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AIと一緒に異世界で薬膳喫茶をオープンしてみました  作者: 西坂さそり


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第8話「知っていること」

≪前回のあらすじ≫

ゲンラートの死を知らされたハルヤは、悲しみの中に安堵を見出してしまった自分に吐き気を覚える。しかしそれでも、彼から託されたものの重みと向き合い、この世界で生きる決意を新たにする。そして次の一歩として、ある品の成分調査をエルに依頼した。


「……エル、今度は、これの成分とかを調べて欲しいんだけど、そういうことって出来る?」



そう頼んで、持ってきていた紙袋の中身をエルに見えるようにする。

中に入っているのは、昨日ヴォルクさんに案内してもらった香草を扱っているお店で購入したハーブや生薬だ。


もし、エルに成分を調べてもらうことができて、地球にあったのと同じようなら、薬膳茶や漢方茶に使える。


そう思って、サンプルを何種類か用意していた。



『はい、可能ですよ。ただ、成分を調べるために僅かな量で十分です。それぞれの少量を中央の大きな木の根元に置いてください。置き終わりましたら、成分解析を開始します。』



少しの量でいいのか……


「これくらい、か?」


根元近くに、少しずつ置き終わると、上半身を起こして全体を眺める。



先端を少し折って取った、軸付きのローズマリー。手折った時に広がった香りは、ローズマリーそのものだ。

同じように一枝を短くした、コモンタイム。

これもコモンタイム特有のスパイシーな香りが漂う。食後でなければ、空腹を誘われそうだ。


今度は千切ったりせず、そのまま一つずつ置いた、ローリエと丁子(クローブ)、そしてスライスされた乾姜(かんきょう)

その横に、茴香(フェンネル)を数粒と、ペパーミントの葉にイタリアンパセリを軸付きで葉1枚分を置いた。



買ったのはまだあるけど、とりあえず、マルダさんが使っていたやつを先に調べてもらおう。

成分が地球のと同じで、俺が知ってるやつなら良いけど、全く違うとなると覚え直す必要があるし、一度に全部は覚えきれない。

とりあえず、マルダさんが使っていた感じから、この辺りなら効能差がそう大きくないんじゃないかと思ってる。

まあ、ものは試しに。



「置き終わったよ。成分解析を頼めるか?」


『承知致しました。成分解析を実行しますので、少々お待ち下さい。』



エルが言い終わると、中央の大きな木が淡く光ったかと思うと、置いたハーブと生薬が同じような光に包まれ、地面に吸い込まれるように消えていった。




『――成分解析が完了しました。順にご説明致します。』




中央の大樹の幹に、淡い光の文字が浮かび上がる。

見たことのない言語と、なぜか理解できる内容。


「……すげぇ」


思わず呟くと、エルが微笑んだ。



『まずは、ローズマリーに酷似した香草――

この世界での名称は【ロスメル】。

学術名は《Rosmeria officinalis》です。』


幹に、細かな成分式のような光が流れる。


『芳香性揮発油を豊富に含み、血行促進、記憶力・集中力向上、消化機能の活性化に有効です。

体を温める性質があり、冷えや倦怠感の改善に適しています。

ただし、過剰摂取は神経の興奮を招く可能性があります。

また、魔素を多く含み、魔力欠乏症に有益な薬草とも知られています。1セルあたり、およそ965マギス含まれます。1セルはおよそ100g相当です。』



「……ほぼローズマリー、って思ったけど……魔素って何?魔素って……」



地球のと変わらない内容を聞いた時は、思わず笑みがこぼれたのに、魔素とか1セルとかマギスとか……

とにかく、地球にはない聞き慣れない言葉を聞くと、本当に地球とは全く違う世界なんだと思い知る。


俺が打ちひしがれていても、エルの説明は淡々と続いた。



『次に、タイムに酷似した香草――

【ティムラ】《Thymara vulgaris》。

強い抗菌作用と去痰作用を持ち、呼吸器系の不調に有効です。

体を温め、気の巡りを整える性質があります。

刺激が強いため、胃が弱っている際は量を控えるのが望ましいでしょう。

1セルあたり、およそ130マギス含まれます。


ローリエに酷似したものは【ラウレス】《Laurex nobilis》。

消化促進、胃腸の張りの軽減、鎮静作用を持ちます。

長時間の煮出しに向いていますが、葉をそのまま食すのは推奨されません。

1セルあたり、およそ0.18マギスです。』



ローズマリーに、タイムやローリエは、料理でもおなじみだし、日本でも育てている人が増えているし、知らない人はいないだろうと思っているハーブだ。


ただ、マギスっていうのがね……。


ローズマリーの時に魔素を多く含むって言ってたから、魔素っていうやつの単位かな?

そもそも、魔素が何物かが分からないけど、ローリエ……じゃなかった、ラウレスの0.18マギスって無いに等しいよな?

たしか、1セルは100g相当って言ってたはず……ローリエで100g分って、どんだけの量だよ?

料理に使うの、数枚だぞ!?



ん!?と疑問に思ってたら、エルはどんどん説明を続けていく。



『クローブに相当する香料は【クローヴァ】《Clavaria aromatica》。

強い殺菌作用、鎮痛作用、身体を深部から温める効果があります。

刺激が非常に強いため、少量使用が基本です。

1セルあたり、およそ200マギスです。


乾姜に相当する根茎は【ジンゼル】。

体を強く温め、血行促進、発汗作用を持ちます。

冷え性や寒邪に対して有効ですが、体力消耗時には過剰使用に注意が必要です。

1セルあたり、およそ381マギスです。


フェンネルに酷似した香草は【アネトラ】《Anethra dulcaria》。

消化促進、腹部膨満の緩和、腸内の巡りを整える作用があります。

甘い芳香を持ち、食後の茶としてよく用いられます。

1セルあたり、およそ165マギスです。』



「やっぱり、フェンネ…いや、アネトラはともかく、この二つは使いすぎに注意だな……」



まあ、茴香だから、もちろんアネトラも使い過ぎにきをつけなちゃいけないんだけどな。同じなら、妊娠中の女性には特にな。

それと嬉しいのが、クローヴァの効能が丁子と同じことだ。

これだと、虫歯や歯周病予防のチンキもいけそうだな。

ヴォルクさんの所でお世話になって、この世界でも歯磨きの習慣があるのは分かったけど、現代みたいに歯磨き粉があるわけじゃないから、口臭とかもちょっと気になってたんだよなぁ。




ここまで聞いて、思わず息を吐く。

地球とほぼ同じだ。マギスっていうやつ以外。

ただ、こうやって聞いていくと、最初のローズマリー……ええっと、ロスメル、だったっけ?

それが突出して、マギスの量が多いのはよく分かった。




『続いて、ペパーミントに酷似した葉は【ペルメンタ】《Mentaria glacialis》。

清涼作用、消化促進、鎮静作用を併せ持ちます。

過剰摂取は体を冷やし過ぎる可能性があります。

1セルあたり、およそ447マギスです。


イタリアンパセリに相当する香草は【セリナール】《Granthera virens dulcis》。

利尿作用、消化補助、口腔内の清浄効果があります。

常用可能ですが、妊娠中の大量摂取は推奨されません。

1セルあたり、およそ90マギスです。』




朝食のパンを思い出す。

あれはやっぱり、理にかなってたんだな。


あと、このパセリ……セリナールのやつの、アレだろ。「飾り程度ならOKだけど、バケツ一杯食べるのはNG」っていう、「普通そんな量食えねぇよ!」ってなる極端な話のやつだろ。

まあ、薬草や毒草あるあるだよな。



さて、これで頼んだやつ全部かな。


というか、最後に必ずマギスっていうやつを言うんだな。

こっちの世界だと、それだけ重要なのか?

浮かんだ疑問に思考を飛ばしていると、エルの声が耳に届いた。




『ーー総合評価として、これらは地球に存在した植物と成分構造の約九割が一致しています。

薬膳茶・調合茶としての応用は十分可能です。』




九割一致。

十分すぎる。

しかもその一致しないのって、大半がアレだろ。マギス含量。



「……つまり、俺の知識はそのまま使えるってことだよな?マギスってのが毎回出てきて気になったけど……」



『はい。配合比率を調整すれば、ほぼ同等の効果が期待できます。


マギスと言うのは、魔素を数値化した時の単位です。魔素とは、この世界で魔法を使用する上で必要なエネルギーとされています。』




エルの返答を聞き、胸の奥が少し軽くなる。

この世界でも、生きていける材料があると分かったから。

俺が“知っている”ことが、ちゃんと武器になる。

覚え直すとするなら、名称とか単位とか、身の回りのことかな……





……これ、かなり重要じゃないか?




あとアレも。何か、魔法とマギス含量とか、今まで無縁だったものもあるし……

しかもそれが、この世界で重要そうな感じだもんなあ。



「ありがとう、エル」


とりあえず、少しは気になってた事も知れたし、協力してくれたエルにお礼を言う。

すると、エルは嬉しそうに目を細めた。


『お役に立てて光栄です、ハル。』



エルの表情に、少しだけ気持ちがほぐれる。


そうだ、魔法って俺にも使えるかな?



「なあ、エル。一つ、聞きたいことがあるんだけど……」



『はい、何でしょうか?どうぞ、何でも聞いてください!』



エルは頼られるのが好きなのか、さっきお礼を言った時よりも嬉しそうだ。



「魔法、のことなんだけど……それって、俺にも使えたり、する?」



ドキドキしながら、エルの返答を待つ。

だって、魔法だよ?そりゃ、ドキドキもするだろ!



『ハルに魔法を使える素質があるかどうかは、現段階では不明です。お調べすることで、素質の有無を知ることは可能です。お調べしますか?』



え!そんな事も出来んの!?

エルって本当に万能だな!?


調べるかって?


そりゃもちろん、



「うん、調べてほしい!……あ、でもどうやって調べるんだ?」



登録証の時みたいに、血で検査は嫌だな。



『目の前の大きな木に、手のひらを付けるように、両手で触れて下さい。両手で触れている間に、ハルの体内マギス量をお調べします』



大木に両手ね……良かった、それだけでいいんだ……。



大木に手をついて、エルに声をかける。

すると、また木が淡く光って、今度は俺の身体全体も淡い光に包まれた。


「うわ……」


痛みとかは全くないけど、何かが身体を巡るなんとも言えない感覚がある。

淡い光が収まると、感じていた不思議な感覚もなくなった。

あの感覚はエルが調べてくれてる時の影響だったのかな。



『……検査が終了しました。結果を述べますと、残念ながら、ハルに魔法を使う素質はないようです。』



――素質なし、か……。


残念だけど、仕方ないか。

この世界の人間じゃないもんな。


それにしても、何が基準で魔法を使えるかどうかが分かるんだろう?



「使えないのは残念だけど、仕方ないよ。でも、何が基準で魔法が使えるか、そうでないかが分かるんだ?」


『この世界ですでに分かっている基準ですが、体内マギス保有量が関係しています。

人の平均保有量は80〜120マギスで、多くの人は100前後ですが、この”基準値100”の人々は魔法を扱うことができません。

 魔法を扱うことが可能になるのは、体内マギス量が150以上とありますが、グランテラ大陸の人口の約30%が該当します。また150~300未満のマギス量では生活魔法しか使えません。

 300以上の体内マギス量で、単式攻撃魔法、護身レベルの魔法が可能です。

 体内マギス量が600以上になりますと、複合攻撃魔法が可能なレベルです。

 なお、300マギス以上はグランテラ大陸の人口の約8%、600マギス以上は約1%です。

 また、極稀に1000マギス以上を保持した者も居るようですが、マギス量が膨大なゆえに弊害もあるようです。』



……相変わらず、情報量多すぎだろ……。


聞いたの俺だけど、さすがにざっくりとしか分からない。

一回だけで聞いた内容を覚えられる天才以外無理だって。



「……とりあえず、俺が魔法を使えない大多数に入るのは分かったよ。でも、せっかく教えてくれた内容を、一回聞いただけじゃ覚えられないし、理解もちゃんとできてないかな……ごめんな、エル。」


せっかく教えてくれるエルに、なんだか申し訳ない気持ちになって、一言謝る。


が、エルは気にしないようで明るく答えてきた。

ちょっとした爆弾と一緒に。



『謝る必要はありません、ハル。……ただ、ハルのマギス保有量ですが……一般的な保有量を大幅に下回った、50マギスです。魔素のある異世界に転移したばかりと捉えれば、マギス量が増える可能性はありますが、ハルはもともと魔素を保有できる器がないか、極少量の可能性もあります。』



「えーっと……つまり……?」


『ハルがこの先、基準値100マギス保有量に届かない可能性が非常に高い、ということです。それと、記録の情報から見ても、過去最少マギス量が78マギスのため、ハルの50マギスは極端に少なく、この世界の人間に知られるのは避けるべき事柄と言えます。』


「え……知られるだけでもマズイの?」


『この王国の人間であれば、危険が伴う可能性は限りなく低いですが、他国ではその限りではありません。記録に残っている過去最少の78マギス保有者であった者は、人体実験の末、絶命したという記録が残っています』



「……は?……人体実験……?」



あんまりな情報の内容に、血の気が引く。

ぶるりと身を震わせて、改めてこの世界の恐ろしさを知った。


いや、この世界だけじゃないな。

俺の生まれた時代や国が平和だっただけで、俺がいた世界でも人体実験があったことは知ってる。

こういう事って、どの世界も一緒なんだな……。





恐怖でうつむいてしまうが、少し気持ちが落ち着いて、初めて大木の根元に置かれた存在に気が付いた。


消えたはずの香草だ。

元の形のまま再構成され、静かに並んでいた。

恐怖が消えたわけじゃないけど、気が紛れていくらか気持ちが浮上する。



「……香草が、減ってない?」



『解析に必要な量のみを使用しました。現物への影響は最小限です。』



俺の呟きに気付いたエルが教えてくれる。


ほんと、便利すぎるだろ。

思わず苦笑する。






さて。

気を取り直して、あとは、実際に淹れてみるか。

冷え対策ならロスメルとジンゼルを少量だけど、昨日も今日も結構暖かい。なんなら暑いくらいだ。

食後向けならペルメンタとセリナール。

呼吸器ならティムラを主軸に。

頭の中で、ブレンドが組み上がっていく。




新たな異世界の恐怖心が芽生えてしまったけれど、

……ゲンラートさん。

あんたの店、ちゃんと使わせてもらう。

継ぐんじゃない。

続ける。

俺なりに。




「エル、時間はどれくらい経った?」


『外界では約三分です。』


「よし」


まだ、やれる。


「庭」を出る前に、もう一度だけ中央の大木を見上げる。


ここは、俺の準備室だ。


そして、戻る場所だ。


「……行ってくる」


扉に手を掛けた。













「……って、淹れるって言ったけど、まだ掃除の途中じゃん!」




忘れてたわけじゃないけど、ここでお茶を淹れるにはまだ不衛生だよ!!




次回:第9話「動き出すもの」…少し長めになってます|ู•ㅿ•̀ )

   4月16日(木)20:30公開です。

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