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真実の愛のその後〜元婚約者に味方がいなかった件〜  作者: 影茸
第二章 雪狼騎士団

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第四十六話 (サブリナ視点)

「立ち上がりなさい!」


 こんな状況にあってもなお、シーリャの目は爛々と光っていた。

 先ほど見た、竜の目と同じように。


 とっさにシーリャの手をとりそうになって、私は抑える。

 シーリャに心を動かされて、それでもなお私は死にたいまま立ったから。


「バーリナが命を懸けて貴女を救おうとしたのを裏切るの!」


 ──バーリナ。


 けれど、シーリャは許さなかった。

 想像もしない名前に呆然とした私の手を強引につなぎ、シーリャは走り出す。


「竜に投げたのは、撒き餌よ! 少しの間は意識をそらせるわ! その間に逃げなさい!」


「し、しかし……」


「私を守りたいなら、一緒に逃げなさい! 命を無駄に捨てないで」


 呆然とする兵士達にそう吐き捨てて、シーリャは走っていく。

 手を引かれ、その後ろをついて行きながら、私の心にあるのは疑問だった。


「……どうして、バーリナの名前が」


「貴女を助けてと私に教えてくれたのが彼女だからよ」


 ……信じられなかった。


 私はそうして巻き込まないようにとバーリナを罵倒したのだから。

 それも公衆の面前で。


「そもそも、私は貴女の手腕を買っているわ。貴女をスカウトしたいと兄様にも伝えていたのだから」


 想定外だったのは、さらに続けたシーリャの言葉だった。


「……は?」


 走りながら、しゃべる呼吸がつらい。

 今も死の間際にいる恐怖が私の胸に巣くっている。


 けれど、それさえ私の中からは消えていた。


「これからの雪狼騎士団には貴女が必要よ! いいから生き抜きなさい!」


 そう叫ぶシーリャもまた、その呼吸は大きく乱れていた。

 そして、それでも私を握る手を絶対に放そうとはしなかった。


 ……目の前のシーリャはただのお人好しなのだと理解したのは、その時だった。


 地面が揺れる。

 それこそが、竜の注意が私達に戻ったことを物語っていた。

 次の瞬間、地面の揺れがどんどんと近づいてくる。


 その揺れに、私の中で覚悟が決まっていた。


「ごめんだわ。そんな未来」


「……っ!」


 シーリャの手を私は強引に放す。


「そんな屈辱を味わうくらいなら、私はここで死ぬわ」


 ずっと、ずっと、私は自分を見て必要としてくれる人を求めていた。

 だが、ようやくそんな酔狂な人間を見つけて私は気づいた。


 違うのだ。

 私が求めていたのは、自分に何かしてあげられる人間ではなく、全てを捧げて何かをしたいと思う人間だったのだと。


 そんな人間を、自分の作った地獄につきあわせて、私は笑う。

 今のこの状況まで気づかないなんて、私にはやはり才女なんて名前は重かったらしいと。


「……やはり、その名称は貴女がふさわしいわ」


 だから、その名前をこれ以上汚す前に私は退場しよう。

 迫る竜の姿に、私は覚悟を決めて。


 轟音とともに、その頭に氷塊が飛来した。


「───────!」


「人の妹に何している?」


 声にならない竜の悲鳴が響く。


 そして、竜の方へ走っていくセドリックを見て、シーリャが安堵の息を吐く。


「……よかった、間に合った」


 今の私の思考でさえ、シーリャを過小評価していた。

 そのことに私はようやく気づく。


「シーリャ、下がってなさい」


 背後から、シーリャの肩をたたいて一人の人間が現れる。


 ──その人物こそ辺境最強の人間、ハイド・フランシスコだった。

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