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AIと一緒に異世界で薬膳喫茶をオープンしてみました  作者: 西坂さそり


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第25話「一つ目小僧」

≪前回のあらすじ≫

 市政庁でゲンラートの死亡届と遺産継承の完了通知を受け取ったハルヤは、正式に家と店を受け継ぐ。その後、新たな香草や内職の材料を手に入れ、喫茶店の開店準備を進めていく。

 そして窓の取り付け工事の日の朝、店を訪れたハルヤの前に思いもよらぬ人物が姿を現す――


 「ひっ、一つ目小僧――ッ!!???」


 驚きと共にそう叫んだ時、ドアノブから手を離したために、後ろでバタンッと扉が閉まる音がした。

 閉まったことで店内は暗くなったが、俺はそれどころじゃなかった。



 「誰が一つ目小僧だ……」


 俺が叫んだ言葉に気を悪くしてしまったのか、大きな一つの目をギラリと細めてこちらをにらみつけ、低い、腹の底へ響くような、地を這う声でそう返される。


「ひぃっ! す、すみません!!」


 あまりの怖さに反射的に頭を下げていた。


 いや、マジで怖い!

 それに、こんなところで妖怪に出くわすなんて思わないだろ!


 沈黙が流れ、「もしかして、いなくなったか……?」と、そろ〜と顔を上げる。


 まだいた!!


 だけど、思っていた様子と違い、思わず首を傾げる。

 一つ目さんは、俺には興味がないように、静かに周囲を見渡していた。



「……ここぁ、どこだ」


 独り言なのか、俺への問いなのか、判別できないくらい小さな声で、訛りのある言葉だった。


「あ……えっと……」


 答えるべきか迷うが、黙っていても埒が明かない。

 そのうち、エーヴァルトさんたちも来てしまう。

 恐怖心からか、喉がからからになる。

 俺はどうにか、声を絞り出す。


「ヴァルリディア王国の……王都、ユスティリアです」


 周りを見ていた男の視線が俺に向く。

 その視線だけで、続きを話せと言われた気がした。


「えっと……職人街にある……炉端亭です」


「……」


 沈黙は変わらないが、一つ目さんの目がわずかに揺れた、気がした。

 ……一つ目さんって呼ぶの、なんか変かな……。

 ……こんな時に何考えてるんだ、俺。



「炉端亭……」


 不意に、ぽつり、と一つ目さんが呟く。が、その次に聞こえた言葉にギクリ、と体が硬直する。


「…………ゲンラート」


「え……?」


 今、確かに、この人は、ゲンラートさんの名前を言った。


 胸がどくりと鳴る。


 どうして。


 この人が……



 ゲンラートさんを知ってる?




 その時だった。


「――――!」


 外から大きな声が聞こえてきた。

 内容は分からなかったけど、あの声はハーゲンさんだ。

 まだ少し離れているけど、この調子ならすぐ店へ来る。


 ――まずい!


 理由は分からない。

 でも、この人を今ここで他の人に見せちゃいけない。


 そんな気がした。




「こ、こっち!」


 俺は咄嗟に男が羽織っているマントの端を掴み、店の奥へと引っ張る。

 本当は腕を掴みたかったけど、マントで隠れた腕を掴むことが出来なかった。


「来て!」


 初対面だし、一つ目小僧って叫んじゃったし、マントを引っ張るっていう失礼なことをしている自覚があるが、焦りもあって気にしていられなかった。

 当然、すんなり動いてくれるはずもなく、男が眉をひそめる。


「離せ」


 低く唸るような声。

 腕を振り払われるが、払った時にマントから出た腕を何とか掴む。


「ッ!……頼む……!」


 思わず叫ぶ。


「今だけだから!」


 そう言うと、男は一瞬だけちらりと外の方へ目を向ける。

 近付いてくる複数の足音。

 それから俺の顔を見る。


 数秒の沈黙のあと、小さく息を吐き、俺が掴んでいる腕の力を抜いたのが分かる。


「……こっち!」


 俺は腕を引いたまま店の奥へ走る。

 向かうは左奥の扉。

 トイレの扉だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃないと、走りやすい店の中にある扉を目指す。


 その途中、『ハル……?』と、頭の中でエルの声が響いた。

 でも返事をする余裕なんてない。

 扉の前へ辿り着き、


 コンコンコン。


 ノックを三回。


『ハルッ!? それは――』


 俺の行動が予測できたエルが珍しく慌てた声を上げる。

 でも俺は、もうドアノブへ手を掛けていた。


「接続」


『ダメです……!』


 ガチャリ――


 扉は静かに開いた。

 エルの制止は聞かなかった。




「入ってください!」


 『庭』へと入って振り返り叫ぶと、男は一瞬だけ中を見た。

 見たこともない、不思議な景色。

 一瞬、動かない男に躊躇しているのかと思って掴んでいる腕を引こうとする。けどその前に、男は何も言わず、一歩、中へと入る。

 俺はすぐに扉を閉めた。


「ご、ごめんエル!」


 そして振り返り、息を切らしたまま一言謝ったあと、エルに向かって叫ぶ。


「『庭』の時間を24倍にして!」


 エルは『庭』の中央にある大木の近くで、小さく眉を寄せていた。


 俺が『庭』に入ると、いつも笑顔で直ぐに近寄って迎え入れてくれていたエル。

 そんなエルのその顔を見るだけで、しまった、と思うが気付くのが遅かったのだろう。


「エル……?」


 恐る恐る名前を呼ぶと、エルは静かに息を吐く。

 エルの長い溜息なんて、初めてだ。

 なぜだか、すぐ近くにいるこの一つ目の男にすごまれた時よりも、恐怖心が生まれる。



『…………入れてしまったものは、仕方ありません』



 エルの静かな声。

 その声が、少しだけ呆れているようにも聞こえた。


『庭の時間を24倍に設定しました。これで外では、ほとんど時間は経ちません』


「……ありがとう」


 思わず肩の力が抜ける。


 よかった……


 俺はそこでようやく、まだ男の腕を掴んだままだったことに気付いた。


「あっ!」


 慌てて手を離し、謝る。


「す、すみません! その、勝手に連れてきてしまって……」


 けど、男は何も言わない。ただ黙って立っている。


 正直、気まずい……何か話さないと。


 そう思って顔を上げた瞬間、男の視線が中央の大木へ向けられていることに気付いた。


 大きな木に、柔らかな陽光。

 どこまでも青い空。

 そして囲むように立つ木々に、大きな木の周りに文房具や紙が並ぶ、奇妙な庭。


 その一つ目が、わずかに見開かれている。

 表情の変化はほとんどない。

 それでも、驚いているのが分かった。


 さっきまで暗い店内だったから気付かなかったけど、明るい光の下では男の髪は漆黒だった。


 俺は深呼吸を繰り返し、意を決して話しかける。


「改めまして……」


 男を見上げ、続ける。


「急にこんな場所へ連れてきてしまって、本当にすみません。俺は、ハルヤと言います」


 男はしばらく俺を見ていた。


 どうしよう? エルに『庭』の時間を早めてもらっているとは言え、ずっとここに居るわけにはいかないぞ……!?


 と、沈黙を貫く男に、内心焦りだした頃、男は短く答える。


「……イツァム」


 それだけだった。

 でも、それはおそらく名前だ。

 名前を教えてくれただけでも、正直、ほっとする。


「イツァムさん……」


 イツァムさんの名前を呼んでみるが、反応はない。

 名前だけでほっとしている場合じゃない、と自分を焚きつけて、口を開く。


「イツァムさんに、聞きたいことがあります」


 イツァムさんは無言だが、構わず続ける。


「あの、どうして、炉端亭にいたんですか? それに…… 」


 少し息を呑む。足がすくみそうな感覚に陥る。

 それでも、聞かないと――



「……どうして、ゲンラートさんを、知っているんですか?」


 風も吹かない『庭』の中では、声や音を立てなければ、静寂が広がる。

 この無音の時間が、つらい。

 いや、空間の音がないからこそ、自分の心音が響いているように感じて、嫌な汗が流れる。


 やがてイツァムさんが静かに口を開いた。


「……そんなことぉ、」


 一つ目が、一度ゆっくりと瞬きをする。

 瞼が開き、目が合った瞬間、ビクリと体が強張る。


「簡単にぃ話すと思うかぁ」


「……そう、ですよね」


 恐怖心を紛らわすように思わず視線を逸らす。

 当たり前だ。

 初対面で、しかも訳の分からない場所へ連れて来られて。

 そんな相手へ事情を話すはずがない。

 自嘲気味な笑みがこぼれる。


 再び沈黙が落ちる。

 でも、このままと言うわけにはいかない。

 だけど、俺には情報を聞き出す術が浮かばず困り果て、エルを見る。


「エル……」


 エルに近付き、助けを求めるように名前を呼ぶ。


「もし、この人が本当にゲンラートさんの孫なら……俺のことも、ちゃんと話したい」


 俺はここに来てすっかり、困った時には直ぐにエルに頼る癖がついてしまったみたいだ。


「でも、どうしたらいいか分からない」


 エルは目を閉じ、小さく息を吐いた。


『……ハル……大きな部屋にあるベッド、その枕を持ってきてください』


「え?」


『早く』


 そう言うと、『庭』の一角に新しい扉が現れる。

 俺は首を傾げながらも、その扉を開けた。


「えっと……これ?」


 部屋にあった枕代わりらしい大きなクッションを抱え、急いで戻る。

 『庭』へ戻ると、枕を取りに出る前よりも、ピリリと空気が張り詰めていた。

 エルは無表情だし、イツァムさんはさっきまでは無表情に近かったのに、凄い剣幕でエルを睨みつけている。

 互いを見据えたまま、一歩も動かない。


 な、何があったんだ……いったい。あんなわずかな時間で?

 枕を抱える手に力が入り、中の藁がこすれ、カサ……と音を立てる。


 俺が戻ってきたことに気付くと、エルだけがこちらを向いて微笑んだ。


『それを木の根元へ置いてください』


「ハ、ハイッ!」


 言われるまま枕を置く。

 するとすぐさま、木が淡く光り、枕が淡い光に包まれる。香草の成分や俺の体内の魔素量を調べてもらった時の、あの光だ。

 光は大木の根を伝うように地面に流れ、やがて静かに消えた。


 エルは真っ直ぐイツァムを見つめる。


 そして、いつもの分析結果を告げる時と全く同じ口調で言った。


『解析完了しました』


 そして続けた言葉は――




『その男性、イツァムは――ガルド=ゲンラートとの共有DNA割合24.8%』








『祖孫関係、99.9%以上です』



次回:第26話「新たな登録」  8月27日(木)20:30公開です|´-`)


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