第三十三話
きゃあきゃあと、私シーリャ、改めシルドアをもてはやす令嬢達の声が響く。
……しかし、その声を聞いても私の心にあるのは冷めた感情だけだった。
「いえ、そんなことあり得ないわ。高位令嬢がこんなところにくるわけないわ」
呆然とした様子で必死に混乱を抑えようとするサブリナの姿が目に入る。
それをみながらも、私の心に勝ち誇った感情もなにもなかった。
何せ、私がサブリナをこうして圧倒できた理由は一つ。
──ただの知識の差なのだから。
思い出す。
初日にこの書類を見たとき、伯爵家の経理を処理する書類に使った計算式が使えるのでは、そう思ったことを。
最初の二日間、私はその証明に時間をかけ、三日目から一気に今まで自分が使ってきた計算式を使って、すべての書類を終わらせていった。
伯爵家の経理で私が使ってきていたのは、最新にして様々な文官達がブラッシュアップしてきた知識だ。
その知識は本来高位貴族の当主や文官にしか伝わっていない。
そんな知識を使って書類を片づけていたからこそ、私には理解できていた。
……それも使わず、ここまでの環境を作り上げたサブリナという人間の異常さが。
今ならわかる。
兄様が、そしてお父様がこの事務方に介入できなかった原因はバロランド家が理由じゃない。
サブリナが理由なのだと。
「……この能力を正しく使っておけば、私が来るまでもなかったのに」
そして、どれだけその能力の主が尊敬できる能力を持っていても、それで私が手心を加えることはない。
もう、すでにその段階は越えているのだから。
故に、私はあえて淡々とした声を上げる。
「一つよろしいでしょうか、サブリナ様」
未だ衝撃から戻らないサブリナへと私は目を向ける。
……今から、さらにサブリナを地獄に落とすことを理解しながら。
「この書類を見る限り、明らかに雪狼騎士団が預かった以上の金額を運用しておりますが、気のせいでしょうか」
「……っ!」
その瞬間、大きくサブリナの目が見開く。
サブリナは用心深かった。
私に渡された書類の中には、一切不正を匂わす書類も存在しなかったのだから。
だが、バーリナの書類の中身は別だった。
私のものとバーリナのものを比べれば、明らかに大きすぎる金額の流れがあった。
……といっても、バーリナと私の分の書類を完全に把握できている人間でなければわからなかったレベルの話だが。
「何を、言っているの?」
実際、私の言葉を聞きながら、サブリナの顔に浮かぶのは信じられないという唖然とした表情だった。
本当に心から思う。
もし、この人が味方であればよかったのに。
そう内心惜しく思いながら、けれどその内心を覆い隠し私は口を開く。
「さあ、それは貴女が一番理解しているでしょう? バロランド伯爵家当主と話をさせてください」
徐々に青ざめていくサブリナの顔を見ながら、私は宣言する。
「さもなくば、私は秘書としてハイド様に使いを出します」




