第四十一話 (サブリナ視点)
シーリャフランシスコに継ぐ才女。
私の異名の原因となった出来事こそ、そのハイド様の言葉だった。
思い出す。
全てが報われた、そう思えたのはその瞬間だったと。
……そして、そのハイド様の隣に立つためであれば、どんな手段も辞さないと決意したのも。
「私は、お父様と変わらないわね」
今まで軽蔑していたはずの父。
それと自分は同じなのだと、今の私は理解していた。
……そして理解してなお、もう私には止まる気はなかった。
「サブリナ!」
よく見知った、聞き覚えのある声が響いたのは、その時だった。
顔を向けるとそこにいたのは、バーリナだった。
昔のように私のことを名前で呼んだバーリナ。
「私……!」
その顔に浮かぶ、泣きそうな表情を見て私は理解してしまう。
幼なじみの彼女は私が不正を行っていることに気づいていたことに。
そして、私の方がそのことに一切気づいていなかったらしい。
「私、サブリナと一緒にいるから」
……そして、その上でこの幼なじみは味方になろうとしてくれているのだと。
私は周囲を見回す。
周囲にいるのは、バラランド傘下の貴族達。
その中に、周囲にスピーカーと称される令嬢の姿があることを私は確認し、そして腕を振り上げた。
「裏切り者! 貴女が、シーリャにつかなければ私はこんなことにならなかったのよ!」
パンという音が響き、バーリナが固まる。
初めて人の頬を叩いた衝撃が手の平にびりびりと残っていて。
……けれど、それ以上に私の心臓がどくどくと音を立ててなっていた。
「もう近づかないで」
それを隠し、バーリナにそう言い放った私は背を向ける。
私の言葉の意味も分からないバーリナを残して。
そう、バーリナは別に私を裏切ってなければ、シーリャの仲間でもない。
──ただ、私の言葉を聞いた周囲の人間は、バーリナはシーリャ側の人間だと勝手に判断するだろう。
そうなれば、バーリナは私とバロランド伯爵家に巻き込まれることはない。
実際、バーリナは不正を知っていたとしても、関わってはいないのだ。
こんなどうしようもない愚かな罪を、バーリナに着せる気は私にはなかった。
……だって、バーリナは父とも、そして私とも違ってただ巻き込まれただけの人間なのだから。
「ずっと一緒にいる、馬鹿みたい」
部屋に戻る私の目からは、もう涙もあふれなかった。
「私はもう貴女の隣に入れるような人間じゃないのに」
ゆっくりと私は懐に手を入れる。
そこにあるのは、かつて私が手に入れた禁制の魔道具があった。
今、私の中にあるのは罪がばれた罪悪感でもなければ、解放感でもなかった。
変わりにあるのはある人物への純粋な一つの感情。
「ハイド様は絶対に渡さない」
──シーリャへの殺意だった。
分かっている。
シーリャはハイド様の妹だと。
けれど、かつてみたハイド様がシーリャに向けるまなざしが私は忘れられない。
その笑顔を思い出す度に、私の胸が、頭が、全身が叫ぶのだ。
シーリャ・フランシスコを殺せ、と。
「ねえ、貴女」
「サブリナ様!」
野次馬か、隠れるように柱の影にいた一人の侍女へと、私は微笑みかけた。
「シーリャ様に全てを打ち明ける。騎士団で話したい、そう書いた手紙を渡して」




