第九話
お兄さまに部屋まで送って貰ったしばらく後。
私は自分の部屋の中、くつろげる格好に着替えてベッドの上にいた。
「……私、思っていたよりもずっと子供だったのね」
今になって理解できる。
ラドリーは当主になれる、その私の判断は誤りだった。
……私は情で、ラドリーの能力を見誤っていた。
才覚が一切ないとは言わない。
父上もそう判断したから、今まで強引に婚約破棄をすることは無かったのだろう。
──ただ、ラドリーには圧倒的に覚悟がなかった。
私がラドリーを伯爵家当主にすると決めたような。
兄様がフランシスコ家を守る為に奮闘するような。
ラドリーの弟であるアランが、ラドリーに伯爵家当主を譲ると決めたような。
その責任に、最後までラドリーは気づかなかった。
だから、マリシアの甘言にラドリーは墜ちた。
何の責任も伴っていない、真実の愛などという言葉で今までの責任を投げた。
……そして、私はラドリーに覚悟がないことに気づいていた。
確かに、ラドリーは私が悪く言われている時に、後で謝ってくれた。
それはラドリーの優しさだ。
けれど、悪口を言う相手に直接言葉を改めさせるような事はなかった。
その強さは全ての人間が持つべき強さではないかもしれない。
しかし、伯爵家当主には必要で、それを知りながら私はラドリーに求められなかった。
「私にもラドリーにも、この婚約は向いて無かったのね」
ラドリーへの未練、無念。
裏切られたことへの、傷。
その全てが私の中で、消化されていく。
「……ただ」
──僕は真実の愛、というものに目覚めてしまったんだ。
「強さがない限り、真実の愛なんて見つからないとは思うけど」
そう言いながら、私の頭に浮かぶのはお父様と兄様だった。
厳しく、けれどずっと私の事を見てくれているバランドお父様。
そして、フランシスコ家という圧倒的な重圧を背負いながら、しかしそれを私に見せもしないハイド兄様。
その二人からの愛情を受けて、私は思う。
もし、真実の愛というものがあるのなら、これこそがそうなのだろうと。
運命や、王子様などという程刹那的ではなく、けれど常に心の支えになってくれるような大きな愛情。
将来、また婚約者ができるとするならば、そんな愛を注いでくれる人がいい。
「……もし」
その瞬間、ふとした考えが私の頭に浮かんだ。
「兄様と結婚したら、私は幸せになれるのかしら?」
そこまで考えて、私は思わず笑ってしまう。
なんて意味のない仮定だと。
血の繋がりがある私達が結婚することもなければ、血が繋がっていなければ兄様のような美しい人が私にこんなに優しいわけがないのだから。
騎士団の秘書の話のせいか、何とも余計な事を考えてしまったようだ。
「あら、こんな時間。……もう寝ないと」
そう、眠る私に未来への不安は残っていなかった。




