第三十七話
思わず固まった私に対し、バロランド伯爵家当主は止まらなかった。
「愚かな娘が本当に申し訳ありません! しかし、断言できます私は何も
しりませんでした!」
一切の躊躇もなくサブリナを切り捨てたバロランド伯爵家当主。
その姿に、私は自分の中で認識を切り替える。
……おそらく、バロランド伯爵家当主がサブリナを溺愛しているという話はないものとして考えた方が良さそうだと。
私に必死に懇願するバロランド伯爵家当主の姿を見て、私は確信する。
バロランド伯爵家当主は娘を犠牲にしてもなお、自分が生き残ることしか考えていないと。
……一瞬、そのことに私は動揺するが、すぐに切り替える。
「あら、そんな謝罪はいりませんのに! 私、ただお礼を言っているだけですのに!」
そうあえて、愛らしく笑って見せる私に対し、サブリナとバロランド伯爵家当主の顔は青ざめていく。
そんな二人に、かまわず私は続ける。
「全てを知っている、そう仰ったということは、私がこの場所に呼び出された理由もご存じですよね、バロランド伯爵家当主」
私の言葉に、バロランド伯爵家当主の目が一瞬泳ぐ。
「……いえ、私は」
「サブリナ嬢には、不正について聞きたいからバロランド伯爵家当主を呼び出せと言いました。それを聞いていないとは言いませんよね?」
笑顔で、けれど確実に逃げ道をつぶした私に、バロランド伯爵家当主が固まる。
しかし、すぐにバロランド伯爵家当主はその口元にいびつな笑みを浮かべ、口を開いた。
「ごまかそうとするなど、とんでもない! 私は何も分からないのですよ!」
「それは本当に?」
「ええ、誓って言えます! 私は今の今まで、不正の話を聞いたことはありませんでした!」
私を真っ直ぐ見つめながら、そう断言するバロランド伯爵家当主。
次の瞬間、その目は娘の方へと向いた。
「……ただ、娘の行動については私も知りませんでした。雪狼騎士団の事務方にいきたい、そういい始めた時から娘は私の手から離れていました」
「全ては、サブリナ嬢の独断であったと!」
「はい! い、いえ、私は娘が不正などしていないことを信じています。ただ、娘の行動を全て把握できていなかったのは事実です」
とってつけたように娘をかばうバロランド伯爵家当主の言動をあえて無視し、私は続けて問いかける。
「即ち、サブリナ嬢が不正を行っていても、貴方には理解するすべがなかったのですね」
「はい!」
「お、お父様!」
「うるさい! お前は黙っていろ!」
思わず声を上げたサブリナに対し、バロランド伯爵家当主はそう叫び、私に続ける。
「……少なくとも、父として娘は何か不正に手を染めていないと信じております。ただ、私は娘が不正をしていても一切関わっておりません」
「そうですか」
サブリナを黙らせ、そう得意げに笑うバロランド伯爵家当主。
彼は気づいていないだろう。
サブリナが必死で声を上げた理由、それは自分の保身の為ではない。
私がバロランド伯爵家当主の失言を待っていることに気づき、父のうかつな言動を制止するためだったことを。
「──でしたら、バロランド伯爵家が後見をしているあの金貸し屋も、サブリナ嬢の独断ということでよろしいでしょうか」




