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1mmのズレと、君の住所  作者: ネギ玉(仮)
第3章:不可視の境界線と、雪の上の足跡

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第2節:凍てつく証言

僕は上履きを脱ぎ、予備としてロッカーに常備しているレインブーツに履き替えた。

 雪の深さを測る際、自分の足跡をノイズとして混入させないためだ。


「瀬戸口、君はそこから動くな。僕が歩いた軌跡の外側から、スマホで写真を撮れ。角度は垂直と、水平から三十度の二点だ」


「了解、律隊長! はい、チーズ!」


不適切な掛け声を無視し、僕は雪面へ慎重に定規を差し込んだ。

 足跡の深さは一点につき平均二・二センチ。

 雪の密度と地面の硬度から逆算すると、対象の体重は五十五キロから六十キロの間。

 男子にしては小柄、女子にしては平均よりやや重いといったところか。


「……不可解だな」


「何が? 律くん。体重、分かった?」


「体重は導き出せる。だが、足跡の『エッジ』が立ちすぎているんだ。今朝の雪は湿り気が多く、自重で崩れやすい。それなのに、この足跡はまるで型抜きしたように正確な長方形を維持している」


僕はピンセットで、足跡の底に沈んでいた「微細な何か」を拾い上げた。

 それは、緑色のプラスチックの破片。

 よく見れば、それは学校指定の「掃除用バケツ」の縁が欠けたもののように見えた。


「掃除用具? ああ、そういえば! 今朝、清掃員の田中さんが困ってたよ。中庭側の用具入れから、バケツが一個消えてるって」


 紬がシャッターを切りながら、思い出したように言った。


「掃除用バケツの消失……。さらに、あそこを見てみろ」


僕は未完成の雪だるまの「頭部」を指差した。

 歪な球体の頂点に、うっすらと赤い筋が見える。

 最初は血かと思ったが、近づいて観察すると、それは極めて粘度の高い「ジャム」のような、あるいは「朱肉」のような塗料だった。


「血じゃないよね? 怖いよ、律くん」


「成分を特定しない限り断定はできないが、甘い匂いはしない。……それより、紬。君は今朝、何か妙な噂を聞かなかったか? この中庭に関することで」


「えーと、噂……。あ、ダンス同好会の佐伯さんが言ってた! 昨日の夕方、中庭の掲示板の裏で、誰かが『大切なものを落とした』って必死に探してたらしいよ。暗くて顔は見えなかったみたいだけど」


バケツの消失、赤い塗料、そして掲示板の裏の落とし物。

 バラバラのピースが、僕の脳内で一つの「線」を結び始める。


「……足跡が消えたのではない。最初から、そこには『一方向の重力』しか働いていなかったんだ。瀬戸口、次の授業が始まる前に、屋上へ行くぞ。この中庭を、俯瞰的な座標として捉え直す必要がある」


僕はバケツの破片をチャック付きの袋に収めた。

 雪だるまの無機質な頭部が、冬の薄い太陽に照らされて、僕を嘲笑うように光っていた。

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