第十五話 (バランド視点)
「そうだな、考えておかねばなるまい」
アズドリア家はフランシスコ家、傘下の貴族だ。
その不始末は、当主と次期当主で決めるべきだ。
だが、その結論はもうでていた。
「ただ、ラドリーのことはアズドリア家が何とかする。お前も理解しているだろう、ハイド」
そう、今回に関しては私達フランシスコ家が出る幕はない。
その事を既に私は、アズドリア家執事セオドアから告げられていた。
──アラン様がただいま対応しております。どうか、どうかラドリー様の事は当家に任せておいてくださいませんでしょうか。
「アズドリア家の執事には、措置が気にいらなければ強引に介入するとは言っておいた。だが、その可能性があろうと思うか?」
「……いえ、アランならば貴族籍位は剥奪するでしょう」
そう告げるハイドの顔に浮かぶのは苦虫を噛み潰したような表情だった。
「そうすれば、フランシスコ家だけではなく、他の貴族達もラドリーに手を出せない。その上で、アズドリア家の忠義を評価するものもいるでしょう」
「そうだな。その状況下であれば、多少ラドリーに手切れ金を多めに包んだところで、どの貴族も文句を言うまい」
アズドリア家当主、そしてラドリーの弟のアランを思い出す。
あの二人の頭の中にあったのは、この状況でどれだけアズドリア家を守りつつ、ラドリーに手を貸せるかという思考だろう。
その為にあえて重い沙汰を下し、その遺恨を残さないためという建前で支援する。
まさしく、貴族として申し分ない絶妙なバランス感覚。
そして、そこまでされれば私は手を出す気などなかった。
「……残念ですが、そうなれば当家から手を出すことはできませんもんね」
そして、それを理解していたのか、ハイドの顔に不満はなかった。
思うところがない訳ではないだろうが、最初からラドリーのことはハイドの話したい本題ではなかったのだろう。
「ならば、私達の話し合うべきはもう一人の処遇か」
「はい。ラドリーを唆したマリシアについて」
「……確かに放置はできないな」
そう言いながら、私は思い出す。
かつて、ハイドから妙な女がいたと報告された時を。
普段多くの女から言い寄られているハイドの報告に、私も気になってはいた。
「まさかラドリーにあそこまでつけ込むとはな」
しかし、現状に関しては私もさすがに想定外だった。
確かにラドリーは忍耐力、強さが足りていないところがあり、優秀なシーリャに追いつけないという劣等感を抱いていた。
それでも当主教育を受けた次期伯爵家当主なのだ。
そのラドリーをあそこまで考えなしにさせたマリシアという少女は、どこか異質な能力を持っていた。
「……今はどうなっている」
「マリシア本人は今回の件で男爵家に連れ戻されました。現在男爵家に接触をとっています。ただ、男爵家はマリシアを溺愛しており、引き渡すまでに時間はかかるかと」
「つまり、マリシアが戻るまでは何の対処もできないということか」
もちろん、ただで済ませる訳にはいかない。
ただ、それを理解している男爵家もごねようとはするだろう。
「ひとまず、男爵家の親しい貴族に接触を取れ。その周囲の反応を見ながら今後の対応を……」
「父上、よろしいでしょうか」
私の言葉を遮ったハイドに浮かぶ、気迫。
それを見て、私は反射的に理解する。
……今からが、ハイドが本当に私にしたい話だと。
「これからマリシアの引き渡しを命じますが、それまでの間にマリシアが何か手を出してくる可能性がないとは言えません」
「……そうだな」
「その間、シーリャに危害が及ぶ可能性があるのは見過ごせません。それを防ぐために」
「建前はいい。結論を言え」
わずかな緊張がハイドの顔に浮かぶ。
「シーリャに私と血のつながりがないと教える許可を」
ぴしりと、空気が凍った。
その瞬間、ハイドの顔から緊張がはがれおち、覚悟が見える。
「私がシーリャを隣で守ります」




