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ep20

俺の上にのしかかっていたローブの人物は

脱力し、俺の胸に顔をうずめた格好になった。


何だ…女の子じゃないか。


「うっ…」

かすかに息はある。


「こんな子供にまで…」

助けてくれた男が、そう言いながら俺の上に乗った

ローブの女の子をゆっくり引き離した。

男は少女を抱きかかえ少し離れた

ソファの上に寝かせた。


「立てるか?」

その男は俺に手を差し伸べた。


「はい、なんとか…

ありがとうございました。」

男が差し出した手を取り

引き起こしてもらう。


背は俺よりも少し高く、眼鏡をかけている。

年のころは15、6歳ってところか。

髪の毛は長く、後ろで束ね、青い紐で

リボンを作っている。


「ところで君はこんな所で何をしていたのだ?」

男が言った。


「怖くなって、つい逃げ込んでしまって」

俺は平然と答えた。


「ほお、それで勝手口の分厚いガラスを割り

鍵を開け、広場を一望できる窓を開ける…

普通なら怯えて隠れてうずくまるのが関の山なのに。」


「では、なぜあなたはここに?」


「これだよ。」

そう言って

男は床に転がっている何かを拾い上げた。


見ると

小さなカプセルの先に細い針が付いている。


更に男は懐からハンカチを取り出し

それを開いて見せた。


そこには割れたカプセルが乗っていた。


「これはこの少女についていたものと

同じものだ。こっちは破壊されている。

広場に居たローブの子供の傍らに落ちていた。」


「それが何か?」


「角度と向きだよ。」

男は人差し指で眼鏡を上げた。

レンズがキラリと反射する。


「どういう事ですか?」


「この器具の破壊のされ方だよ。

すべて一方向からだ。

つまりここだ。」

男は床を指差した。


「……」

この男は気づいている…


その時、その男の表情が緩んだ。

「ふふ、すまない。ちょっと意地悪だったかい

アシュリー・セラス君」

男は髪をかき上げた。


俺の名を知ってる…?


「お見事だ。礼を言う。」

男は深く頭を下げた。


「あの、あなたは?」

俺は男に言った。


「ミスターXだ」


「は?」


「そんな事より、早くお友達の所へ

行ってあげた方がいいんじゃないか?」

ミスターXと名乗る男は城の方を指差した。


そうだ、アンビエント…


「ミスターXさんは…?」


「俺は色々と処理しないといけない事が

あるからな。」

寝かされているローブの少女を顎で示した。


「……」


「大丈夫だ、君の事は誰にも

言わないよ。」

ミスターXは顔を近くまで寄せて

囁いた。

そして最後にウインクした。


その時、ドカドカと音がして、兵士が数人

入って来た。


「そこのレディを医務室へ運べ

、丁寧に扱ってくれよ。」


「はっ」


ミスターXが指示すると、兵士達は

担架で少女を運び出していった。


「それではアシュリー、また会おう。

近いうちにな。」

ミスターXは白い歯を見せてニッと笑い、

ピッと二本指で敬礼した。


ちょっとクセがあるが悪い人ではないようだ。

近いうちに…どういう事だ?

俺は気を取り直して、建物を後にした。



◆



「アンビエント…」

アンビエントはシルヴィの膝を枕にして

寝かされていた。


「ふう…ようやく落ち着いてきたよ

ありがとうシルヴィ。」

アンビエントが言った。


「もう死んじゃったかと…」

シルヴィの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「実は僕、生まれつき心臓が弱いんだ。

だからあまり派手な動きが出来ないんだよ。

君達の足を引っ張ってしまった。」

アンビエントが言った。


「そんな風に言わないで。」

カイトが言った。


「身体測定の時、笑ったりしてごめん…」

シルヴィが言った。


「実は僕も…

ごめんね、アンビエント。」

カイトも言った。



そんな3人のやり取りの中、俺は到着した。


「みんな無事?」


「アシュリー!」

「アシュリー君!」


「アンビエント…」

寝かされたアンビエントを見て

少し心が痛んだ

次はこうなる前に動かなければ…


「やあ…アシュリー」

シルヴィの膝を枕にしたアンビエントが

手を上げて言った。


そこに担架を担いだ兵士が現れた。

「大丈夫かい? とりあえず医務室に運ぼう。」


アンビエントは担架に乗せられた。

「受験番号は言えるかい?」

兵士が言った。


「245番です。」


「うん、意識は大丈夫。」

兵士が笑みを見せた。


笑顔は大事だ。どんな時でも。

不安な時、それがどれだけ救いになるか。

この兵士はその事がしっかり叩き込まれている。


「よし運ぼう」

二人の兵士は頷きあった。


「アンビエント、また後でな!」


「うん、また後で」


そしてアンビエントは運ばれていった。



◆



その部屋は窓が開け放たれていた。

陽光が、落ち着いた柄のカーペットを照らしていた。

その部屋には3人の男がいた。


「それにしても、アシュリー・セラス

彼は眉一つ動かさなかったよ。」

男は眼鏡を人差し指で少し上げた。


「この混乱を鎮めたのは実質あの子だな。」

もう一人の男は嬉しそうにカップを口につけた。


「だが、危うい。」

そう言った男はベッドから少し体を起こした。


「ああ…」

「そうだな。」

二人が言った。


「体調はどうだい?兄さん」

そう言ったのはメルシオだった。


「ああ、いつになく良いよ。

それに不思議なんだ、心も晴れやかなんだ。」

ベッドの男の無精ひげの口元が少し緩んだ。


「ところで何かわかったのか?」


「ああ、事件の発端となった人物を捕え

吐かせたよ。」

そう言って眼鏡の男が話し始めた。


この日、怪しげな連中が目撃されていた。

紫の札を持った子供に対し、その者達が

ビラを配っていたというのだ。

紫の札、つまり失格者をターゲットにしていたのだ。

だが、紫の札を手にした子供が失格だと知るのは

当日であるため、ビラを撒けるのはその事を

事前に知っている者に限られるはずなのだ。


ビラの内容は——

失格になったのは陰謀であると嘘を書き、

エクセシアを逆恨みさせるような内容だった。

そのビラを見て、指示された場所にやってきた

子供が油断した隙にあの器具を打ち込み

犯行に及ばせたという事だ。


ビラが大量にまかれる前に怪しい男たちは捕らえられたが

いずれも本命にたどり着く情報は持っていなかった。

はした金で雇われた貧しい農夫やチンピラだったからだ。


「トカゲの尻尾切りか、バイゼルめ、姑息な手を使いやがる」

メルシオが言った。


「ゴホッ…これは何かのメッセージだろうな。」

ベッドの男は少し咳き込んだ。


「わざわざ能力測定の日に絞って来たと。」

眼鏡の男が言った。


「奴らは今、大変な財政難にあると聞く。

大規模な軍を編成できないという事だ。」


「ならばこっちから攻め込むか?」


「いや…仮に勝利しても、あの国を統治できる

余裕はまだ無い。市民を路頭に迷わすだけだ。」


「しかし、なぜバイゼルは失格者が紫の札だと

知っていたんだ」


「それについても調査中です。」


「まあ、間者が入り込んでいたか

情報を売った奴が軍の中にいたか…」


「そろそろ軍の再編成をしなきゃならん時

かもな。

要職に何年も居座り続ける事は悪い事もある。」

ベッドの男は手元の水を少し口に含んだ。



◆



午後の測定は中止になった。

今回の事件で、心に傷を負った子供も大勢いた。

それにより

これからの日程をこなす事が難しいと判断された

子供達は、強制的に帰宅させられる事になった。


「どうしたの?シルヴィ 具合でも悪い?」

遠くを見つめるシルヴィの顔は曇っているように

感じた。


「ううん…」

シルヴィは首を横に振った。


「さっきの事?」


「そうね、襲った子供は何も悪くないのよ…

操られてたって言うじゃない」


「そうらしいね。」


「許せない。」


「ああ」


「私…バイゼルが…許せない。

私の両親は‥‥」


「まさか…?」


シルヴィはコクっと頷いた。

頬には涙が伝っていた。


「シルヴィ、君は王都には誰かと一緒に来たの?」


「ううん、私一人よ。」


「じゃあさ 良かったらウチに来ない?

カイトも一緒だよ。」


「うんうん! それがいいよ! シルヴィ!」

カイトも笑顔になった。


「え? いいの? お邪魔しても?」


「迷惑だった?」


「ううん、とっても嬉しい。

本当の事を言うと少し心細かった。」


「じゃあ決まりだね!」


そうして、ちょっと強引にシルヴィを家に招待する事になった。


「ただいま!」


「おかえりなさいませ、アシュリー様、カイト様。」

ワイゼルが迎えてくれた。


「紹介します、こちら、シルヴィ。」


いつもと違う雰囲気を感じたのか、母エミリアと

双子の妹も玄関にやってきた。


「あ…あの、アシュリー君…アシュリーさんと

仲良くさせて頂いています、

シルヴァーナ・オーギュスト・カンドールと

申します。 みんなシルヴィって呼びます。」


「あらまあ、なんて可愛いらしい…」

エミリアが言った。


「シルヴィお姉ちゃん、一緒に遊ぼう!」

双子の妹はすでにまとわりついている。


「こらこら! 大事なお客さんなんだからな

後で!」


「ええ~!」

「ええ~!」

双子の妹は声を揃えて言った。


「母さん、シルヴィをここに泊まらせて

あげたいんだけど、いい?」


「聞いたわ、あんな事があったものね。

…そうね、アシュリーとカイトは同じ部屋、

カイトが使ってた部屋をシルヴィに って

事ならどうかしら。」


「それでいいよね?カイト!」


「もちろん。」


「じゃあ決まりね。手を洗ってらっしゃい。

シルヴィ、部屋に案内するわ。

ついてらっしゃい。」

エミリアが言った。


「本当に…ご迷惑ではありませんか?」

シルヴィは言った。


「一人でいるより大勢のほうが楽しいでしょ!」

エミリアはウインクした。

そして二人は奥へ入って行った。



夜遅く、測定会場の係員が来て

書面を置いていった。


「ご苦労様です。」

父リースが玄関で受け取った。


「なになに…ふむ、なるほど…」

リースが呟きながらリビングに入って来た。


「明日予定してた筆記測定は無しになった。

そして予定を前倒しして、剣術測定になるそうだ。」


話しに夢中になっていた俺たち3人は固まった。


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