第十九話
ずっと兄様と過ごしていた私はあることを知っている。
それは兄様は大げさで、過保護であることを。
何せ、兄様はずっと私のことをかわいいと言い続け、婚約者のラドリー相手さえ私を守ろうとする位なのだから。
だから今回も、兄様の悪い癖がでたと私は思い込んでいた。
天下の雪狼騎士団の騎士に向かって、獣と言い放つなんてと。
「か、かわいすぎる……! ど、どうかお名前を教えてください!」
「馬鹿下がれ! 俺がいく!」
「殺してやるぞ、お前!」
……故に、兄様の話より酷い現実の雪狼騎士団に私は混乱を隠すことができなかった。
ひしめき、周囲の騎士達を押しのけ、私に近寄ろうとする騎士の姿を、私は唖然と見ることしかできない。
「やべ、固まっているのもかわいい……」
「我慢できねえ! 俺があのお姫様を恋人に」
──空気が絶対零度に凍り付いたのは、その瞬間だった。
その冷気の発生源。
それはにっこりとほほえんだ兄様だった。
「随分楽しそうだな、貴様等」
今までどこかゆるんでいた空気が、その瞬間一気に引き締まる。
代わりに残ったのは、凍り付いたような空気。
そんな中、私は初めて目にした兄様の姿に、思わず目を見開く。
「訓練が足りなかったらしいな。それなら、私が直々に訓練を見てやるが?」
その言葉に口を開く騎士は一人と居なかった。
この場にいる全員が、必死に兄様に目を合わせないように目をそらす。
それを見て、兄様は深々とため息をついた。
「どいつもこいつも、先ほどまでの元気はどこにいったのだ」
そういいながら、兄様が私の腰に手を回す。
わずかに私に触れない距離感、けれど騎士達からは腰に手を当てているようにしか見えない中で、兄様は告げた。
「あと、このシーリャは私の秘書だ。良く覚えておけ」
ぴしり、と空気が凍る音がした。
そんな中、私はおかしさを隠すのに必死だった。
兄様が私を守る為に私の存在を恋人のように振る舞っているのは分かる。
だが、ここまでしなくてもいいのに。
笑いを押し殺す私に対し、兄様の顔に浮かぶのはどこか複雑そうな表情だった。
「……普通の令嬢であれば、こうすれば効果的なんだけどね」
「そうなんですか?」
「……いやいい」
「でも」
そこで私は少し笑いを漏らしながら告げる。
「今の兄様は、お父様みたいで素敵でした」
「……そうか」
私の言葉に、さらに兄様の顔が複雑な表情になる。
「おい、お前等何している! 早く持ち場に戻れ!」
聞き覚えのない声が響いたのは、その時だった。
「……やべ、副騎士団長だ!」
「飯抜きにされる前に戻るぞ!」
蜘蛛の子を散らすように騎士達が去っていき、後には声の主が残される。
「おや、珍しいお客様だ」
その後に残されたのは、金髪の細い目の優しげな顔の青年だった。
その青年は、私たちの方によってきて、小さく口を開く。
「……これが例の妹さんですか、団長」




