第二十八話 (サブリナ視点)
シルドア。
ハイド様がつれてきた平民の秘書、彼女が決してただの人間ではないことに私、サブリナ・バロランドは気づいていた。
……何せ、シルドアは明らかにいじめる為に渡した量の書類を、一日でこなしたのだから。
確かに、私はシルドアに渡した以上の量の書類をこなしている。
しかし、そんな私でも最初はそこまでの書類をこなすことはできなかった。
他の令嬢であれば、今もその量の書類をこなすことはできないだろう。
そんな書類をやり方も知らないまま、こなして見せる。
それは間違いなく異常だった。
もし、シルドアがただの平民であれば、私は事務方から追い出そうとしたかもしれない。
何せ、今事務方に要注意な人間を入れる訳にはいかないのだ。
それが理由で、ハイド様から派遣されてきた文官さえ、事務方に来ることを拒否した。
──それでも、あのシルドアという秘書だけは、事務方で思い知らせなければならなかった。
騎士団長秘書、騎士団長の婚約者の立場を意味することもある肩書き。
それは高位の騎士団になるほど、大きな意味を持つ。
故に、ずっと私はハイド様の秘書の立場を狙っていた。
今の事務方も、その為の立場であると言っていい。
それを、あのシルドアという女は横から奪い去った。
……それだけは絶対に許す訳には行かなかった。
ハイド様、あの麗しい姿が私の頭によぎる。
私の人生は諦めの連続だった。
手に入ったものなど、何もないに等しい。
けれど、あのハイド様の隣だけは絶対に私は手に入れたかった。
その為に私は全てを捧げてきたし、これからも捧げる。
故に、あのシルドアという女だけは私がこの手で自ら秘書の立場から退かせる。
そう、たとえどんな手を使っても。
そして、私は知っていた。
どれだけ優秀な人間であれ、私以上のものはいないと。
私が真っ向から叩き潰しに行けば、勝てる令嬢などいる訳がない。
ましてや、幼少からの教育を受けていない平民が相手になる訳がない。
……だったら、これは何だ?
そう、呆然と見る私の目に入ってきたのは、淡々と仕事をこなすシルドアの姿。
その前には、大量の書類の束があった。
それも、それはもう仕事が終わった書類。
──そしてそれは、私が今こなしている書類よりも量が多かった。
あり得ない。
内心、私はそう呟く。
今はまだ、シルドアが事務方に来て四日目。
一日目から、シルドアはおかしかった。
明らかに昨日の書類を余裕を持ってこなしていた。
その時はまだ、危惧した私が書類を増やせば、シルドアもつらそうな様子を見せていた。
しかし、二日目からは明らかに余裕が出てきていた。
どれだけ書類を増やしてもシルドアの顔色が変わることはなく。
……たった四日で私は、シルドアに抜かれたのだ。
今になって私は理解していた。
私は目の前の少女、シルドアのことを見誤っていたことを。
私はシルドアを事務方に招くべきではなかったのではないか、私の頭に浮かぶのはあまりにも遅い考えだった。




