表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1mmのズレと、君の住所  作者: ネギ玉(仮)
第3章:不可視の境界線と、雪の上の足跡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/35

第10節:冬のノイズ

放課後、校門を出る頃には、雨は雪をあらかた洗い流していた。

 アスファルトの隙間にわずかに残った氷の欠片が、街灯に反射して鈍く光っている。


「ふう、お疲れ様! 結局、今日は数学の予習どころじゃなかったね」


 紬が白い息を吐きながら、隣で跳ねるように歩く。


「……当初のスケジュールからは45分のアウト。さらに、中庭での作業によりレインブーツのメンテナンスコストが発生した。論理的に言えば、今日の僕は『赤字』だ」


「でもさ、律くんのペンケース。中身、ちょっと賑やかになったんじゃない?」


僕は歩きながら、カバンの中のペンケースに触れた。

 一ミリの狂いもない定規。

 第1章で拾った、あの欠けた消しゴム。

 第2章で手に入れた、鏡文字のチケット。


 そして今日、深町さんから預かった、雪だるまの頭に使われていた「赤い絵具」がついた小さなテグスの切れ端。


「……無駄なものの集積だ。本来の僕なら、即座に廃棄している」


「嘘ばっかり。律くん、それを見てる時、なんだかちょっとだけ『正解を見つけた子供』みたいな顔してるよ」


「……視覚情報の誤認だ。気温の低下による眼輪筋の収縮に過ぎない」


僕はわざと視線をそらし、遠くの街並みを眺めた。

 冬の夜は長く、冷たい。だが、僕の脳内を占めるのは、以前のような殺風景な数式だけではなかった。


成瀬のギプス、岸田先輩の鏡、深町さんの筆。

 人々が「正論」の影に隠した、割り切れない思い。

 それらは僕の計算を狂わせる「ノイズ」ではあるが、そのノイズがあるからこそ、僕の論理は現実という世界にようやく接地アースできているような気がした。


「ねえ、律くん。明日は予習、付き合ってくれる?」


「……15分だけなら検討しよう。ただし、メロンパンの焼き加減についての講義は禁止だ」


「あはは、約束!」


紬の笑い声が、冷たく澄んだ空気の中に溶けていく。

 一年前の雨の記憶。

 今朝の雪の足跡。

 それらはすべて、明日になれば過去のデータとなる。


 だが、僕の手元に残った「欠けたものたち」は、春が来ても消えることはないだろう。


僕はマフラーを少しだけきつく巻き直し、隣を歩く「最大級のノイズ」の歩幅に合わせて、ゆっくりと駅への階段を降りていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ