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1mmのズレと、君の住所  作者: ネギ玉(仮)
第6章:白紙の頁(ページ)と、整理されない僕たち

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第2節:上書き(手帳の反逆)

紬は目を見開いたまま、テーブルに散らばった「ノイズ」の山と僕を交互に見ていた。

 僕は愛用の黒いシステム手帳を開く。

 そこには、1分刻みのスケジュール、効率化された学習計画、そして無機質なタスクリストが、定規で引いたような直線とともに並んでいる。


「律くん、何をして……」


「僕の人生は、この手帳によって制御されていた。無駄を省き、ノイズを排除し、最短距離で正解に辿り着くための地図だ」


僕はペンを握り直し、その「完璧な地図」の上へ、迷いなくペン先を落とした。

 

 ――ガリ、と嫌な音がした。

 

 明日の予習計画、来週の模擬試験対策、整然と並んだ数字と文字。

 それらをすべて、僕は太い斜線で塗りつぶしていく。


 几帳面な僕の美学が、脳内で悲鳴を上げている。

 だが、その悲鳴よりも、目の前で震える彼女の吐息の方が、今の僕には遥かに切実な信号(シグナル)だった。


「消しちゃうの? 律くんが大切にしてた、明日の予定を……」


「明日の予定なら、今ここで書き換える。……いや、予定ではないな。これは、僕の『意志』だ」


白紙になった明日のページ、そしてその先の一週間、一ヶ月の頁に、僕は大きく彼女の名前を書き込んだ。


『瀬戸口 紬。整理不能。解決策なし。……よって、そのまま隣に置くこと』


筆跡は乱れ、枠線からはみ出している。

 それは僕の人生で初めての、そして最大級の「ミス」であり、同時に初めての「真実」だった。


「……解決しなくていいの? 汚れたままで、いいの?」


 紬の声が震え、涙が手帳のページに一滴、落ちた。インクが滲み、さらに「整理不能」な模様を描く。


「そうだ。石鹸で落ちない汚れも、言葉で癒えない痛みも、すべてそのままでいい。……君が自分のことをゴミだと言うのなら、僕は世界で唯一、そのゴミを宝物として収集し続ける変人になればいいだけの話だ」


僕は手帳をパチンと閉じた。

 

「論理的な解決を捨てた僕に、何ができるかは分からない。だが、紬。君の隣を、僕の『新しい住所』に決めた。君がどこへ行こうと、僕という基準点は、君の1ミリ隣から動かない」


紬は、滲んだ手帳のページを愛おしそうに指でなぞった。

 僕たちは、正解のない暗闇の中で、お互いの体温だけを頼りに、壊れた時計の針を止めた。

 

 律のペンケースにある「10年前の和紙」に、もし今熱を加えれば、そこにはきっと、今の僕たちにしか読めない新しい「約束」が浮かび上がっているはずだった。

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