第十七話 新しい門出
「さて、準備はこんなところかしら」
鏡に映った自分、動きやすいパンツに身を包んだ私はそう呟く。
今はまだ婚約破棄から一週間。
まだ、学園は休学中でやめるかどうかも決めていない。
そんな中、今日私は兄様の騎士団の秘書として赴こうとしていた。
私の決断に、あの父上までもがもう少し休んで良いと言ってくれた。
しかし、私は父上に気遣いを断った。
「私にゆっくりするなど似合わないもの」
いくら婚約破棄されたからといって、めそめそするのはもう十分だ。
それは婚約破棄初日に沢山した。
「……ちょっとお兄さまには甘めすぎた気はするけど」
ばつの悪さに頬を染めながら、私はそう呟く。
そしてお兄さまだけではない。
お父様、そしてアズドリア家伯爵家からも私に謝り、気遣う手紙を貰った。
ラドリーを制するべきは、そしてできたのは隣にいた私。
アズドリア家は本当は被害者のようなものなのに、彼らからそれを責める気持ちは一切書いていなかった。
「こんな状況で休めるほど私は図太くないし」
そう言いながら、私は自分の元婚約者であるラドリーへと想いを馳せる。
今や平民に落とされたと聞いたラドリーについて。
その責任の全てが私にあるなど、私は考えていない。
ラドリーが犯した罪はラドリーのもので、私が背負えるものではないのだから。
でも、最後にはラドリーが抵抗することなく平民になったと聞いて私には思うところがない、とはいえなかった。
「……私も頑張らないと」
もう、ラドリーを家族だといえないのかもしれない。
しかし、それでもかつて共に歩いていた彼が新しい道を歩むと言うならば、自分だけ足を止めている暇はなかった。
「それに、私にはしたいことがあるもの」
そう言いながら、私が思い出すのはラドリーの真実の愛という発言。
それが何を示しているのか、今でも私には理解できない。
ただ、一つ思うところはあった。
もし、真実の愛を一途に想いを寄せる愛のことだと言うならば。
真摯に私のことを思ってくれている家族、それもまた真実の愛と言っていいのではないだろうかと。
「シーリャ、準備はできたかい?」
兄様の声が扉の外から響いたのは、そのときだった。
その言葉に、私はほほえみながら扉を開ける。
「はい、兄様」
「うん、動きやすい格好をしているね」
私の格好を目にした兄様はほほえみながら告げる。
「それによく似合っている」
「ありがとうございます」
兄様の言葉に、私はほほえみながら返す。
同時に思う。
……いつものように感じて、今日の兄様はどこか解放されたように感じると。
「では、私の騎士団の詰め所に案内しよう。ただ、その前に一ついいかい?」
私が頷くと、兄様はどこか気まずげに続ける。
「実は私の騎士団についてなのだが、少々問題が起きている」
「兄様の騎士団が、ですか?」
「内々の問題だから、シーリャが知らないのも当然だ。……実は秘書に誘ったのは、シーリャの力を借りたいからなんだ」
「私の力を、ですか?」
そう言いながら、私は自然と笑っていた。
改めて思う。
私は自分のことを大事にしてくれる家族の愛、それこそが真実の愛だと思う。
そして、私もまたそんな愛を向けてくれる家族を大事にしたいと思う。
「頼めるかい、シーリャ」
「はい。兄様の頼みなら、いくらでも」
自分がこの先どうなるのかは分からない。
ただ、今は家族の為に全てを尽くそう。
「ありがとう、シーリャ」
兄様にエスコートされ、私は屋敷を出る。
そして、目の前に止まっている騎士団行きの馬車へと足を向けた。
新章に入ったこともあり、本日二話投稿にさせていただきます!




