第十四話 (バランド視点)
「私はいつからここまで不器用になったのだろうな」
そう私、バランドが語りかけるのは一枚の絵画だった。
それはもうこの世にはいない妻の肖像画。
もう口を開くことはないその絵画の妻へと、私は話しかける。
「……私のしてきたことは娘、シーリャにとって正解だったのか」
これが意味のない思考である事くらい私は理解している。
そんな思考をしている位なら動くべきであると思うし、実際私は今までそうして動いてきた。
ただ、今娘が婚約破棄をしたことで少しだけ、迷っていた。
「アズドリア家の長男が弱いことは理解していたし、こうなることも理解していた。それでも、私はシーリャを止めなかった」
その決断の責任はシーリャにあり、親である私には介入することはできない。
そう知っていたから、私はあえて介入することはなかった。
しかし、それは本当に良かったのだろうか。
久しぶりに目にした娘の弱った姿に、私はそう自問自答し、しかしすぐに笑った。
「……戻っても同じ道を歩むのに、迷う素振りも意味はないか」
弱りながら、それでも立ち直りつつある娘の姿を思い出しながら、私は思う。
娘は私が思うよりもずっと強いと。
ただ、そう知りながら思ってしまう。
それでも、もっとうまくやる方法はなかったのかと。
娘の打ちのめされている姿を見たとき。
本当は今までの父の姿など投げ捨てて、娘を抱きしめてやりたかった。
「せめて私が話を聞いてやることができていれば」
「大丈夫です、間に合っています父上」
風情を台無しにする声が響いたのはその時だった。
次の瞬間、本棚がずれ隠し通路からハイドが姿を現す。
「……ノックぐらいしろ」
「意味がないでしょうに」
そう半笑いで、ハイドは防音の分厚い扉をたたいて見せる。
全く音のならない扉を。
その姿を見ながら、私は思う。
いつからハイドもこんな食えない青年に育ったのだろうかと。
「父上の教育のせいです」
心を読むなとばかりににらみつける私に、ハイドは肩をすくめて見せる。
本当に立派に次期当主になったものだ。
その姿にいらだちを覚えつつも、同時に私の心には安堵もあった。
立派に次期当主として、ハイドを育てきったという。
「間に合っている割に、シーリャが婚約破棄を真っ先に相談してきたのは私だったな」
それはそれとして、やり返すが。
私の言葉に青筋を立てるハイドの姿に溜飲を下げた私は、改めて口を開く。
「で、私をこの部屋に呼んでまで密会を取り付けた理由は何だハイド」
そう聞きながら、私は大体の用件が理解できていた。
「父上に一つお願いがあるのと、今後について話し合わねばと思いまして」
「……今後か」
「はい。今回の婚約破棄の後始末。ラドリーの今後について」
にっこりと笑うハイド。
しかし、その笑みが激情を覆い隠しているにすぎない事を私は知っていた。




