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ep22

「チビのくせに少しはやるようだ。

正直舐めていたのは俺だったよ。」

そう言うと、ラッツの顔から笑みが消えた。

そして棒を一振りして、低く構えた。


カイトはその場でトーントーンとジャンプ

を二回。

そして大きく息を吐いて、構えた。


次の一撃で決着がつく…

誰もがそう思った。


先に踏み込んだのはラッツだった。

「オラ!十連突き!!」

ラッツの神速の連続突きがカイトを襲う。


しかしカイトは攻撃を避けながらラッツの間合いに入る。


しかし…


「かかったなチビ!」


その瞬間ラッツは棒を手放し

背中に忍ばせていた短い棒を抜きざまに

カイトの顔面へ突きを放った。

しかしカイトはのけぞってそれをかわした。

まさに紙一重だった。


「しまった!軸足を…」

カイトはつぶやいた。


その瞬間ラッツの手がカイトの細い喉を掴んだ。


「ほら捕まえた。」

ラッツが嫌らしい笑みを浮かべた。


「ぐがっ…がっ…」

がっしりと喉を掴まれたカイトの口から

よだれが流れ落ちている。


ギャラリーから悲鳴が起る。

「おい!死んじまうぞ!」

「離してやれよ!」

「首が折れちまう…」


そしてそのままカイトを床に叩きつけようとした瞬間。


「勝負あり!」


「444番!カイト・ジグナール!」

審判がカイトに旗を上げた。


「なんだと!?」

ラッツが言った。


「手を放すんだラッツ・ビッターデン君。

君の負けだ。」


審判がそう言ってラッツの胸の辺りを指差した。


「クッ!」

ラッツが見ると、丁度ラッツの心臓の辺りにカイトの棒が

当たっていた。


「おかしいだろ!俺はこいつを拘束した。

どう考えたって俺の勝ちだ!」

ラッツが叫んだ。


「手を放しなさい! 失格になりたいのか?」

審判が語気を強めた。


「チッ!」

舌打ちをしたラッツはカイトを無造作に解放した。


「ゲホッ ゲホッ!! ゲホッ…」

地面に落とされた瞬間、カイトは激しくせき込んだ。


「カイト君!!」

シルヴィは飛び出した。

俺もシルヴィに続いた。


「444番を医務室へ!」

審判が叫んだ。


だが

「だ…大丈夫です…」

カイトが右手を上げた。


「カイト!」

カイトの紫色に変色した首筋を見て

俺はラッツを見て言った。


「なぜここまでする必要がある?」


「甘ぇんだよ。

頭の中お花畑かよ!テメエら

 チッ!」


ラッツは唾を吐いた。


「何よ!あいつ。地獄に落ちるといい」

シルヴィが言った。


「お前らを見てると虫唾が走る。」

そう言ってラッツは去っていった。


「待ちたまえラッツ・ビッターデン君!

君は今回の事で、審議対象者となる。

それと、保護者または家の者へ報告

する。わかったね。」

審判が言った。


ラッツはそれを聞いて立ち止まる事は無く

大股で去っていった。


「カイト君、やはり医務室へ行こう。

見てもらっておいた方が良い。

能力試験はまだあるんだから。な。」

諭すようにやさしく審判が言った。


そしてカイトはそれに従い

医務室へ運ばれた。



◆



医師の診断の結果

カイトの喉にはうっ血が見られたが

骨には異常はないとの事だった。


「それにしても隣のベッドがアンビエントで

良かったじゃない。カイト君。」

シルヴィが言った。


「まったくだよ…

良いのか悪いのか…」

アンビエントが言った。


「ところで調子はどうなんだ?

アンビエント。」


「もうほとんど問題ないよ。

持ってきた薬を処方してもらったしね。」

「明日のフィールドは出るの?」


「それなんだけどね…もう帰る事にしたんだ。

分かったんだよ。

いくら魔力があったって役に立たないって事がね。」


「そっか…」

その言葉には誰も反応できなかった。

何を言っても一番辛いのはアンビエントのはずだ。


「君たちと友達になれて本当に良かった。

これだけでも僕の大きな収穫さ!」

アンビエントは笑顔でそう言った。

何故かその表情は晴れやかだった。


「いつ発つんだい?」


「明日の正午過ぎに出発の馬車だよ。」


「じゃあさ、今晩は時間あるわけだね?」


「そうだね。なんで?」


「みんなで夕食を食べようよ!」


「それはいいね!」

カイトが言った。


「素敵!」

シルヴィも言った。


「じゃあ決まりだね! 場所は

僕の宿でって事で!」


「え? アシュリーの宿? いいのかい?」

困惑気味にアンビエントは言った。


「まかせてよ!」

とはいったものの…

怒らないかなー母さん。


その時医務室のドアが勢いよく開いた。


「アシュリー・セラスさんはいらっしゃいますか!?」

そこには実行委員の係の人がいた。


「はい 僕ですけど?」


「剣術試験、始まってます!!」


しまった…!!

一気に血の気が引いた。

休憩時間の事すっかり忘れていた。


「すぐ行きます!!」

俺は慌てて会場に向かった。



◆



「699番! アシュリ―・セラスさんは

いらっしゃいませんか!?」

審判が大きな声を出している。


「はーい! ここです、います。

アシュリー・セラスです。」


息を切らせている俺を見て

審判が顔をしかめた。


「アシュリーさん、次はありませんよ。

遅刻は減点対象になりますよ。」

審判は俺を一瞥した。


「まったく…押しているというのに…」

ブツブツ言っている。


「申し訳ありません!」

俺は頭を下げた。


そして対戦相手にも頭を下げた。

と‥

「すいませ…」

ん? あいつは…


「それでは、剣術試験始めます。

699番、アシュリー・セラス

288番、モーノ・ヴァルトライヒ。」


モーノ…

シルヴィに勝った奴じゃないか…

ちょちょちょ…


「次々いきます。それでは互いに構えて…

始め!!」

無情にも試合は始まった。


その時、ヴァルキリーから通信が入る。

<マスター、サポートは必要か?>


<なぜだ>


<マスターは勝てない。>


<何?>


「そっちから来ないなら

僕から行くぞ!」

モーノはそう言うやいなや、踏み込んできた。


とてつもない速さで

俺の間合いへ一瞬で入って来た。

「ボーっとしてたら

怪我するよ!」

モーノはそう言って横薙ぎを繰り出した。


俺は棒で受け止める。

ガキッ!!

鈍い音がした。

ギャラリーから“おおーっ”という声が上がる。

重い…

手がしびれる。

10歳で、こんなヒョロヒョロの体で

どこからこんな…


だが負けるわけにはいかない。


俺は一度後ろに下がって距離を取った。

そして、ゆっくり息を吐き、構えた。


そして一気にモーノへ向かって踏み込み

下から斬り上げた。


だがモーノは体を逸らして俺の攻撃を避けた。

続けて連撃を繰り出すが、かすりもしない。


モーノの表情は読めないが、これだけはわかる。


全く息が上がっていない。


今度はモーノの鞭のような連撃。

そしてヒュっと姿が消えたと思ったら。

「後ろだよ」

モーノの声。

俺はあわてて棒でいなす。


ダメだ…

こいつ…強い。


<スキル 予測 を使うか?マスター>


<なんだそれ?>


その瞬間、景色はモノクロになった。


なんだ?

モーノの周りに複数の青いラインが数本浮かび上がった。

そして赤いラインが自分から出ている。


まさか…これは…


<一手先の剣の軌道だ。

相手は青、自分は赤だ。>


これだったら…

赤いラインは左斜め袈裟切りか…

モーノが棒を振り切った瞬間

肩に棒を叩き込んだ。


カンッ!!


「!?」

モーノは俺の一撃を剣で受けていた。


<おい!こいつ予測の一撃を止めたぞ…>


<想定内だ、そのまま剣を押し込め>

ヴァルキリーが言った。


俺はそのまま力を入れて棒を押し続けた。

「クッ…ウッ…」


モーノは俺の剣を受けたまま、必死に耐えている。

ギリギリと十文字にぶつかり合った棒は

徐々にモーノの肩に降ろされていく。


その時、ふとモーノから力が抜けた。


そして、俺の棒はモーノの肩にトンと乗った。


「699番、アシュリー・セラス!」

審判が大きな声で言った。


「ふう…」

助かった…

同じ歳でこんな奴がいたとは…


はっきり言ってヴァルキリーがいなかったら

勝てなかった。


一手先を読んだ俺の攻撃を受けるとは…


「アシュリー君!」

シルヴィが駆け寄って来た。


「すごかったわ!

一瞬も目が離せなかった。」


「いやあ、疲れたよ。」

本当に疲れた。


「アシュリー君」

誰かが俺を呼んだ。


振り返るとモーノがいた。

「あ、モーノ君」


「楽しかったよ!ありがとう。」

モーノが言った。

何?楽しいだって…?

「こちらこそ」


二度とお前とは試合はしない。

「モーノ・ヴァルトライヒだ。」

モーノは手を差し出した。


「アシュリー・セラスです。よろしく。」

モーノと握手を交わした。


「所でアシュリー、最後の技、あれはスキルかい?」

モーノが言った。


何だって!?

バレてたのか…やっぱり。


「あ、ああ、まあ、そんな所かな」


「良かった。僕もスキルを使わなければ

君とこんな勝負できなかったと思うよ!」


「君もスキルを使ってたの?」

モーノはコクっと頷いた。


「君の事は聞いていたよ。

兄さんたちからね。」


「兄さん?」


「ふふ…そのうちまた嫌でも会う事になるよ。

とにかく、残りの日程も頑張ろう。

それじゃ。」

モーノはくるりと向きを変え去っていった。


なんだろう…

彼は俺と何か近しい物を感じる。


だがここで、さっきから頭の片隅にあった疑問が

よぎった。


そう、このモーノという名前。

以前どこかで聞いた気がした。


モーノ…モーノ… あっ…


すっかり忘れていた。

ずいぶん前に父が王族の事を教えてくれた事が

あったのだ。


なぜ気が付かなかったんだ…

ちょっと後悔した。



そして今日の試験は終わりを迎えた。


「明日はフィールドワークの試験です。

朝一番にブリーフィングを行います。

9時に講堂へ集合してください。」

係員が声を張り上げた。


明日は外に出ての試験がある。

どのようなものかは教えられていないが

2日間にわたる試験で、1日目には多数の脱落者が

出るらしい。

体の基礎値が低い者、実力が無い者、諦めた者…

最初1000人ほどいた受験生は今や半分にも満たない

人数となっていた。

そこから更に半分になり、最終的には30人残れば

良い方だという。


とにかくやるしかない。



◆



「今日も一日、お疲れさまでした!」


「カンパーイ!」


テーブルにはキアラと母エミリアが作ったご馳走が

たくさん並んだ。


「アシュリー君! 君は毎日こんな料理を食べてるの!?」

アンビエントが言った。


「まさか! 今日は特別だからだよ!」


「キアラさんとエミリアさんの料理って本当においしい!」

シルヴィが言った。


「今日は腕によりをかけたのよ!

しっかり食べなさい!」

エミリアが言った。


「私、料理を習いに来たいです!

なかなか来れませんけど…」

シルヴィが残念そうに言った。


「学校に入学できればいつでも来れますよ。」

キアラが言った。


「あっ…そうだった…最終的に残るのは

30人っていいますよね…

現実に引き戻されちゃったわ。」

泣きそうなシルヴィ。


「君なら大丈夫だよ、シルヴィ

でも僕は…」

カイトが言った。


「おい!お前たち、そんな弱気でどうすんだ!

食って寝て明日に備えろ。今できる事をする!

ここまで残ったんじゃないか。」

リースがハッパをかける。


その様子を見てアンビエントが微笑んでいた。


「いやすまない、アンビエント君は

故郷に帰るんだったね。」

リースが言った。


「はい、襲撃事件の時、思い知らされました。

心拍数が上がるとどうしても…」

アンビエントは胸を撫でた。


「なるほどな…う~ん…

これを言っても良い物か…」

リースが顎を撫でている。


「どうしたの?父さん?」


「いや、これは聞いた話だがな

エクセシアのジョブマスターの中に

様々な病を治せる魔導士がいるらしいんだが…」


「え!? 何それ ジョブマスターって?」


「ごめん、聞かなかった事にしてくれ!」

リースは手を合わせた。


「あなた!!

余計な期待を持たせないで!」

エミリアがリースを睨んでいる。


「なんだよそれ、期待させといて…」


「いやあ…」

リースは後頭部を押さえている。


その後、楽しい宴は続き、アンビエントはここに

泊まる事になった。

俺とカイトとアンビエントは川の字になって深い眠りに

ついた。


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