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AIと一緒に異世界で薬膳喫茶をオープンしてみました  作者: 西坂さそり


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17/20

幕間「静かな波紋」

地の文をアーディン視点にしようとしたけど、難しい……。


 王太子府からの召喚がかかったのは、昼が過ぎ午後の訓練の盛りの頃だった。


 ――ヴァルリディア王国魔道騎士団。

 対魔導戦闘、高機動制圧、魔導犯罪対応を担う、王国でも実戦色の強い騎士団だ。

 その団長であるアーディン・カイアス・グレンフェルトは、重厚な扉の前で立ち止まった。

 王太子からの直々の呼び出しに、短く息を吐いた。


 内容はまだ不明。

 だが、王太子府長官である兄・セリオンが召喚を止めていない時点で、ただの雑務ではないことは分かる。


 アーディンは扉の脇に控えていた近衛騎士団員に取次ぎを頼み、入室許可を得ると静かに中へ入った。



「失礼します」


 入室した瞬間、彼は小さく目を細めた。


 ――またか。


 王太子エドワルド・オーレル・ヴァルリディアは、本来座るべき執務椅子ではなく、執務机の上に腰掛け、足を組んでいた。

 しかもアーディンを見るなり、破顔する。



「アーディン、来たか!」


 入室直後、明るい声が飛んだ。とてもではないが、次代国王の振る舞いではない。

 もっとも、この男がこうなのは今に始まった話ではなかった。


 アーディンは無言のまま、一瞬だけ視線を横へ流す。

 専用机に座る兄、セリオン・ルキウス・グレンフェルトは、諦めたように肩をすくめた。


 ――諦めろ、ということらしい。


「で、これこれ」


 エドワルドは机上へ置いてあった一枚の書面を手に取る。


 が、書面を持つ手がアーディンの方向には行かず、エドワルドの肩より向こう側で一度止まる。

 そのまま投げ渡そうとしたところで、エドワルドの行動を予想し、席を立っていたセリオンが静かに資料を取り上げた。



「殿下」


 柔らかな声。


「今、この資料をどうされるおつもりでしたか?」


 にこやかだった。

 だが、目がまったく笑っていない。


「あ、いや、その……ほら、アーディンなら取れるかなって……」


「騎士団長は犬ではありません」


「そんな言い方してないだろ!?」


 セリオンが小さく息を吐く。


「そもそも、執務用の書類は投げるものではありません」


「はい……」


 エドワルドが明後日の方向を向く。


「第一……」


 セリオンの目が、ス……と細められる。


「殿下が今投げようとなさったこの紙は、国の宝である国民たちが時間と労力をかけて作り上げた物です。粗末に扱っていいものではありません」


「!! すまない!」


 エドワルドが机上から飛び降り、頭を下げる。

 が、今度は「王族が簡単に頭を下げるものではありません」と、ピシャリとセリオンが指摘する。

 これが、王太子府設立当初から十六年続いている光景だった。


 当時十五歳だったエドワルドを支えるために集められた側近達。

 その中心にいた兄は、今日までずっとこんな調子なのだろう。


 アーディンは内心で兄へ小さく同情した。



「騎士団長」


 セリオンはアーディンの方へ向き直り、改めて書面を手渡した。


「今回の任務について説明します」


 アーディンは受け取った書面へ目を落とし、内容を確認する。

 そこには観測日時、場所、魔素波形の簡易記録が記されていた。


「昨日、王立魔導研究所の魔素感知器に大規模反応がありました。通常観測される範囲を大きく超えています」


「規模は」


「転移魔法級。もしくは高位魔道具複数同時起動級です」



「最近は平和だからねぇ。だからこそ余計に目立つ」


 エドワルドが近付き、セリオンの隣に立つ。


「敵国、あるいはアルカディオラ大陸由来の魔法使いによる不法侵入の可能性を含め、調査を命じます」


 セリオンの指示を聞き、書面にざっと目を通すと、最後の短い但し書きに目が留まる。


 ――万が一、敵国勢力の侵入であれば、捉えよ。


 五年前の戦争。

 アーディンが団長就任へ至る契機となった、魔導戦力同士が激突した戦場の記憶はまだ新しい。

 魔法は便利な力だ。だが同時に、容易く人を殺せる力でもある。



「……先行して隠密を動かします」


 アーディンは短く言った。


「潜伏の有無を確認。その後、表向きの調査を行う」


「早いねぇ」


「時間を与える意味がありません」


 セリオンは頷いた。


「承認します」


 アーディンは一歩下がり、一礼した。

 当然、王太子への礼も忘れない。

 だが執務室を出る直前、後ろからエドワルドのぼやき声が聞こえた。


「俺が王太子で、命令出してる立場なんだけどなぁ……」


「でしたら日頃から王太子らしい言動をお取りください」


 扉が閉まる寸前、セリオンの静かな声が追ってきた。


 アーディンは小さく目を閉じる。


 ――いつものことだ。





 




 夕方、魔道騎士団本部、衆議の間に、招集を受けた団員たちが整列していた。

 空気は静かだ。

 アーディンは前へ立ち、簡潔に任務を説明した。


「昨日、王都内、第5エリア周辺にて大規模魔素反応が観測された」


 室内の空気が変わるが、ざわめきは起きない。

 ほとんどの団員が実戦経験者だからだ。


「隠密魔法適性持ちを二名選抜。先行調査を行う」


 隠密魔法の適性を持ち、なお且つ経験豊富な二人に、アーディンが視線だけで指名する。


「アルカディオラ大陸系魔法、及び他国魔導痕跡の確認を優先」


「「はっ」」


「他は過去に転移魔道具を購入した者を洗え。現在王都外へ出ている者も確認する」


 次々と指示が飛ぶ。


「俺は研究所へ向かう」


 アーディンが視線を横へ流す。


「ガレス、シオン、同行しろ」


「了解した」


 低く渋い声。第一側近、ガレス・ヴァン・ローディス。


「はいはい、団長殿」


 軽い調子で返すのは、第二側近シオン・ラエル・アルヴェインだった。


「シオン」


「分かってる。先方には連絡入れとくよ」


 シオンは魔導通信具を取り出し、慣れた手つきで研究所へ連絡を飛ばす。

 残る団員達へ、アーディンは最後に告げる。


「残りは通常訓練継続。以上だ」


 無駄な私語もなく、団員たちは即座に動き始めた。

 魔道騎士団は、そういう組織だった。







 王立魔道研究所――そこは、王城敷地内の端に存在する、国内最大規模の魔道研究施設。

 アーディンたちが到着すると、入口で待機していた職員が即座に頭を下げた。


「お待ちしておりました。所長室へどうぞ」


 現在、研究所と魔道騎士団の関係は良好だ。

 五年前の戦争時、研究所側が提供した魔導支援と、魔道騎士団側の現場判断が幾度も王国を救っている。

 互いに、“現場を理解している”という信頼があった。


 通された所長室では、壮年の研究所所長が資料を広げて待っていた。


「お忙しい中ありがとうございます、騎士団長」


「構わない。詳細を聞こう」


 机上へ広げられたのは、魔素波形記録だった。

 記録を見たアーディンは目を細める。


「……乱れが少ないな」


「ええ」


 所長が頷き、補足する。


「爆発的というより、“極めて安定した高出力反応”でした」


「……転移系っぽいね」


 横から波形記録を覗き込んだシオンが目を細める。


「可能性は高いかと。ただし、通常の王国式転移魔法とは波形が違います」


 所長の言葉に、今度はガレスが言葉を発する。


「アルカディオラ式とも違うのか?」


「ええ。少なくとも、研究所記録内には類似例がありません」


 ガレスが腕を組む。


「厄介だな」


「現地確認は?」


 アーディンが問う。


「行いましたが、痕跡は極めて薄い状態でした。まるで最初から残さないように処理されたような……」


「一瞬だけ開いて閉じた感じか」


「その見立てです」


 敵対魔法使いなら、もっと痕跡が残る。

 侵攻準備ならなおさらだ。

 現在確認できる波形と類似するものはなく、痕跡が残りやすい転移系にもかかわらず、それもない――



「……あるいは」


 異例な現象に、一つの可能性が頭をよぎる。



「“この世界の術式ではない”か――」



 アーディンが低く呟くと、一瞬、室内が静まった。

 所長は苦笑気味に肩をすくめる。


「学者としては否定したいところですが……現時点では、可能性を切り捨てられません」


 アーディンは資料を閉じた。


「十分だ。協力感謝する」


 資料を所長に返し、三人は研究所を後にした。








 翌日、魔道騎士団訓練場にアーディンの姿があった。

 訓練場に木剣の打ち合う音や、魔力制御訓練の光、怒号が飛び交う。

 魔道騎士団の日常だった。


 アーディンは自らも鍛錬を行いながら、団員たちの動きを確認していく。

 技量、疲労、癖――戦場では、小さな乱れが命取りになる。


 一通り指導を終え、訓練場端へ移動したところで、シオンが隣へやって来た。


「ようやく“待つ”こと覚えたんだな」


「……何の話だ」


「昔は部下に指示出しといて、自分が先に敵陣行ってただろ」


 シオンが笑う。


「報告戻ったら団長いないとか、何回あったと思ってる?」



 団長就任当初、アーディンは部下を待つという発想も実感も薄かった。

 結果、報告先を失った団員達が右往左往する事態が何度か起きている。

 それをガレスに何度叱られたか。

 その話を、当時シオンが魔道研究所所長にぼやき、その際に受け取ったのが、先日使用した魔導通信具だ。その時にアーディンも魔導通信具を受け取っていた――


 思い出したのか、シオンは肩を揺らしている。

 アーディンは否定できず、わずかに眉を寄せた。


「……必要だった」


「はいはい」


 その時、訓練場入口から二人の団員が現れる。

 先行調査へ出していた隠密担当だ。

 二人はアーディンの前で敬礼する。


「報告します。アルカディオラ系転移痕跡、及び他国魔法使い侵入痕跡、確認できませんでした」


 アーディンとシオンは視線を交わし、シオンが息を吐く。


「とりあえず侵入戦争系ではなさそうか」


 アーディンも小さく頷いた。


「ご苦労だった。本日と明日、休暇を与える」


 二人の顔が緩む。


「ありがとうございます!」


「ご苦労さま」


 最後にシオンが労いの言葉をかけると、二人は一礼して解散した。






 ――夕刻になり、調査へ出ていた団員たちが順次戻り始め、報告を受ける。


「不審人物は確認できませんでした」


「ただ……工房街の親方連中の反応が妙でした」


 報告役の一人の団員の言葉に、アーディンの片眉がピクリと動く。


「妙?」


「“魔法”や“魔道”という単語を出した途端、露骨に警戒されました。こちらが騎士団紋章を見せ本物と分かると態度は緩みましたが……」


「理由は話さなかったか」


「はい。“信用ならねぇ他国の人間が歩き回らねぇよう警備を増やせ”とだけ」


 シオンが肩をすくめた。


「まぁ職人街だからねぇ。親方連中は特に口が堅い」


 別の団員が続ける。


「他には、半年ほど閉まっていた酒場に人の出入りの情報を得ました」


「店主ではないのか?」


「分かりません。店主は一年ほど前、転移魔道具を購入していますが、酒場を出入りする人物が、店主かどうかは確認が取れていません」


 ガレスがアーディンを見る。


「……で、どうするんだ、団長」


 確認するような声に、アーディンは静かに答える。


「明日、俺とガレス、シオンで向かう――酒場名は」



「リートベルガー通りの、“炉端亭”です」







 翌日、緑の刻の果て()の頃――  (※ 午前9時半~10時)


 アーディンたちは、第5エリアの職人と庶民が行き交う中央通りに来ていた。

 護道救済ギルド裏の馬繋ぎ場へ馬を預け、三人は目的地へ向かう。

 やがて、『炉端亭』 の木製看板が見えると、シオンが顎をしゃくった。


「あそこだね」


 アーディンが先頭に立ち、扉の金具を鳴らす。

 ガレスとシオンは左右後方に控えている。


 少しして、扉が開く。

 現れた瞬間、アーディンは内心で目を細めた。


 ――黒髪。



 ヴァルリディア王国内……どころか、グランテラ大陸では極めて珍しい髪色だった。

 年若い男は、こちらを見て驚いたように目を瞬かせている。


 ――警戒に緊張……だが、武装経験者の反応ではない。



「突然すまない」


 できる限り圧を抑え、アーディンは名乗った。


「王国騎士団所属、アーディン・グレンフェルトだ」


 青年の肩が強張る。


「少し、調査へ協力願いたい」


「……調査?」



「三日ほど前の昼頃、この周辺で大規模な魔素反応が観測された」


 アーディンがそう伝えた、その瞬間。青年の呼吸が乱れた。

 分かりやすいほどに。


 だが、怯えているというより――追い詰められている反応に近い。



「え、えっと……その日、俺……離島から来たんです」


「離島?」


「……な、ナーヴァ漁村の……離れ島、です」


 言葉が少し詰まる。

 慣れていない。


「祖父が持っていた転移魔道具を使って……」


「祖父は?」


「……亡くなりました」



 罪悪感か、後悔か――いずれにしろ、何かを隠している人間特有の反応。


 だが――。


 アーディンは目の前の青年から、敵意も害意も感じなかった。

 もし本当に他国の工作員なら、もう少し訓練されている。


 何より――。


 職人街の連中が口を閉ざした理由は間違いなく、黒髪が理由だ。


 アーディンの中で全てが繋がり、短く頷く。




 ――嘘はある。 だが、少なくとも敵意も殺意もない。




「……協力感謝する」



 不器用なほど怯えている青年にそれだけ告げ、アーディンは踵を返した。

 だが去り際、一度だけ振り返る。

 青年はまだ扉から半身を出したままだった。



「建物から顔を出す際には気を付けろ」


「……え?」


「不用心だ」


 それだけ言い残し、三人はその場を後にした。






 

「……黒髪、だったね」


 馬繋ぎ場へ戻る道すがら、最初に口を開いたのはシオンだった。


「ああ」


「工房の親方連中、あいつに会ったか、見たことがあるんだろうな」


 アーディンは短く答え、ガレスも低く唸った。

 二人の視線がアーディンへ向く。


 ――どうする。


 無言の問いに、アーディンは短く息を吐く。


「警備を強化する」


「保護寄りか」


「誘拐防止だ」


 それだけで二人は理解した。


 黒髪は国内記録でも極端に少ない特徴。

 その希少性故か、あるいは別の理由か――

 奴隷として異常に人気が高いと耳にしたことがあるアーディンは、眉をひそめる。

 昔に比べ減ったとはいえ、いまだにエフルやドワーフ、獣人を狙う他国の奴隷商人が国内に潜む。捕まえても処罰しても、次の奴隷商がやってくる。いたちごっこだ――

 そんな奴隷商人や他国諜報が、万が一、黒髪の青年の存在を嗅ぎつければ、狙われる可能性が高い。




 三人は馬繋ぎ場を通り過ぎ、そのまま護道救済ギルド第5支部へ入った――



 三人の入室に気付き、室内がどよめく。

 だがアーディンが受付へ向かう頃には静まり返っていた。


「第五エリアの警備を強化してほしい。可能であれば今日からだ」


「は、はい!」


 受付担当が即座に頷く。

 必要事項だけを伝え、三人はそのまま支部を後にした。


 アーディンは馬へ跨がると、二人を見遣る。


「少し寄る」



 そう告げると、今度は第2エリアの護道救済ギルド本部へ向かった。

 本部内も多少ざわついたが、第5支部ほどではない。

 アーディンは同様に警備強化を要請する。


「対象は第5エリアが最優先。他は、第3エリア、第4エリア、第2エリア、及び外縁の第8エリアだ」


 受付担当が目を見開いた。


「正式要請は後日出す」


「……承知しました」


 それだけ伝え、三人は退出する。

 外へ出ると、アーディンは二人へ振り返った。


「騎士団は任せる」


「王太子府か」


「ああ」


 アーディンはガレスの言葉に短く返し、そのまま王太子府へ馬を走らせた。






 二日前に来たばかりの王太子執務室前にアーディンが立つ。

 近衛騎士へ面会希望を伝えれば、すぐ侍従経由で中へ報告が飛ぶ。

 返答は早かった。


『通せ』


 入室すると、先日とは違い、エドワルドはきちんと椅子へ座っていた。

 書簡に目を通している。

 ただし、隣に立つセリオンの視線が非常に鋭かった。

 おそらく、座らされたのだろう。


 アーディンが入室した瞬間、エドワルドが顔を上げる。


「一昨日の報告だよな!? よし、休憩だ!」


 エドワルドがそう発した途端に空気が崩れた。


「ヴィクトル! ワインボトルとゴブレット四客!」


 王太子付き侍従ヴィクトル・エルンハイムが苦笑する。

 だが、その前にセリオンが口を開いた。


「騎士団長は客ではありませんのでワインは不要です。報告も休憩中に聞くものではありません」


 セリオンはぴしゃりと言い切り、ヴィクトルは慣れた様子で一礼した。


「……では、ゴブレット三客と水差しもお持ちしますね」


 しれっと数を減らして退出する。


「ヴィクトルはいつまで経っても一緒に飲もうとしない……!」


 むくれる王太子。


 そんなエドワルドの様子に、アーディンとセリオンは視線を合わせ、どちらともなく小さくため息を吐いた。

 この王太子の問題点は、仕事は出来るが、臣下との距離が近過ぎることだった。

 が、常にそうかと言えばそうではなく、外部や公の場では正しい主従の距離感を持つ。

 出来るのに、側近しかいない場所では、王太子の顔を全くしないエドワルドに、長年セリオンは頭を悩ませている。


 しばらくして、ワインやゴブレットをトレイに載せたヴィクトルが戻ってくる。

 三客のゴブレットに少量のワインを注ぎ、それをたっぷりの水で割っていく。

 その様子を見たエドワルドはソファを指した。


「座れ。セリオン、お前も座れ 」


 アーディンに向かって命令をした後、続けてセリオンへも向ける。


「いえ、公式な報告の場でありますので」


「それはできません。私は殿下の臣下の一人に過ぎません」


 アーディンが断り、セリオンも続いた。

 二人の返答にエドワルドが顔をしかめる。


「おまえらグレンフェルト兄弟は硬すぎる! いいから座れ! 命令だ!」


 アーディンとセリオンは同時に小さく息を吐いた。

 そして揃って右腕を胸へ当てる。


「……承知しました」


 並ぶ動作まで揃っていた。


「だから硬いんだって……」


 エドワルドが不満そうに呟く。

 その様子を見ていたヴィクトルが、小さく苦笑していた。



「で、アーディン。報告を聞かせてくれ」


 2人の硬さは今に始まったことじゃないと諦め、エドワルドがそう切り出すと空気が変わる。


 アーディンは部下からの報告、研究所確認内容、そして炉端亭での接触内容を順に説明した。

 話し終えると同時にエドワルドが目を見開く。



「黒髪だと……!?」



 エドワルドが驚愕を露わにし立ち上がった。

 

 セリオンも珍しく眉を寄せていた。

 ヴィクトルですら静かに驚いている。


「国内で黒髪の記録が残っているのは……?」


 エドワルドの問いに、セリオンが即座に答える。


「九十年ほど前。先祖返りの少女が攫われ、そのまま行方知れずとなった事件が最後です。それ以前ですと、詳細は記録を確認する必要がありますが、200年程前だったかと思います――いずれにしろ、黒髪を持った人物が無事に国内で生涯を終えた記録を見た記憶がありません」



 その言葉に室内が静まった。

 国内では珍しい髪色では済まない。黒髪は、過去に“狙われた”前例がある――いや、むしろ狙われた記録しかない。いや、国内どころか他国でもそうだと情報がある――


 エドワルドは考え込むように顎へ指を当てた。


「護道には正式要請を出すと伝えたんだったな」


「ああ」


「なら早急に書簡を用意する。通達してくれ」


「承知した」


 さらにエドワルドはセリオンへ視線を向ける。


「他国人、特に魔法使いの入国審査を強化しろ。王都への入都確認も厳格化だ」


「承知いたしました」



 奴隷制度を持つ国は、今なお存在する。しかも魔法を使える人間が少ない国ならいざ知らず、魔法と豊富な魔素で文明が何百年も先を行くというアルカディオラ大陸の国にも、奴隷制度を持つ国が存在するというから始末に負えない。

 そして魔法使いによる転移は、国境という概念を容易く飛び越える。


 国民を“国の宝”と考えるヴァルリディア王国にとって、それは決して看過できない問題だった。


 エドワルドは軽い男ではない。


 誰よりも、その現実を知っている。


 だからこそ。


 アーディンも、セリオンも。


 即座に動き始めたのだった。




次回:第15話「形になるもの」  6月11日(木)20:30公開です…|ョ゜д゜*)


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