第十話 (ハイド視点)
「……本当によくやってくれたよ。ラドリー・アズドリア」
シーリャを部屋まで送った直後。
私、ハイドが怒りを隠せていたのは、その時までだった。
「ああ、本当に無邪気な発言だよ。真実の愛? 何とも楽しげな発言だ」
まるで、無邪気な子供のような発言だ。
「貴族としてしていい発言ではないと理解できないのか」
そう言いながら、私は理解していた。
ラドリーを許せないのは正義感でも、妹を傷つけられたという義憤だけではない。
大きく私怨が関わっている事を。
「私の愛する人を泣かしたな、ラドリー」
必死に隠してきた恋心。
それを告げながら、私の頭に蘇るのは過去の出来事。
かつて、父上がシーリャに婚約者をつけると宣言した日だった。
──お前が義理の兄であると明かすのは許さない。
当時、父上に言われた言葉を私ははっきりと覚えている。
その時は父上に怒りを抱き、恨みもした。
ただ、今は分かる。
あの時、父の言葉を守っていて良かったと。
確かにあの時の私は冷静さを欠いていた。
だから、私はその後シーリャの婚約者に私情を向けるのはやめた。
ただ、義理の妹の幸せだけを考え、自分の気持ちを押し殺すと決めた。
少なくともラドリーはシーリャがどれだけ尽くしてくれているのか、理解できていると思ったからこそ。
故にラドリーが伯爵家の当主には向かない、そう知ってもなお私はシーリャの味方をしてきた。
「なあ、ラドリー」
だが、今私は理解する。
その私の考えは大きな間違いだった事を。
ラドリーに、そんな情けは不要だったと。
「お前はどれだけの人間を裏切ったのか理解してるのか?」
伯爵家を、弟を、父上を、そしてシーリャを。
ラドリーを伯爵家当主にする為にあがいてきた全てを裏切ったラドリーへと、私は口を開く。
その責任にさえ気づいていないだろう、ラドリーへと。
「ラドリー、お前を私は絶対に許さない」
シーリャは望まないだろう。
しかし、それでも許す訳にはいかない。
同時に私は決める。
シーリャを幸せにする覚悟を。
「さて、今度こそ父上には認めて貰わないとな」
そう言いながら、私は笑う。
父上がいやがるような獰猛な笑みを。
「今度こそ、私がシーリャへ想いを伝える」
それでシーリャに認められるかも、その結果がどうなるかも私には分からない。
シーリャと今までと同じ関係でいられないようになるかもしれない。
父上の言う通り、本来ならばこれは言うべきではない言葉なのかもしれない。
それでももう、こうしてシーリャが泣く姿をただ見ているだけなのはいやだった。
だから、私は決める。
「私がシーリャを幸せにする」
自分がシーリャに手を伸ばすと。
今度こそ自分の為ではなく、シーリャを守る為に。
「さて、まずは父上に了承を貰うか」
そう告げた私の足に、迷いは存在しなかった。
明日から一日一話投稿になります。
また、次回からラドリー視点です!
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