第四十話 (サブリナ視点)
バロランド伯爵家令嬢サブリナ。
今では私は才女として、もてはやされている。
……しかし、才女と言われる前の私は家族から虐げられる存在でしかなかった。
私に優しかったのは亡くなったお母様だけ。
お母様が亡くなった後、私に待っていたのは継母によるいじめと、それに流され私を虐げてくるお父様だった。
それからの日々は必死に生き残る日々だった。
唯一の味方は、私のお母様の実家である子爵家と、優秀だったと有名だったお母様に助けられた人々。
その人達のおかげで、私は何とか令嬢として生きていくことができていた。
──そんな私の生活の全てを変えたのが、雪狼騎士団事務方だった。
雪狼騎士団の預かっている金額の少しでもこちらに流せ。
そうお父様が私に命令した日を、今でも私は覚えている。
──私の言う通りにしなければ、バーリナが令嬢として日の目を見ることはないと思え。
その時、私は父に言われたのだ。
言うとおりにしなければ、私の唯一の従姉妹であるバーリナがどうなるか、分からないと。
……その父の後ろで笑う、後妻の姿も。
私に不正の拒否権はなくて、同時に私は理解していた。
フランシスコ侯爵家相手に不正をするなど、不可能に近いと。
──バランド様を相手にする訳じゃない。ハイドなんていう、若造相手などどうにでもなるだろうが!
そうのたまう父は気づいていなかったが、次期当主ハイド・フランシスコは英才だった。
普通に横領しても、すぐにばれて終わり。
そうなれば、私の腹心として事務方に入ったバーリナにも被害が及ぶ。
そう考えて、私が考えに考えたのが、雪狼騎士団の絶大な金額を金貸しに使うという方法だった。
もし、金を貸した先が返済ができなければ一巻の終わり。
ただ、雪狼騎士団に預けられた絶大な金額があれば、一端の商人に金を貸し、比較的安全に利息という形で利益を得ることができる。
……それでも、横領した金額を利息で補うまで私の人生は、恐怖の日々だった。
従兄弟を守る為に始めた不正故、私はバーリナにも不正のことは言わなかった。
何も知らずに、私に横領しろと急かす両親と、いつ横領が分かるのかという恐怖。
その板挟みの中、私は必死にあがいてきて。
──そんな苦しみに、努力に、声をかけてくれた人がいた。
今でも私は覚えている。
今まで社交界に一切出ていなかった私が才女と称される要因となった出来事。
「サブリナ嬢、貴殿の手腕に心からの感謝を」
ハイド・フランシスコ。
私の最愛の人が声をかけてくれた日を。




