

「このままじゃ持たないぞ…」


その時

「じゃあ 僕も少し手伝うよ。」

モーノが前に出た。


「?」


「グラビル…」

モーノが猪に向かって手をかざし、そう呟くと

穴から這い出そうな状態だった猪がまた穴に押し込まれていく。


モーノ…

今何をした?


「よし!! 一斉攻撃!!!」

俺がそう叫んだ瞬間

皆の魔法がさく裂した。


巨獣の叫び声はやがて小さくなり――

やがて、その巨体はピクリとも動かなくなった。


「や…」

「やった…」

「倒した!! やったぞ!」


夜の森に皆の歓声が響き渡った。


「ふう…」

俺は額の汗をぬぐった。



その俺を少し離れた場所から見る

男がいた。


「ふふ…軍神アルベルトの孫…か」

スタイナーは呟いた。


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