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ep21

その古びた会議室は肌寒く薄暗かった。

円卓には8つある州の代表が顔を揃えていた。


「エクセシアとの交渉を続けるべきだ。

ロドリコ議長。」

バイゼル連邦のガル州首長のミッツ・サンドが

語気を強めた。


「もう遅いのだよ、ミッツ首長」


「我々の州はもう帝国への献上金が支払えない

資金が底をついた。」

他の首長が言った。


「心配ない。計画は順調だ。」

バイゼリア州首長でありバイゼル連邦議長の

ロドリコ・フェルディナンドは笑みを浮かべた。


「我々はもう限界だ。民は飢えている。

大半の兵も帝国に貸し出した。だが未だに帰ってこない。」

一人の首長が言った。


「子供を利用するとは、馬鹿げている

あんたはそれでも子を持つ親か?」

バーネム州首長、ミンウ・ドナテラが強い口調で言った。


「では対案を出してくれ、ミンウ、それは

綺麗ごとだ。これは戦争なんだよ。」

ロドリコがミンウを一瞥した。


「それは…


だが、あんたのやり方には賛成しかねる。

ヴァーミリオ山脈にグールを放ち、山を封鎖した。

そのおかげで今も山には立ち入れない。」


「もう一度言うが対案があるなら今すぐにでも聞こう。

だが、誰のおかげで小国であった君たちが

バイゼル連邦の中にいる事ができるのか

よく考えたまえ。」

ロドリコは声を張り上げた。


「失礼します。」

女が一人扉を開け、入ってきた。

袖のない黒いコートを羽織り、背中には身の丈ほどの

剣を背負っている。


「会議中、失礼いたします。

エクセシアにて遂行中の計画の

第一段階が無事成功致しました。」


「ご苦労だった、エナ。

そうか、一人も欠けてはおらぬのだな?」

ロドリコが言った。


「はっ 手練れの者がエクセシア兵として

溶け込んでおります。」


「良くやった。」


「ただ…想定外の事がひとつ…」

エナの表情が少し曇った。


「想定外? なんの事だ?」


「能力測定の会場に腕の立つ兵

がいたようです。」


「何?」


「魔法使いなのか、弓兵なのかはわかりませんが

遠距離からナーヴだけを破壊され

被験体である受験生はことごとく封じられました。

しかも全て生存したままでです。」


「なんだと…あの小さな的に当てたのか…

だが…陽動は成功したのだ。

わかった。

その話は後で詳しく聞こう。

下がってよいぞ。」


「はっ

決行の時まで待機いたします。

ご命令とあらばなんなりと。」

エナは一礼をして退出した。


「皆、聞いたか。

計画は順調に進んでいる。

早ければ3日以内に朗報が舞い込むであろう。」

笑みを見せながらロドリコが言った。


「さあ、午前の会議はこれまでにしよう。

あちらに食事の席を用意した。

難しい話は一旦置いておこう。

さあさあ。」

ロドリコはパンパンと手を叩いた。


すると、メイドたちが部屋に入ってきて

首長たちを部屋の外に連れ出して行った。


誰もいなくなった会議室でロドリコが一人

つぶやいた。

「時間がない…」




◆



「剣術を希望された方は講堂に集合してください!

希望されなかった方は訓練場の方へ移動お願いしまーす!」

係員の声があちこちで聞こえる。


「え? カイト君も剣術受けるの!?」

シルヴィが声を上げた。


「おかしい?」

カイトが答えた。


「いや、てっきり魔術のコース一択かと思ってた。」


「シルヴィやアシュリーと当たらなければいいけど…」

カイトが眉を寄せて言った。


「その時は手加減してあげる。」

シルヴィがウインクした。


「じゃあ、講堂に行こうか」

俺は二人に声をかけた。



「ゼロ野郎!」

振り向くとそこにはあいつがいた。

ラッツだ。


「ラッツ」

と、俺は言った。


「気安く呼ぶんじゃねーよ。ゼロ野郎!」

取り巻きの一人が言った。


「俺はお前と当たることを神に祈っているぜ

、当たったら、ぶちのめしてやる

覚悟しておけ!」

ラッツはそういって速足で去っていった。


「待ってくださいよー ラッツさーん」

二人の取り巻きが慌てて走って追いかけていった。


「随分と嫌われたわね。アシュリー」

シルヴィが言った。


「はは、大して気にしてないけどね

あいつも色々あるんだろうな。」

メルシオから奴のことを聞いていなければ

また無視していただろうが。


「え? どういう事?」

シルヴィが言った。


「一般論だよ。育った環境とかさ。」


「ふーん…アシュリーが

あいつのことを気にかけるなんて。」

シルヴィは腑に落ちていないようだが。


「これからブリーフィングを行いますので

前から詰めて座ってください!」

係員が声を張り上げている。



それからブリーフィング、つまりルールの説明が

行われた。

参加者は約150名。これを5つの組に分け

無作為に選ばれた者同士が剣術で試合を行う。

武器は木の棒のみ。

だが木の棒には個体差があり、長さや、太さ

硬さや、柔らかさは選択可能。

ルールは、相手の体に棒を1度当てれば勝利。

勝てば勝った者同士で試合をする。いわゆる

勝ち抜け方式である。


「勝ち負けが重要ではありませんから。

皆さんケガの無いよう、練習の成果を

発揮してください。」


係員がそう締めくくった。


「では、順次、訓練場のほうへ移動を

お願いします。」

係員がそういうと受験生たちはぞろぞろと移動し始めた。


「あちゃー! 同じ組になっちゃったね

アシュリー!」

シルヴィが言った。


「お手柔らかに頼むよ。シルヴィ」

そう言いながら実はシルヴィと試合をするのは

少し楽しみだった。


「カイト君は一つ向こうのグループだね。」


「うん、そうみたいだね。」


「あ、ちょっと!アシュリー 見て ほら」

シルヴィが指さす方向にはラッツがいた。

カイトと同じ組になったようだ。

ラッツはカイトを睨みつけている。


「カイト君、大丈夫かな…」


「ああ、大丈夫だよ。カイトなら。」


「薄情だねー心配じゃないの?

あいつ今にもカイトを噛み殺そうって感じよ。」


「あはは、そんな事より、

シルヴィ、君の順番じゃないのか?」


「567番、シルヴァナ・オーギュスト・カンドール、

098番、セバスチャン・オッペルバイン、前へ!」


「あ! お前はゼロ野郎と一緒にいる女!」

シルヴィと対戦する少年が指をさした。


「何よ! 金魚の糞みたいにラッツにくっついている

くせに」

シルヴィは舌を出した。


「てめえ、痛い目に遭わせてやる!」


「それでは、向かい合って…

始め!」

審判が号令を出した。


その瞬間

「おおお!!死ねええ」

セバスチャンがシルヴィに踊りかかった。



シルヴィは動かない。


セバスチャンは渾身の力で木の棒をシルヴィに

振り下ろした。

「てやあああ!!」


セバスチャンの太刀筋、悪くない。

だが…


カーン!

空中で木の棒が回転している。


勝負は一瞬でついた。

シルヴィの棒の先は、セバスチャンの顎に

突きつけられていた。


「クッ…」

セバスチャンは身動きが取れない。


「話にならないわ。」

シルヴィが言った。


「勝者567番!」


「あの女、すげえ」

「見えたか?」

「目で追うのがやっとだったよ…」

口々にざわめきが起こった。


そしてシルヴィが戻ってきた。

「何よあいつ、口だけね。」


「そんな事はないよ、あのセバスチャンて

奴も普通よりは強いよ。

シルヴィが強すぎるんだよ。」


「まあ、誰にも負ける気は無いけどね!」

シルヴィは笑ってそう言った。


「次、699番、アシュリー・セラス

157番、スコット・キャメル」

審判が言った。


「まあ、とにかく行ってくるよ。」


「頑張ってね。」


俺はスコットの棒は空を切った。

俺は体を数センチずらしただけだった。

そしてよろけた相手の肩に棒をすっと置いた。


「勝者、699番!」

ざわめきが起こる。


「なんだかアシュリーには勝てる気がしない」

シルヴィは呟いた。


「なぜ?俺だってできれば君とは

戦いたくないよ。」

正直一筋縄ではいかないだろう。


そうこうしているうちにシルヴィの順番が

回ってきた。


「567番、シルヴァナ・オーギュスト・カンドール

288番、モーノ・ヴァルトライヒ…あ…」

審判がシルヴィの対戦相手を読み上げるとき

少しだけ躊躇した気がした。


あいつ…

あのモーノとかいう奴、強い。

俺は直観でそう思った。

見た目こそ、ひょろっとしてておかっぱ頭で

目は前髪で隠れて見えない。

表情が読めない。


「シルヴィ! 気をつけろ!」

俺は声を張り上げた。


「始め!」

審判が叫んだ。


だがどちらも動かない。


それでいいシルヴィ、まずは出方を見るんだ。


「攻め手が見つからない…」

シルヴィが呟いた。


そしてシルヴィが先に動いた。


ダメだ、焦っては!!


カンカンカン!

何度かの木が打ち合う音がした。

だが…

「勝負あり!288番!」


棒を弾き飛ばされ、片膝をついた

たシルヴィの肩には

モーノの棒がトンと置かれていた。


「クッ…完敗よ…」

シルヴィはモーノに言った。


「いや、君は強いよ。ありがとう。」

モーノがシルヴィの手を取り引き起こした。


ギャラリーからは拍手が起こった。


そして俺も次の対戦へと進んだが

これも簡単に勝利した。


「ここで、この組は一旦休憩とします。

30分後に再開しますので、お手洗いなどを

済ましておくように。」


その時、対戦を読み上げる審判の声がした。


「444番、カイト・ジグナール!

621番、ラッツ・ビッターデン! 前へ」


「アシュリー!ちょっと

カイトとラッツが!」

シルヴィが俺の袖を引っ張った。


一つ向こうの組を見ると、ラッツとカイトが対峙

していた。

大柄なラッツと、小さなカイト

カイトは青いコートを脱いで半袖のシャツだけになった。

細い手足が露になった。


その組の周りはざわついている。

「おい、あれじゃあ勝負は目に見えてるぞ。」

「いくらなんでも可哀想だ。」

「小さい奴! やめとけ!」


「ねえアシュリー、カイトがラッツに殺されちゃう!」


「みんな…カイトが負けると思ってる。

シルヴィも。」

俺は知っていた。


「え? どういう事?」


「ラッツが負けるかもしれないって事だよ。」



「おい!アシュリーにひっついてるチビじゃねえか。

運が悪かったな。病院送りにしてやるよ。」

ラッツが言った。


だがカイトはそんな言葉に全く動じないどころか

棒をピュンとひと振りした。

その棒は細くよくしなった。


「うん、なかなかいい感じ」

カイトは呟いた。


「おいおいなんだ?そんな細い釣り竿みたいな棒で

俺と勝負する気か?舐めてんのか? 貴様」


「始め!!」

審判が叫んだ。


ラッツは槍のように長い棒をブンブンと振り回した。


「ビッターデン家の短槍術をとくと味わえ!チビ!」

ラッツはそう言うと、強烈な突きをカイトめがけて繰り出した。

その突きはブンという音を立てた。


ギャラリーから悲鳴が上がる。

中には目を逸らす者も居た。


だが…

見学者たちが想像したような音は聞こえなかった。

気が付くと

カイトはラッツに対し横向きになり、上半身だけで

ラッツの突きをかわし、すでにラッツの間合いに入っていた。

いや、ラッツからカイトの間合いに飛び込んできたとも言おうか。

そしてカイトはまるで鞭のような木の棒をラッツの棒に絡みつかせた。


「何!?」

ラッツは自分の棒を手から抜き取られそうになったが

なんとか持ちこたえた。

そして慌ててバックステップで間合いを取った。


「すごい、すごいよカイト君!

ねえアシュリー!」

シルヴィは興奮気味に言った。


「ああ、言った通りだろ。カイトのレイピアは

俺だって苦戦するんだよ。」


いつしかカイトたちが対峙する組の周りの

ギャラリーは増え、固唾を飲んで見守っていた。

そして辺りは静まり返っていた。



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