第三十八話
「……それ、は」
後見、貴族の名前を貸すその行為は、当主を介さずに行われることはない。
サブリナが独断で後見の名前を貸すということはあり得ない。
故に押し黙ったバロランド伯爵家当主に対し、サブリナは冷静だった。
「あら、私は我が家が金貸しに後見を頼んだ記憶はありませんわ」
ぞっとする程冷たい目を見て、私は理解する。
サブリナは今、あの金貸し屋に全てをなすり付ける覚悟を決めたのだと。
全ては金貸しの独断。
バロランド家はただの被害者に過ぎない。
今からサブリナが言う言葉を、私はありありと想像できた。
それをあの金貸し屋は許さないだろう。
そして、これ以降不正も行えなくなるが、しかしこれが今できる最大の行動。
「ふざけるな! お前が私にあの金貸しに名前を貸すと言ってきたのだろうが!」
けれど、それをバロランド伯爵家当主一人が理解できていなかった。
助け船を出したはずの人間の想定外の裏切りに固まるサブリナに、バロランド伯爵家当主は詰め寄る。
「貴様、私を切り捨てようとしてもそうは……」
「急にどうしましたか、バロランド伯爵家当主?」
「し、シーリャ様これは……」
自分で墓穴を掘り、口ごもったバロランド伯爵家当主に私は微笑む。
「先ほどとお話が違いますわね」
「……それは」
「そしてもう一つ。私は兄から、雪狼騎士団にサブリナ嬢をと望まれたのはバロランド伯爵家当主の強い希望だったと聞いたのですが、それも間違いであったのでしょうか?」
もちろん、そんなことがある訳がない。
しかし、自分でサブリナの勝手だと告げたバロランド伯爵家当主は何も言うことができず、何も言うことができない。
そんなバロランド伯爵家当主に、私は微笑む。
「それと、今バロランド伯爵家には、雪狼騎士団が預かった金銭を許可なく金貸しに流している疑惑があります」
私の言葉に、サブリナの顔色が変わる。
とっさにサブリナが父を押し退け前に出ようとするが、遅かった。
「どうして、それを」
バロランド伯爵家当主が告げた言葉は、私の言葉を認めるものだった。
そして、それを聞き出すまでが私の仕事だった。
「もう言葉は要りませんね。セドリック」
「はっ!」
私が手を鳴らすと、その場に雪狼騎士団の副団長セドリックが姿を現す。
何が起きても大丈夫なように最初から控えてくれていた彼に、私は命令する。
「兄に連絡を」
「かしこまりました」
それを最後に、私はバロランド伯爵家当主の方へと振り返る。
「数日中に、兄からバロランド伯爵家の調査に入ります。よろしくお願いいたしますね」
そう告げた私に、もはやバロランド伯爵家当主からも言葉はなかった。
その様子を見ながら、私は一瞬サブリナの方へと目をやる。
……この状況でありながら、私はサブリナに同情せずにはいられなかった。
だまし討ちでバロランド伯爵家当主を引きずり出したのは私だが、もしこの場にきたのがサブリナだけだったら、バロランド伯爵家の調査を引き出すことは無理だったかもしれない。
そんな思いを胸に、私はその場に背を向けた。




