第十一話 (ラドリー視点)
「ラドリー、お前は自分が何をしたのか理解できているのか?」
抑え切れない怒りが漏れた声。
いつになく厳しい表情の父を見ながら、僕の心にあったのは疑問だった。
なぜ、こうなったのだろうか、という。
数時間前、マリシアに想いを伝えたその瞬間は今も僕の中に残っている。
それは幸せな瞬間だった。
ずっと思っていた事をとうとう伝えられた。
……その想いが残っているが故に、今の僕は地獄にいるような気分だった。
こうして家族に囲まれて怒られるのは一体どれくらいぶりか。
その事に対する恐怖は胸の中にある。
しかし、それ以上に僕の胸にあふれるのは怒りだった。
「なぜ、僕はこんな目に遭わなければならないのですか」
そう、僕はとうとう自分の思いを達成できたはずだった。
シーリャに気持ちを伝えることもできず、必死に迷った日々。
それは僕の中に今も残っている。
それでも何とか気持ちを伝えられたのにも関わらず、どうして祝うべき家族からこんな目に遭わないといけないのか。
「……お前は自分が当主を失う事も理解できていないのか」
「そんなこと関係ありません! 真実の愛を見つけた僕には覚悟がある! たとえ、当主の立場を失っても僕はマリシアを……」
ばちん、という音と共に頬に衝撃が走る。
父に殴られた、と気づいた時、僕の中から怒りは消えていた。
初めて父に殴られた。
衝撃に固まる僕に、父は叫ぶ。
「お前は、どうして。お前が当主になるためにどれだけの人が、あの方が」
それは血を吐くような怒りの叫びだった。
こんな父は初めてだった。
何も言えなくなった僕に、父は哀願するような声で告げた。
「どうしてだラドリー。……どうして貴様は、シーリャ様の恩情に応えようとしなかった」
「違う!」
瞬間、僕は叫んでいた。
全員が、全員僕にそう叫ぶ。
全て、シーリャのお陰だと。
そうでなければ、僕の今の立場はなかったと。
シーリャの恩情に僕は応えるべきだと。
──そんなことありません、全てラドリー様の頑張りです。
そんな僕を唯一見てくれたのがマリシアだった。
ずっと、僕の頑張りを見てくれていた女性。
彼女との未来を得るために、僕は叫ぶ。
「シーリャが何だ! 僕を見てくれたのはマリシアだけ」
ぱちん、と僕の頬をはたく音が響いた。
「黙りなさい。ラドリー・アズドリア」
僕の頬を張ったのは、涙を一筋流した母だった。
「これ以上その方を、我が家の恩人シーリャ様を愚弄するのは私が許しません」




