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18/28

ep18

能力測定二日目。


昨日とは打って変わって灰色の空だ。

遠くで遠雷も聞こえる。


「こりゃあ一雨来るかもな。」

父リースが言った。


「アシュリー様、カイト様、これを。」

そう言ってワイゼルが小さく畳まれたポンチョを

渡してくれた。


「ありがとうございます。」

俺とカイトは頭を下げた。


外に出てすぐ、ぽつぽつと雨粒が頬を濡らした。


「急ごう、カイト」

俺たちは小走りで城に向かった。


「アシュリー!カイト! こっちこっち!」

アンビエントが俺たちを見つけて手を振っている。

隣にはシルヴィもいた。


「おはよう!」

「おはよう!」


「アンビエント、僕たちは1番受付だよね。」

カイトが言った。


「私は3番よ。黄色のカード」

シルヴィも続いた。


そして一斉に視線が俺に向く。


「俺は…0番…かな。黒のカード…」

若干小さな声だった。


「0なんてあるの?初めて知ったわ。」

シルヴィが言った。


「シルヴィ、俺には魔力が無いんだよ…

多分それで。」


「そうなんだ…でも運動神経はトップ

だと思うわ。」

シルヴィは笑ってみせた。


「ありがとう。シルヴィ」

この優しさは結構染みる…


「とにかくみんな、がんばりましょ!」

一瞬シルヴィに母を見た気がしたのは

俺だけではないはずだ・・・


そしてそれぞれの窓口に向かう為

俺たちは散会した。



◆



0番窓口は城壁の前ではなく、少し離れた場所に

設置されていた。

しかもそこだけ手入れのされていない木々が

生い茂り、建物も今にも崩れ落ちそうな様相であった。


雨脚が強くなり、俺はワイゼルの用意してくれた

ポンチョを鞄から出し、羽織った。

広げた瞬間とてもいい香りがした。


「すいませーん! 黒札を持って来ましたー」

おかしいな、昨日は受付に女性がいたはずだが。


「受験番号699番、アシュリー・セラスです。

どなたかいらっしゃいませんか?」


俺の声は、強くなる雨音にかき消されていった。


「!!」

俺は突然背後から殺気を感じ、振り返らずに

いつでも反撃の態勢をとれるよう構えた。


「ふふふ…まさか本当に来るとは…」

女の声だ。


「誰だ?」

俺はゆっくり振り返った。


「私の殺気を感じたね、まあ、良しとしようか。」

その人物は黒いロングコートを羽織り、フードで顔は見えない。

それに背が高い。恐らく父リースよりも長身だろう。


「なぜ僕に殺気を向ける?」


「フフ…簡単な話さ。

殺そうと思ったからだよ!」

そう言った瞬間、女は俺に躍りかかった。


女は指先で俺の目を狙って鋭い突きを繰り出した。

俺は寸でのところでかわし、女の腕を取った。


「せいっ!」


そしてそのまま俺は女を投げ飛ばした。


「?」

確かに腕を取った。

が、投げ飛ばした感覚が無い……


その瞬間、背後に気配があった。


「フフフ…」

俺の首筋に生暖かい息がかかった。


俺は体を回転させ、素早く距離を取った。

だが俺は戦闘態勢を解いた。


「あら…もう終わり?」

暗がりから声がした。


「殺そうと思えば、機会は2度あった。」


「……」


「だがあなたは俺を殺さなかった。

つまり、違う目的があるという事だろう?」

俺は手に持っていた、腕(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)た(・)木の枝を

地面に捨てた。


「やれやれ…君、本当に10歳?」

女は呆れたような口調になった。


そして女はフードを脱いだ。

キツネの様に細い目。

右目に縦に傷が走っている。

鼻は細く高く、薄い唇には真っ赤なルージュが

ひかれていた。

並の男よりも身長が高く、痩せていた。


「アシュリー・セラス君ね。」

女は右手を差し出した。


俺は少し躊躇したが、その女と握手を交わした。


「ブリジット・ミッテランよ。」

と女は名のった。


「ちょ…」

なかなか手を離さない。


ブリジットと名乗った女は俺に顔を近づけ

「0番窓口へようこそ、ミスターアシュリー」

と言った。


「本当にかわいい顔をしてるわね あなた。」

ぺろりと舌なめずりをした。


「どういうつもりですか?」


「どうって 何が?」

女はあっけらかんとしていた。


「能力測定はどうするんですか?」


「ああ…あれは…茶番よ。」

ブリジットは意地悪な笑みを浮かべた。


「なんだって?」


「あんな数字なんて当てにならないわ。

何がわかると言うのよ。」


「だけどそれによって適性が…」


「そんなもの努力次第でなんとでもなる。」


「じゃあなんで…」


「選ばれる人間は最初からある程度決まっているのよ。

軍に入ろうと思えば誰でもできるわ。」


「!?」

この女、さっきから何を言っているんだ。


「君は私が何を言いたいのか気になっている。」

そう言ってブリジットは俺の鼻っ柱を指で

つついた。


「何が言いたい?」


「あなたに能力測定は必要ないわ。」


「それはどうして?」


「定期的に報告書をチェックしていたのよ。

はっきり言って即戦力で欲しいくらいよ。」


「僕には魔力が無い。

それで通用するんですか?」


「あなたならそんな物はいらない事くらい

わかってるでしょ?」


「……!」

なんとなくは分かっていたが

そこは考えない様にしていたのだ。

魔力こそがこの世界の価値観なのだと

思っていた。


「だけど、剣技テストと最後の

模擬演習は出てもらうわ。」


「剣技はともかく、模擬演習って?」


「最後の二日間、野外に出てもらうの。

この頃には受験生は3分の1になっているはずよ。

1000人近くいた子供が300人ほどにね」


「なんだって?」


「今頃、早くも現実を突きつけられた受験生たちが

家に帰る支度をしてるわ。

あなたのお友達はどうかしらね。」

ブリジットは意味深な笑顔を浮かべた。


「まあ、あとは当日のお楽しみよ。」


「で…僕はこれから何をすれば?」


「剣技のテストが二日後、次の日は

二日連続で野外測定。

それまでは、適当に街をぶらつくもよし

お友達の試験を見学するもよし。」


「……」


「これで、私の能力測定は

終わりよ。次に会うのを楽しみにしてるわ

アシュリー  フフフ…」

そう言ってブリジットは暗がりに姿を消した。


0番窓口からは人の気配は消えた。

ただ雨が地面をたたく音が響き渡っていた。


鬱蒼とした生け垣を抜けると

多くの受験生達が、城とは逆の方向に

ぞろぞろと歩いていた。

皆肩を落とし、中には泣いている者もいた。

よく見ると、皆紫色の札を手にしていた。


落とされた人たちだ…

すぐに思った。


だが、さっきから一つの疑問が浮かんでいた。

この能力測定とは一体何なのか。

測定をすることで自分の適性を知り

進路を決めるという事ではないのか?


その時

「アシュリー君!」

シルヴィだった。

少し先で手を振っている。


もしかして、彼女も…

そう思うと笑顔でいられない気がした。

俺はゆっくりと彼女に近づいて行った。


「なんだか表情が冴えないねぇ

もしかして、失格…?」

シルヴィが言った。


「あ…いや。そういう訳じゃないんだけど…

その、シルヴィが…」


「うふふ…

御心配には及びません。

私は黄色の札よ!」

シルヴィは笑顔で札を見せた。


「アシュリーは、どうだったの?

0番窓口。」


「うん…まあ…失格では無いのかな…」

言えるわけがない。


「なら 良かったじゃん!」


「シルヴィはここで何してるの?」


「筆記テストがあったんだけど

終わったんで出てきちゃった。」


「え? だってあと1時間くらいあるよ?」


「簡単すぎちゃって。」

シルヴィはぺろりと舌を出した。


その時声がした。


「おーい! 色男!!」


俺は声の方を向いた。

「あ! メルシオおじさん!」


「アシュリー! 久しぶりだな!」


「おじさんこそ、ご無沙汰しています。」

メルシオとは2年ほど前に会ったっきりだ。


「お前、背が伸びたな、いつか俺も追い越すぞ。」


「まだまだだよ」

メルシオと話をすると、やっぱり元気が出る。


「おい、紹介しろよ、彼女」

メルシオが腕で俺をつんつんした。


「そんなんじゃないよ!

あ、こちら、僕の叔父のメルシオさん。」


「初めまして、メルシオさん

シルヴァーナ・オーギュスト・カンドールと

申します。

以後お見知りおきを。」

シルヴィは膝を折って一礼した。


「ほほー これはアシュリーの彼女には

もったいないな。」

メルシオは顎をさすりながら言った。


「だから彼女じゃないってば。

昨日会ったばかりだよ!」


「はは…それはそうと、君達今暇かい?

よかったらお茶しない?」

メルシオが言った。


「僕はいいけど、シルヴィが…」

俺はシルヴィを見た。


「はいっ!! ぜんっぜん暇です!」

シルヴィの目が輝いているのは気のせいだろうか。


「ちょっと! 君はまだ試験中だろ?」


「だって、簡単すぎて終わっちゃったんだもん。」


「あははは、君は面白いなシルヴィ!

じゃあ 決まりだな!」

メルシオがウインクした。


いつの間にか雨はやみ、雲の隙間から

青空が少しだけ顔を覗かしていた。



◆



カフェは大通りから小さな路地を

曲がった突き当りにあった。

カフェかどうかも見分けがつかないくらい

飾り気のない外観だったが

店に入ると

ゴシック調でまとめられた家具は

古いが大切に使われているのだと感じた。


シルヴィは店内に入ると

「素敵なお店…」

とつぶやいていた。


……………


「そうか、オッル海岸か。

大変だったな。」

メルシオが言った。


「バイゼルの侵攻があった時は、私はまだ

小さかったので記憶はありませんが、

家族は大変だったみたいで。」

シルヴィは苺パイを口に運びながら言った。


「ゼノスは息災かい?」

メルシオが言った。


「ゼノス管区長は相変わらず、酔っぱらっています。」


「はは! じゃあ問題なしだな。

そういえば…ゼノスが前に言ってた海岸沿いの

秘蔵っ子っていうのは…君の事か?」


「なんですか?それは、でも管区長には

しょっちゅう稽古をつけて頂きました。」


その時

「んぐっ…い、いけない 戻らなきゃ!」

シルヴィは胸をトントン叩きながら

立ち上がった。


「メルシオおじさま、今日はありがとうございました。

お代はまたあとで!」


「いいんだよ そんなのは

ほら、早く行きな!」


シルヴィは慌てて出て行った。

ドアベルがカランカランと鳴った。


「いい子じゃないか。」

メルシオが紅茶を口に含んだ。


「うん、とても。」


少し沈黙があった。


「ねえ おじさん、聞きたいことがあるんだけど。」


「なんだ?深刻な顔して」


「能力測定ってそもそも何?」


俺がそう言った途端、メルシオの顔から笑みが消えた。


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