第四十七話
私、シーリャ・フランシスコがサブリナを捨てるべきではない。
かつて兄、ハイドに告げたのはただ、その能力を捨てるのが惜しいと思ったからだった。
現在雪狼騎士団に預けられた多額の金額。
不当な方法とはいえ、その多額の金額を有効活用することを見いだした令嬢、サブリナ。
その能力を腐らせるのはもったいない。
……私の心にあったのはそれだけだった。
──彼女は、サブリナは私の恩人なのです!
「バーリナが命をかけて貴女を救おうとしたのを裏切るの!」
けれど、竜にサブリナが目を付けられたその瞬間、私は叫んでいた。
高位魔獣を引きつける貴重な撒き餌を投げながら、誰より自分の行動に驚愕していたのは私だった。
サブリナの使う低位の魔獣を呼ぶ笛くらいであれば、どうにでも対処できる。
そう思ったから、私はバーリナの頼みに応じて、この場を内々に終わらせる決意をした。
私にあったのは、その程度の決意。
……なのになぜ、私はこんな本気でサブリナを救おうとしているのだろうか。
必死にサブリナの手を取って逃げながら、私は思う。
私は何をしているのだろうかと。
「これからの雪狼騎士団には貴女が必要よ! いいから生き抜きなさい!」
サブリナも私も思っていないことを叫びながら、私の心の中にあったのはある思いだった。
──目の前の、泣いている少女を見捨てられないという感情。
故に、サブリナが私を振り払い、前に出た時。
私もまた、自然と前に踏み出していた。
心の中にあるのは一つ。
ただ、間に合ってくれという願望。
「────────!」
そして、竜の頭部に飛来した氷塊に、私は賭けに勝ったことを理解した。
セドリックが竜へと斬りかかる背中が見える。
──使いを捜してきてください。
かつて、私がセドリックに言い放った言葉が私の頭によみがえる。
それはセドリックに対する、私の要求だった。
ある人間を呼んできてほしいという。
そして今、セドリックがいるということは私の想像は当たっているはずで。
背後、よく覚えている冷気を感じたのはそのときだった。
竜が現れるなんて、私は想像もしていなかった。
ただ、それでももしかしたら何か想定外の事態が起きる可能性を私は頭に入れていた。
故に私はセドリックを通じてこの場に呼んでいたのだ。
この辺境最強の人間、ハイド・フランシスコを。
目の前の竜を見て、私は笑う。
あれほど怖かった竜が、今の私には一切怖くなかった。
冷気で分かる。
兄様はすぐ後ろにいると。
「シーリャ、下がってなさい」
……次の瞬間、私の肩に置かれた兄様の手はぞっとする程冷たかった。
いつもと違って、端的な兄様の言葉。
それに対して、私は何も言うことができなかった。
私から見える兄様の背はいつもの頼りになる背中で、けれど私ははっきりと感じていた。
私の肩に手を置いた兄様の手。
──それが確かに震えていたことを。




