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ep2

俺が新たな生を受けた場所は、粗末な木造の家だった。


古びた柱、むき出しの梁。


もちろん水道は無い。


水は村に何か所かある井戸から毎朝汲んできたものを使う。


鶏や牛の鳴き声が外から聞こえた。



◆




俺は2歳にして、普通に会話できるまでになっていた。


だが前世の記憶があるとはいえ、むやみにそれを出す事は


しなかった。


しかし、未だに家の外へは出してもらえなかった。


やれモンスターだの、盗賊などがいるからだと


そんな子供だましの世迷言を俺が信じるとでも思うのかと


その時は腹が立ったものだ。




俺にはどうしても試したい事があった。


ライフルである。


試し撃ちをしたくて仕方がなかったのだ。


当然、家の中では見つかってしまうだろう。


最近ではどうやって家を抜け出そうかとばかり


考えていた。


だがあのふんわりとした夫婦は意外とスキが無い。




ある日、村の男がうちに駆け込んできた。


「大変だ!リース! オークが出やがった!」




「どこだ?」




「村はずれの丘の辺りだなんだが…」


男はそう言って表情が曇った。




「どうした?スヴェンソン?」


リースはスヴェンソンの表情を察して言った。




「お前のかみさんが…」




「!?エミリアがどうした?」




「1匹を魔法で焼き殺したんだ、そしたら後からわんさか出てきやがって


…」




「どうなった?」




「連れていかれた…」




「…! よし、すぐに行く、お前は先に行ってろ!」




俺の父、リースは戸棚を開け、奥の方から布で巻かれた


細長い物を取り出した。




リースはその布を手早く解くと、中から銀色の剣が姿を現した。


柄の部分に金のレリーフが埋め込まれている。




俺の心臓は早鐘のように脈打った。




こんな目をした父の姿は初めてだった。


前世での色んな記憶が走馬灯のように頭を駆け巡った。


父の目はそんな前世でしのぎを削り、戦った敵やライバル達を


思い起こさせた。




「アシュリー、少しの間だけ、一人でも大丈夫か?


パパはママを迎えに行かなくちゃならないんだ。


直ぐに戻るから、絶対に外に出たらだめだぞ。」




父はさっきとは打って変わって、いつもの笑顔を俺に向けた。


そして俺を抱き上げ、抱きしめた。




「はじめてのお留守番だ。アシュリー


お前はこの家を守ってくれ。」


そう言って父は俺の頭をポンポンと優しく叩き


出て行った。


ガコンと外から閂(かんぬき)がかかる音がした。




取り残された俺は全て理解していた。


母親がオークとかいう魔物に連れ去られた事。


それを取り返しに行こうとしている父。


二人にはもう二度と会えないかもしれないから


俺を強く抱きしめたのだと。


父のあの目は、俺は前世で何度も目にしていた。


人が命を懸ける時に見せる眼差しに違いなかった。




俺は当然のようにライフルを念じた。


ライフルは手元に現れ、俺の両腕に収まった。




なぜだろう、俺は両親を助けたいと、死んでほしくないと


反射的に願った。


天涯孤独だった前世では感じたことのない感情だった。




出現したライフルを構えてみる。


不思議と軽い。


それにグリップとトリガーの太さ、位置関係が


2歳児の俺の手にぴったりのサイズになっていた。




その時、外から叫び声がした。


「キャーー!!」


俺はダイニングの椅子を使って出窓のデッキに上った。




「なんだあれ!?」




思わず声に出してしまうほど、巨大な人型の化け物が


幼い少女を追いかけていた。




迷っている暇は無かった。


窓を少しだけ開け、ライフルのスタンドを出窓のデッキに設置した。


椅子に腰を落とし、スコープを覗いた。


スコープ内のモニターには、残弾数8と出ていた。




不思議と俺は落ち着いていた。


ターゲットを一目見ただけで、相手の弱点がなんとなくわかり


万一撃ち損じたとしても相手が次にとる行動が予測できたのだ。


それは前世での長年の経験があったからだ。




だが、あの程度の動きであれば、1発で十分だ。




スコープを通して見えるターゲットの動きを予測し、呼吸を止める。


その時、オークがこちらを向いた。


(なかなか勘がいい…)


そして、少女から対象を変え、こちらに向かって走り出した。




だが俺は焦らない。


まばたきもしない。


息を止め、ゆっくりと引き金を引いた。




ドンという音がした瞬間


オークは動きを止めた。


オークの眉間から煙が上がり


そのまま前に倒れた。




「早く!こっちへ!」


俺は少女に向かって叫んだ。




少女は俺に気付き、こちらに向かって走り出した。




しかし、オークがさらに現れた。


(1,2,3,…)


6体のオークが茂みから出現し、少女を追いかけ始めた。




俺は再度スコープを覗く。


残弾数7




失敗は1回可能。


だが俺は失敗しない。




スコープを覗き、息を止める。


引き金を連続して5回引いた。


全てヘッドショット成功。


次々に倒れるオークたち。




最後の一匹が踵を返し、逃げ去ろうと走り出した瞬間


俺の弾丸がオークの頭を貫いた。




「早く!」


そう言って俺は少女を窓から家に引き入れた。




「ありがとう」


息を切らしながら少女は言った。


年の頃は8歳か9歳か…


「私はウナ、あなたは?」




「僕はアシュリー」




「っていうかあなた、2、3歳だよね?


…すごいね…」




その時、外で何かが唸る声がした。


野太く、低く、腹に響く様な声だった。




窓の外は巨大なオークが棍棒を振り回していた。


一振りで、納屋が吹き飛んだ。


普通のオークよりも2倍くらいの大きさはあるだろうか。




(危ない…)




オークが振り回す棍棒が家の壁に当たると思った。


その瞬間、棍棒は家に当たる前に受け止められていた。




「父さん!」




リースだった。


巨大な棍棒を剣で受け止めていたのだ。




そして、更に巨大なオークの背中に何かが爆ぜた。


地響きのようにオークが唸る。




「こっちよ! オーク!」




「母さん!」


オークの群れから脱出してきたのであろう


母の衣服はボロボロになっていた。




苦しがるオークにリースが切りかかる。


だがオークはリースの攻撃を盾で防いだ。




「エミリア! あの額のコアを壊したい、動きを止めれるか?」




「やってみるわ!」


そういうとエミリアは杖を地面に刺し、叫んだ


「アイスバインド!」


魔法陣から青白い光が地を這い、オークの足元に


集合し、徐々に凍らせていく


そしてオークが動きを止めた時




リースはオークジェネラルの額に一撃を入れた。




「やった‥‥か…?」


リースは手ごたえを感じたものの


違和感を感じていた。




そして再びオークジェネラルは動き出した。




「エミリア…急所はもう一か所ある…後頭部だ」




「リース、私の魔力はもう…」




「俺が時間を稼ぐ、その間に皆を呼んできてくれ!」




「わかったわ!すぐ戻る」


そう言い残してエミリアは走り去った。




だが俺はその時、すでにスコープのレンズに


オークジェネラルのもう一つの弱点を捉えていた。




呼吸を止め、瞬きをせず…


心は静かに沈んでいく。


海の奥底の静寂に包まれた世界に自らを落とし込む。




俺は暗闇に光る点に向けて引き金を引いた。




ドンッ!




そして、オークは動きを止めた。




リースがゆっくりと振り返った。




「アシュリー…お前…」




残弾数0


銃口からは薄く煙が漂い出ていた。





◆





普段は深い森で生活しているオークだが


今年は木の実が不作で、それを食べる動物達にも影響が出て


食べ物を求めて里へ下りてきたとの事だった。


腹が減ると見境なく、特に女や子供を好んで食べるという。




「ウナ!」




「パパ!」




スヴェンソンがウナと抱き合った。




「あのね、アシュリーが助けてくれたのよ!」




「なんだって?」




「オークをたくさん倒したのよ!」




「あはは ウナ、アシュリーはまだ2歳なんだ


そんな事はできないよ。」




「ほんとだよ!信じて! ねえアシュリーなんとか言ってよ!」




「あはは、わかったわかった、ありがとうなアシュリー!


ウナを救ってくれて!」


スヴェンソンは俺の頭をごしごしと撫でた。




「とにかく行くよ、リース、また後で、


オークの肉がたくさん手に入ったからな。」




「おう また後で、スヴェンソン!」




「アシュリー!ありがとう! またね!」


家の扉がぱたりと閉められ、静寂が戻った。




「おい アシュリー…」


父がドスの利いた声で俺の名を呼んだ。




「は‥はい…」


俺は怒られると思ったのだ。




「この‥‥


色男め!!」




「!?」




父は俺を抱き上げて頬ずりをした。


俺は意味がわからなかった。




「……」




俺が目を白黒させていると。




「ありがとな、助けてくれて。」


そう言って父は俺の頭を優しく撫でた。



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