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真実の愛って何? 〜裏切りの言い訳は聞きません〜  作者: 影茸


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第七話

 それから少しして、お父様の部屋についた私を待っていたのは、険しい顔をしたお父様の姿だった。


「アズドリア伯爵家の執事から話は聞いた」


 お父様の声に、私の中から兄様と話した緩みが消える。

 バランド・フランシスコ。

 フランシスコ家の地盤を盤石なものとし、今でもなお戦場に向かう武人。

 生きる伝説として扱われているそのお父様は今、激怒していた。


「婚約破棄か。ラドリーか、あの令息も良い身分だな」


 その声音は変わらない。

 表情の変化もいつもと険しいという程度。

 ただ、普段の父は一切表情を表に出さないと知っている私には理解できた。


 ……今のお父様は、私が初めて見ると言っても良いほど怒っている。


「私は何度も言ったはずだ、シーリャ。ラドリーには次期当主の器はないと」


 そう、それはずっと言われてきた話だった。

 何度も婚約破棄をしろと言われ、私はずっとはねのけてきた。


「なぜ、こんな扱いを受けるまでお前は私の言うことを聞かなかった」


「……申し訳ありませんでした。私がフランシスコ家に与えた被害はよく理解しております」


 心からの反省を込め、私が告げた言葉。

 しかし、なぜか私の言葉に父はわずかに顔を歪める。


「その通りだ。今回の件で、フランシスコ家の名前は大きく傷ついた」


 淡々と告げられる父の声。

 しかし、非難しているというには複雑な感情がこもっていた。


「実状は決して油断できる状況ではないだろう」


「……承知しております」


「今まで築いたフランシスコ家の立場を軽んじるものも出てくるだろう。国王陛下からお叱りの言葉を受けることもあるかもしれん」


 父の言葉はいつも通り厳しかった。

 けれど、父の言葉はいつも真実だった。


「軽んじた輩ならすぐに黙らせられる。国王陛下にも、我が家の事で余計な事は言わせん。その為に無茶も聞いてきた」


「……お父様?」


「私がしたいのはそんな話ではない」


 だから、私はお父様の言葉に驚きを隠せなかった。


「私はラドリーのことを伯爵家当主だと認めてはいない。あの男は弱すぎる。当主には向かない。……お前も分かっているんだろう、シーリャ」


 そう告げた時、お父様の顔にあったのはただ悲しげな表情だった。


「私はそうは思いません。ラドリーは気遣いができる、優しい人間です。向いてないと断言するべきではない。彼は私のしている事を認めてくれていた」


 そう、それは私の心からの本心で、私がラドリーの婚約者になろうと決めた理由。

 私が学園で厳しい人だと思われたときも、ラドリーを伯爵家当主になる為にあちらこちらを奔走してくれていた時も、ラドリーはじっと見てくれていた。


「確かにあの男は心優しい」


「そうです。ラドリーは……」


 同意してくれた父に、私はまくし立てようと口を開き、しかしすぐに気づく。

 ……父上のその目は、人を褒めるにはあまりにもほの暗かった。


「だが、それは弱さの裏返しだ」


「……っ」


「実際、あの令息がお前を守ろうとしたことがあるか? 噂を否定しようとしたことがあるか?」


 父の問に、私は何も答えられなかった。

 そんな私に、父は淡々と続ける。


「もう、ラドリーを気にかけることは禁じる。あの男はお前にふさわしくない」


 ……固い父の声、それを聞きながら、私の胸にあったのは絶望だった。

 確かに、父は厳しい。

 けれど、こんな声を聞いたのは初めてだった。

 その事に動揺を隠せない私の胸に、失望という言葉が浮かぶ。


 もしかしたら私は、とうとう父に失望されたのではないかと。


「シーリャ、学園に行く必要もない。今は休め」


 滅多にない父の優しい声、しかしその言葉の内容は私の想像を裏付けるような言葉だった。

 ……いやだ。

 そう想いながらも、私は理解していた。

 私がしたのは、父が私を見捨てても仕方のないような失態だったと。

 それでも、私が自分を納得させることはできず。


「シーリャ」


 呆れたような、どこかためらうような声が聞こえてきたのはそのときだった。


「一度しか言わん」


 そう言いながら、父は立ち上がり、私の方へとやってくる。

 ふと、私の中で記憶が蘇る。

 昔、私を諭す時。

 父は絶対に私のそばにやってきて、目を見て説明してくれていた、と。


「お前は私の自慢の娘だ」


「おとう、さま?」


「だからもう二度と、お前を尊重しない相手に嫁ぐようなことはするな」


 そういって、乱雑にお父様が私の頭を撫でる。

 ……兄様と違って、お父様はたまにしか頭を撫でることはなかった。

 故に、今もお父様の手つきは乱暴で、けれどなぜかその感触が私には心地よくて仕方なかった。


「……お父様はへたくそです」


「もうやらん」


 憮然とそう言いながら、それでもお父様の手つきが優しくなる。


「ハイドには、この話をしたのか?」


「……いいえ」


「そうか」


 言葉少なく、けれど間違いなく勝ち誇ったような表情を浮かべるお父様。

 その表情を見ながら、私は涙を拭う。

 同時に私は思わずにはいられない。

 どうして私は、ラドリーに裏切られた程度でこんなにも打ちのめされていたのだろうか。

 ……私には大切な家族がいるのに。


 私が泣きやむその時まで、お父様は静かに私の頭をなでてくれた。

本日多めにかけたので、明日まで三話更新にさせていただきます!

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