第二十話
その青年の言葉に、私は思わず目を見開く。
……騎士団には私が妹であるのを隠すのではなかったのだろうか。
しかし、兄様には一切の動揺もなかった。
ただ、やってきた男性に淡々と告げる。
「詮索は軍紀違反だぞ、セドリック」
「詮索も何も、今更俺が分からない訳がないでしょうに」
セドリック、そう呼ばれたその男はそう告げながら笑う。
私の頭の中、ある名前が浮かんだのはその時だった。
「……雪狼騎士団副団長、セドリック」
「へぇ」
私の言葉に、セドリックが面白そうに笑う。
「まさか、こんなご令嬢が俺のような粗野な平民を知っているとは」
「そんなことありませんわ」
そう言いながら、私は記憶を思い出す。
「貴重な身体魔術の使い手にして、兄様の右腕。知らないなど無礼なことはできませんわ」
そう言いながら、私は知っていた。
平民でありながら、貴族に対しても物怖じしないそんなセドリックを敵視する貴族がいることを。
しかし、私は目の前のセドリックを見ながら思う。
……私はこのセドリックという青年が嫌いではないと。
「面白い令嬢ですね、シーリャ様」
そして、その気持ちを抱いたのは私だけではなかったらしい。
楽しげに笑いながら、セドリックが口を開く。
「私の秘書、そう言ったはずだが?」
どこか面白くなさそうな兄様が顔を出したのは、その時だった。
そんな兄様を、楽しげな表情でセドリックがからかう。
「心の狭い男は嫌われますよ、団長」
「うるさい」
「前々から言ってるでしょうに。団長はもう少し、かわいげや愛嬌を学んだ方がいいって。そう、このセドリック様みたいに」
「は? 愛嬌? かわいげ? そんなもの、お前にある訳がないだろうが」
「ご自身の妹に俺が嫌われたからって、さげすむのはやめてもらっていいですか。これ、パワハラですよ」
「どの口が言っている」
言い合いを繰り広げる、セドリックと兄様。
その滅多に見ない兄様の姿に、私は思わず見入ってしまう。
「……こんな男、そんな風に見るべき男ではないよ、シーリャ」
私の視線に気づいた兄様はどこか不機嫌そうに告げる。
そんな兄様ににやにやとした笑みを浮かべながら、セドリックも口を開いた。
「俺は気に入りましたけどね、ご令嬢」
「……本当にお前を殺すか、私は今悩んでいる」
「はは。余裕のない男は嫌われますよ、団長」
そう笑いながら、しかし次の瞬間セドリックはその顔にまじめな表情を浮かべた。
「団長、気に入ったからこそ言いますが、俺はシーリャ様が秘書になることに反対します」
「……何故だ?」
「分かっているでしょうに」
セドリックの顔は笑顔だった。
けれど、その目だけは一切笑っていなくて。
「団長が事務方を牽制しようとしているのは分かります。ですが、このままだと事務の頭がシーリャ様をこのままには……」
「団長!」
騎士団の騎士が一人、あわてた様子で現れたのはその時だった。
セドリックが、少しいらだちを露わに口を開く。
「後でにしろ」
「ですが、サブリナ伯爵令嬢がこちらに……」
その瞬間、セドリックだけではなく兄様の顔がゆがむ。
騎士の後ろから、一人黒いドレスに身を包んだ令嬢が現れたのはその時だった。
「あら、お邪魔でしたかしら? ハイド様と事務方の打ち合わせをしたくて来たのですけども」
「……雪狼騎士団事務方、サブリナ嬢」
セドリックの口にした名前に、その令嬢はにっこりと笑った。




