第四十二話
「へえ、そんな道具があるんですね」
「ああ。禁制品として指定される程、危険な魔道具だよ」
目の前にいる兄様が、わずかに険しい表情で告げる。
「といっても、呼び出せる魔獣はせいぜい低位くらいのものだけどね。それに、近くにいる魔獣しか呼び出せないし」
その話を聞きながら、私シーリャは告げた。
「それ以上に危険な品なら、お父様が見逃す訳がないですもんね」
「そうだね。ただ危険なことには変わりない。シーリャも十分に気をつけるように」
「はい」
素直にうなずきながら、わずかに私の胸に罪悪感が生まれる。
そんな私の様子に気づくことなく、兄様は続ける。
「それにしても、こんなことがお礼でいいのかい?」
「はい。十分に興味深い話でした」
「そうか。シーリャが興味本位でこういう話を聞くのは珍しいね」
「……そうですか?」
そんな私に、なぜか少し朗らかに笑って兄様は告げた。
「ああ。ラドリーと婚約している時は興味で動くことはなかったよ。必要なことは徹底的に聞かれたけど」
そう告げる兄様の顔には、どこか安堵がにじんでいた。
「いや、これでは私の気がすまない。もっと、きちんとお礼をさせてくれ。ーーこれはバロランド伯爵家の不正を暴いてくれたお礼なのだから」
「暴いてませんよ、まだ」
「ほとんど暴いてくれたようなものだろうに。不正のからくりを見破り、調査の許可さえ取ってくれた」
「……いえ。私は何も。私が望んでいるのは一つだけですわ」
その私の言葉に、兄様の顔色がわずかに曇る。
それもそうだろう。
何せ、その話は一度は無理だと言われた話なのだから。
「いえ、わがままでした」
「……悪いね」
兄様の謝罪を聞きながら、その実私は理解していた。
私の願いが成立しない理由は私にあることに。
ーーあの人間が私のことを受け入れない限り、私の願いは成立しないのだから。
「いえ、わがままをいいました。申し訳ありません」
「……分かってくれて嬉しいよ。悪いね」
「全然。私、兄様にもセドリック様にも大変迷惑をかけてしまいましたし」
そこまで告げ、私は自然な様子で尋ねる。
「そういえば、セドリック様は私の使いと言った意味を理解してくれていましたか?」
「ああ、伝わっていたよ。最初は半信半疑だったけどね」
そういって、愉快そうに笑う兄様を見ながら、私は確信する。
これで大丈夫。
私の想定は確実に成功する、と。
「まあ、折角の休日にあいつのことなんていいだろう。それより、シーリャここに行かないかい?」
「……犬とふれあえるカフェ、ですか」
「近くにできたらしくてね、君につきあってほしくて」
そうまぶしい笑顔で告げる兄様に、私は思わずじっとりとした視線を向ける。
……誰にもばれないようにしているはずなのに、どうしてこの兄様は私の好みを知っているのだろうか。
「騎士団の裏に飼われている犬とふれあった後は、きちんと手を洗うように」
「……はい」
想像もしていない姿を見られていたらしい。
相変わらず兄様にはかなわない。
そう内心思いながら、私は赤くなった顔を隠すようにお忍び用の帽子を深くかぶる。
「それじゃ、いこうか」
……私の机の引き出しの奥にしまわれたサブリナからの、一枚の書類。
それに最後まで兄様が気づくことはなかった。
次回から一週間に一話投稿にさせていただきます!




