第二十一話
本来、騎士団には事務はない。
なぜなら、ほとんどそれは文官の仕事だからだ。
しかし、特別に雪狼騎士団には事務というものが設立されていた。
その設立の経緯は数年前、様々な領地に雪狼騎士団が派遣され始めた時期。
商人が雪狼騎士団に、お金を管理することを願い出たことが由来だった。
当初、その保管は商人が他の町に行く際の一時的な保管にすぎなかった。
故に、兄様はフランシスコ家の傘下の貴族の令嬢達を、一時的な事務員として組織を作った。
だが、その保管は一時的なものとして終わらなかった。
なぜなら、雪狼騎士団の騎士は王国最強にして、不正もない。
何なら、自分達でお金を管理するより、雪狼騎士団にお金を預けた方がいい。
多くの商人達がそう考え始めたのだ。
その結果、当初傘下貴族令嬢の一時的な働き場所だったはずの雪狼騎士団事務に多額の金額が集まるようになった。
──私の目の前に立つのは、その騎士団事務方代表の令嬢だった。
サブリナの出現に、セドリックの顔が露骨にゆがむ。
兄様はそこまで露骨な反応はなかったが、明らかに空気が変わっていた。
「……サブリナ嬢、この場所は危険であまりくるべきではないと言っておいたはずだが」
「そうですね、でも私」
そこで、サブリナは兄様の方へと身体を近づける。
「それでも、ハイド様とお会いしたくて」
……胸がひきつる感覚が走る。
そんな感覚の中、私は一人の人間を思い出していた。
それはラドリーを奪っていった男爵令嬢、マリシア。
目の前のサブリナは、マリシアと同じだと私の勘がささやいていた。
私の思考に気づいたかのように、その時サブリナがゆっくりと私の方へと振り向く。
「ところで、この方は?」
──その目には、隠す気のない私への敵意があった。
「私の秘書、シルドアだ。家名はない」
「……そう、ハイド様の秘書は平民でしたの」
兄様が子爵令嬢ではなく、平民と紹介したことに私はあえて何も言わずその場に佇む。
サブリナの目に宿ったのはあざけりだった。
私への警戒が一気に和らぎ、代わりにあざけりが浮かぶ。
平民であれば、どうとでも対処できると言いたげに。
その瞳を私は真っ向から見返した。
「……っ」
その瞬間、はっきりとサブリナが私に向ける敵意が大きくなった。
その敵意を笑顔で覆い隠し、サブリナは兄様にすり寄る。
「ハイド様、私が彼女を事務方で教育しましょう」
その瞬間、空気が凍り付いた。
「待ってくださいサブリナ嬢、この子にそんな……」
「私、セドリック様とは話しておりませんわ」
そういいながら、サブリナは兄様に流し目を送る。
「この子の未来の為にも、私の元で教育を施すのは必要なことだと思うのですけども」
その言葉に一度目を閉じ、兄様は私に目を向けた。
「シルドア、君が決めるんだ。君はどうしたい?」
兄様の心配そうな目を、私は真っ向から見返す。
答えはもう決まっていた。
「はい。私は事務方で教育を受けたいです」
「……分かった」
顔をゆがめるセドリック。
覚悟を決めた表情を浮かべる兄様。
そして、にっこりと笑うサブリナ。
「サブリナ嬢、まだシルドアは何も知らない」
「まあ」
「故に、セドリックを側に置くことを条件に、事務方に預けることを許可する」
「承りましたわ」
そんな中、私の事務方への派遣が決定した。




