第二十二話
それから、私達はサブリナに案内されて、すぐに場所を移した。
そんな中、私の頭に浮かぶのはサブリナ令嬢に対する噂だった。
サブリナ・ブロランド。
容姿端麗にして、頭も切れる才女。
その能力は、かのフランシスコ家の至宝シーリャに劣らないと。
……その上で、気になる噂も私は聞いたことがあった。
サブリナは敵には一切容赦をしない人間である、という黒い噂。
「つきましたわ」
サブリナがそう告げたのは、私が思考から戻ったその時だった。
顔を上げると、そこにあったのは騎士団から離れ、辺境の城内に作られた一室だった。
「では、セドリック様はここまでで宜しいでしょうか」
……サブリナが私と共に来たセドリック様に告げたのは、その時だった。
その言葉に、私は驚きを隠さない。
先ほど、サブリナは兄様と私の保護にセドリックをつけることを許可したはずだった。
兄様はフランシスコ家次期当主にして、雪狼騎士団団長。
その発言を無視できる程の力を、ブロランド伯爵家は持っているのか。
「サブリナ嬢、お話が違います」
思わず固まる私をよそに、セドリックが私を守るかのように前に出る。
「私がシルドア嬢のサポートに回ることが条件だったはずです」
「ええ、その通りね」
しかし、セドリックにサブリナが自身の言葉を改めることはなかった。
自信に満ちた表情を浮かべながら告げる。
「でもここは事務方、預かった多額の金額を管理する場所よ。ここには誰であれ、足を踏み込むことは許しません。そう、たとえ、副団長セドリック様でも」
セドリック様、そう言いながらサブリナの目に浮かぶのは隠す気のないあざけりだった。
「しかし……」
「あら、私を。ブロランド伯爵家を敵に回したいの?」
淡々とした言葉、それにセドリックが押し黙る。
その目は決して、引き下がろうとしている目ではなかった。
何とか、私を守るためにサブリナとの交渉の妥協点を探すまなざし。
それを見ながら、私の胸にはある思いがあった。
すなわち、ブロランド伯爵家はこう言い切れる程の存在なのかという思い。
「安心しなさい。私の目的はあくまで、この娘を教育することよ。悪いことはしないわ」
そう言いながら、私の手をとるサブリナ。
その瞬間、私ははっきりと理解した。
兄様が私に助けを求めた理由。
その目的を。
この場所に何かがある、と。
「しかし、このままでは団長になんと……」
「セドリック様」
その瞬間、私はあえて気弱な少女を演じて笑ってみせる。
「私から、セドリック様に頼んだとハイド様にはお伝えしてくれませんか?」
「……シルドア嬢?」
「大丈夫です! 私も、事務方で色々なことを学びたいです! それに、もし困ったことがあれば使いも出します」
「待ってください、シルドア嬢……」
「決まりね」
セドリックが言い掛けた言葉を、サブリナが強引に打ち切る。
そして、傲慢に笑って宣言した。
「この娘、シルドアは私が預かります。これはハイド様の許可も得た正式な決定。誰の文句も受け付けません」
私は不安を装い下を向きながら、決意する。
サブリナ・ブロランド。
そして、ブロランド伯爵家。
その驕りを粉々に打ち砕いてやると。
──このフランシスコ家には、次期当主ハイドを侮る人間などいらないのだから。




