ep1
カクヨムで書いてましたが
使い勝手がどうも‥‥って事でこちらでも
書くことにしました。
Bar “ベローチェ”は大通りから狭い路地に入った突き当りにあった。
俺はいつもカウンターの一番奥の席に座っていた。
「腹が減ったな…」
と俺が呟くと。
「なんか作りましょうか?」
マスターが声を掛けてくれた。
「作ってくれる?なんでもいいよ。」
「じゃあ 俺のまかないでよければ」
マスターは細い目をさらに細めて微笑んだ。
先代のマスターと目元がよく似てる。
その時、マスターの目が少し見開かれた。
そしてふと隣の席に男が座った。
男は「ロンドンバック、ジン抜きで」
とマスターに声を掛けた。
ロンドンバックとは別名ジンバックというカクテルなのだが、ジンが無ければただの
ジュースである。
しかし今はそれで良いのだ。
俺の名前は、ギリク・スタイラム。
コードネームは“スイートバック”(優しい牡鹿)という。
ロンドンバック、ジン抜きでというのは、仕事の依頼があるという
意味なのだ。
男はただのジュースを一気に飲み干すと、席を立ち
去っていった。
彼が座っていた席には、茶色い封筒が置かれていた。
俺の家はこのバーから2区画離れた雑居ビルの屋上にあった。
俺はその封筒を手に取り、100ドルをカウンターに置き
グラスをその上に置いた。
そして俺は席を立った。
「あ! こんなにも!」
マスターは声をかけてくれたが
「まかないの分だよ」
と言った。
————
外に出ると刺すような気配を感じた。
よくある事だが…
大通りはやけに騒がしかった。
パトカーや救急車のサイレン
大通りの道を挟んではす向かいに人だかりができている。
少し近づき、聞き耳を立てる。
「あの路地から出てきたところを、後ろから刺されたって…」
女の声がした。
もう少し近づく。
(‥‥ダックハット…)
間違いなく、さっき俺の横に座った男が
倒れていた。
彼とはもう25年になる。
殆ど会話する事はなかったが、優秀な連絡係であり
信用できる男だった。
俺はすぐに人ごみに紛れた。
確実につけられていると思ったからだ。
なんとか尾行を撒き、家に着くと
案の定、家は荒らされていた。
その時、後ろから、誰かが襲い掛かって来た。
「死ね!、スイートバック!」
だが俺にとってそんな殺気丸出しの奇襲を
かわす事など、訳も無かった。
俺は腰から拳銃を取り出すと、相手の片膝を
一瞬で打ち抜いた。
「ううっ…」
男は呻きながら横向けに倒れ、撃たれた膝を掴んでいた。
「ボスは誰だ?」
俺は銃口を男に向けた。
「あんたに…あのスイートバックに手を出すなんて
俺もバカだと思っている…どっちに転んでも
俺は死ぬしかねえんだ…」
震える声でそう言って男は銃口を自分の口に入れ、
引き金を引いた。
俺はスマホを取り出し、電話をかけた。
出た相手は無言だ。
「受けるよ。そして最後の仕事にしたい。」
そう言って、俺は仕事の内容を確かめもせず
仕事を受注した。
長年の勘が告げている
断っても同じだろう。命は狙われる。と。
仕事は、ある組織の幹部の暗殺だった。
その組織は多数の国の政治にまで食指を伸ばし
裏から政治を操る事もできる巨大な裏組織だった。
俺が所属する組織もそこから莫大な資金援助を受けていた
筈だったが。
その幹部たちには恨みはない
だが、彼らを始末すれば、争っている奴らの
パワーバランスは崩れ、俺は生き残ったほうから
は恨まれない。
だから今は仕事を完遂するしかないのだ。
◆
赤道に近い国の国境付近でも、標高が高ければ
気温が低い。
俺は岩が切り立つ断崖のちょっとした空き地に
ライフルを設置した。
ここに来て、1週間が経とうとしていた。
3キロ先の、小さな村に、相手の組織のアジトがあった。
そこに幹部たちが不定期に女を買いにやってくるというのだ。
村の女が体を売るという事がその村の重要な収入源にも
なっていた。
10日目の昼過ぎ、そのチャンスは巡って来た。
俺がスコープを覗いている時だった。
この村には似つかわしくない高級車が止まり
中から男が3人出てきたのだ。
小屋の中から女が出てきて、男たちに抱きつき
そのまま小屋に消えていった。
奴らで間違いない——
俺はスコープのスイッチを入れる。
“GPS ON“の文字が点滅する。
再びスコープを覗くと、小屋の中の人影が
赤く鮮明に映った。
「さあ お楽しみを待つとするか…」
俺は呟いた。
奴らが事を始めたら、あとは順番に素早く引き金を引くだけだ。
ふと、すぐ近くでカチリと音がした。
一瞬、スコープから目線を外し、音の方向に視線を向けたが
何もなかった。
思えばこれが俺の暗殺者人生における初めての油断だったのかもしれない。
再び、スコープに視線を戻した時
その先の光景がまるっきり変わっていた。
小屋が消えていたのだ 跡形もなく。
前に止まった車からは炎が上がっていた。
一瞬だ、ほんの2、3秒視線を外しただけだ。
爆発音も聞こえなかった。
スコープのレンズをゆっくりと動かしていく
村人がパニックになっている様子が見て取れた。
そして、レンズをもう少し左に移動させたとき
一人の男が立っていた。
その男はこちらを見て笑っていた。
奴は確実にこっちを補足しているのだと、なぜか俺は確信した。
そして俺は「まさか」と思う前に引き金を引いた。
なぜならその男は俺の良く知る人物だったからだ。
躊躇は命取りだ。
◆
次に気が付いた時、俺は歩いていた。
真っ白な世界だった。
その事に疑問を持たず、ただ前に向かっていた。
気が付くと、目の前に人が立っていた。
背の高い、いや俺が低いのか…それすら曖昧だが
女は薄い羽衣を纏っているようだった。
どことなく甘い香りが漂い、何故か心が落ち着いた。
「これを受け取れ」
差し出されたのは俺のライフルだった。
組織に頼み特別にカスタムした長年の相棒。
俺が手を差し出すと、ライフルは黄金色に輝き
小さな光の玉となった。
その玉は俺のみぞおちあたりに吸収されていった。
「いつもお前を見ているぞ…」
その瞬間視界は閃光に包まれた。
◆
再び目を覚ますと、誰かが俺を覗き込んでいた。
男と女だ…
「おはよう、アシュリー」
そういって女は俺の頬にキスをした。
「お前は誰だ? ここは何処だ? 組織は!?
俺は奴を始末したのか?」
そう言葉で発したつもりが、ただ泣きじゃくるしか
出来なかった。
「おお よしよし」
女に抱きあげられた俺は、何故か幸せな気持ちになった。
どうやら俺は生まれ変わったらしい。
しかも前世の記憶を持ったまま。
しかし、赤ん坊というのはままならぬものだ。
言いたいことも言えず、行きたい場所にも行けない。
持ちたいものも持てず、食いたいものも食えない。
俺にできるのはただ泣くという事だ。
ひょっとして全ての赤ん坊はそうなのだろうか?
だが親というのはつくづく優秀だ。
俺が何を求めているかを予測し
俺が泣き止むまで何度でも試行錯誤してくれるのだ。
そして泣き止むと。
「えらいね~」
と褒めてくれる。クソを垂れてもだ。
逆に俺が恥ずかしくなる。
「褒められるような男じゃねえ」
と口に出したものの…両親には
「ばぶばぶ~」
としか聞こえてないだろう。
あとで聞いた話だが、俺は生後1か月で立ち上がり
2か月目には歩いていたという。
その事が噂となり、小さな村は神童が生まれたと
ちょっとした騒ぎになった。
しかし、その時の両親の顔には困惑が見て取れた。
ある時、俺は自分が死んだ時の事を思い出していた。
いや、正確には死んだ事すらわからないが。
前世で起きた事よりも、白い空間で出会った
女の事だった。
女は言った
「これを受け取れ」
と。
そう言えば俺は、あのライフルと生死を共に
していたな…
その瞬間、目の前にあのライフルが現れた。
一瞬で空間に形を成し。仰向けの俺の上にどさりと落ちた。
銃身で頭を打った俺は、泣きじゃくった。
「アシュリーどうしたの!?」
隣の部屋から母親の声がする。
俺は焦った。
こんな物が見つかれば、また騒ぎになってしまう。
「消えろ消えろ‥‥」
と念じたら、ライフルはすっと消えた。
これは現実なのか、夢なのか…
この現象に何の意味があるのか。
ここはどんな世界なのか、この世界に銃火器は存在するのか?
様々な疑問が沸き上がったが、そのうち考える事を止めた。
そんなこんなで俺は2歳になっていた。




